第四十五話
「『扶桑』はどうだ?」
「……浸水が激しいようです。やはり最後の魚雷3本の命中が堪えたようです」
「……そうか……」
近藤は傾斜が酷い『扶桑』を見つつそう呟く。スリガオ海峡での海戦は第三部隊の勝利であった。木村少将の第一水雷戦隊の雷撃によりオルデンドルフ少将の射撃支援部隊は回避する事が間に合わず『メリーランド』に3本、『ウェストバージニア』に5本の酸素魚雷が命中。『メリーランド』は傾斜が酷かったがそれでも一応は沈没する事はなく踏み留まっていたがそれも時間の問題だろう。(実際、海戦後に波間に没する)
だが米軍もしぶとく粘り、生き残っていた数隻の駆逐艦が突撃して『扶桑』に3本の魚雷を命中させたのである。結果的に『扶桑』はこれが致命傷となり大傾斜の末、海戦後の0412に総員退艦が発令されるのであった。
「『山城』はどうだ?」
「多少の被弾はしていますが戦闘に支障はありません」
「ん、なら乗員救助を七駆の駆逐艦2隻に任せる。他は輪形陣を構成しつつレイテ湾に向かうぞ」
「はッ」
近藤の言葉に白石は頷くのである。乗員救助を任された第七駆逐隊の駆逐艦『曙』『潮』は現場海域にて留まり、乗員救助後は後方から追い掛ける事になる。
そしてレイテ湾ではオルデンドルフ艦隊の敗北の報に混乱していた。
「何!? スリガオ海峡に向かったオルデンドルフ艦隊が壊滅しただと!!」
「はい、このままだとジャップはこのレイテ湾に攻め込んでくるでしょう。一先ずは『ナッシュビル』に退避をお願いします」
「断る。私はもうフィリピンを離れんぞッ」
「閣下!?」
「それよりも早く敵艦隊を追い払え。それが君等の使命だろうキンケイド中将」
マッカーサーにそう言われてしまったのならキンケイドも残った艦艇で立ち向かうしかなかった。キンケイド中将は先の海戦から撤退してきた甲巡『ルイビル』乙巡『デンバー』『ホノルル』駆逐艦7隻を再編成しつつ乙巡『フェニックス』を旗艦としレイテ湾の入口に急行したのである。
しかし、キンケイドもシブヤン海から回り込んでくる宇垣中将の第一遊撃部隊をも失念していたのである。
「水平線上にマストが見えます!!」
10月25日0630、それを報告してきたのは第一遊撃部隊の索敵隊形の左翼先頭を航行していた乙巡『矢矧』の見張り員だった。
次いで0645から0648にかけて『大和』見張り員が35キロ先水平線にマストを確認したのである。
「敵は空母です!! 敵空母部隊です!!」
「まさか、ハルゼーの機動部隊か!?」
報告を受けた第一遊撃部隊司令官である宇垣中将は眼を輝かせた。此処で砲撃によりハルゼーの機動部隊を撃破すればレイテ湾突入は更にやりやすくなる。彼はそう判断したのである。しかし、これはサマール島沖で上陸支援を行っていたスプレイグ少将の第77任務部隊第4群第3集団(タフィ3)の護衛空母6隻の艦隊だったのだ。
「五戦隊と七戦隊第二小隊に発令、直ちに突撃せよ!! その支援に第二部隊も突撃せよ!!」
そうは知らない宇垣は高速を利する第二部隊に下駄を預け、自身の第一部隊は砲撃で期する事にした。『大和』『武蔵』は直ちに砲塔を旋回させ砲身をタフィ3に向ける。上空では『隼鷹』から発艦した天山とカタパルト発艦した零観が飛行し着弾観測に移行していた。
「撃ちぃ方初めェッ!!」
0658、『大和』『武蔵』は32号対水上電探改の索敵からの諸元を元に砲撃を開始した。一斉射、18発の46サンチ砲弾は『ガンビア・ベイ』『ホワイト・プレインズ』に3〜5発が命中、徹甲弾だったので非装甲に近い護衛空母の船体を突き抜けたがそれでも破孔からの大量の浸水には船体も耐える事は出来なかったのであり、海戦終了前には波間に没する事になる。
「敵空母2隻炎上!!」
「あれはもう良い……トドメは駆逐艦の魚雷に任せよう。我々は他の空母を狙う」
「はッ!!」
炎上する二空母を双眼鏡で見ていた宇垣はそう判断し『大和』『武蔵』は直ちに遁走する他の空母に照準を合わせるのである。
(しかし……電探射撃も大したモノだな……)
宇垣も思わず感心する程の電探射撃だったがまぁこれはたまたまでありその後の電探射撃は中々当たらないものの至近弾が多くあったりするのである。
そしてレイテ湾の入口では近藤、西村の艦隊はキンケイド中将の残存第七艦隊と砲撃戦を展開していた。
「駆逐艦『若葉』沈降!! 『鬼怒』総員退艦を発令!!」
「『三隈』被弾!!」
GF旗艦『高雄』の艦橋で近藤は火薬の香りを嗅ぎつつ汗を拭い取る。
「正念場……だな……」
「はい、西村中将の第三部隊が突撃していますが……」
近藤の言葉に白石参謀長は重苦しそうに口を開く。西村中将の第三部隊が先に突撃を開始していたが旗艦『山城』は集中砲撃を受けて炎上、それでも尚速度10ノットを維持し砲撃して水雷戦隊の突撃を支援していた。
GF直卒隊も第77任務部隊第3群と戦闘をしており第五巡洋隊の『オーストラリア』『シュロップシャー』と砲撃戦を展開していた。
「だが……そろそろか……」
近藤は腕時計を見て呟く。それは何かを待つ姿勢だった。それは更に8分の時が経過し駆逐艦『浦波』が轟沈した時だった。
「た、対空電探に反応有り!! レイテ島方面からの航空機です!! 数は約100です!!」
「長官……」
「……………」
白石参謀長の言葉に近藤は黙っていた。しかし、続報が入ってきた時は通信兵だった。
「先程の航空機は味方です!! 二航艦からの攻撃隊です!!」
通信兵の報告に艦橋は歓喜の渦に溢れた。接近してきたのは第二航空艦隊からの攻撃隊であり零戦60、彗星25機、九九式艦爆12機、銀河20機であった。彼等は残存第七艦隊の上空に到着すると一斉に急降下を開始したのである。
「敵機直上ォォォォォォォ!!」
「回避だ回避!!」
この急降下爆撃で甲巡『オーストラリア』乙巡『フェニックス』が大破し駆逐艦3隻を撃沈するが残存第七艦隊を混乱させるには十分だった。
「今だ!! 突っ込めェェェェェェ!!」
第三部隊旗艦『山城』の艦橋で負傷していた西村中将は好機と判断し突撃を発令、第三部隊の艦艇は狼の群れの如く残存第七艦隊に殺到し撃沈させていくのである。第七艦隊司令長官のキンケイド中将はそれでも追い縋ろうとしたが『鳥海』が放った20.3サンチ砲弾が艦橋に命中、キンケイド以下全員が戦死しこれが『フェニックス』の致命傷となったのである。
残存第七艦隊は完全に敗走状態となりレイテ湾は開いた状態となったのである。そして第三部隊とGF直卒隊はレイテ湾に侵入しレイテ島東岸のタクロバン等を照準に収めた。その周辺海域には大量の上陸船団が展開していたのである。
「長官ッ!?」
「全艦に打電せよ!! 『天佑ヲ確信シ、全軍突撃セヨ』!! 全艦、砲雷撃戦用意!!」
「全艦砲雷撃戦用意!!」
「突撃ィィィィィィィィ!! 全艦、蹂躙せよ!!」
第三部隊とGF直卒隊は突撃を開始した。まだ動いていた第三部隊旗艦『山城』は残っていた前部2基の35.6サンチ連装砲を上陸船団に指向し砲撃を開始する。
「距離350!!」
「全艦統制水雷戦始めェェェェェェッ!!」
『酒匂』以下第三水雷戦隊はこれまで温存していた酸素魚雷をぶっ放した。距離3500から放たれた酸素魚雷はほぼ外れる事なく上陸船団に次々と水柱を吹き上げさせたのである。
「上陸船団を粗方片付けたら上陸地点とその周辺を艦砲射撃だ。奴等の頭上に三式弾を喰らわせてやれ!!」
砲雷撃戦で上陸船団を炎上させた第三部隊とGF直卒隊は砲身をレイテ島の海岸に向け砲撃を開始したのである。
「閣下、直ちに避難を!! 奴等、洋上から艦砲射撃を行っています!!」
「お、お、おのれ……ジャップめがッ!!」
部下からの報告にマッカーサーは思わず自身のトレードマークであるコーンパイプをへし折る程であった。しかし、マッカーサーは退避中に三式弾の直撃を受け戦死するのである。
その他にも第96師団の師団長ブラッドレー少将も三式弾の艦砲射撃で全身火傷を負い、戦死するのである。
マッカーサーは確かにフィリピンに帰ってきた。しかし、それは死地に招かれてしまうのであった。そして海軍の活躍を見ていたのは米軍だけではなくレイテ島守備隊の第16師団も見ていたのである。
「やったぞ!! 海軍さんが来てくれたぞ!!」
「海軍がやったのなら俺達も奴等を水際まで追い落としてやる!!」
「そうだ!! 海軍の努力を無駄にはするな!!」
第16師団の将兵達は勇気づけられその後も同島を死守する事になる。上陸船団のほぼを壊滅させた第三部隊とGF直卒隊であるが、第一遊撃部隊と第二遊撃部隊はまだ到着していなかった。
否、彼等は足止めを食らっていたのだ。彼等はスプレイグ少将の護衛空母部隊を全滅させた後、リー中将の戦艦部隊と艦隊決戦を行っていたのである。
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