第三十七話
「米軍がビアク島に上陸しました」
「ん。予想通りだな」
白石参謀長からの報告に近藤は頷く。5月27日に米軍はビアク島に上陸を開始した。しかし、ビアク島にいた日本陸軍守備隊はソロンに撤退していた事もあり同島を無血占領した。
(奴等め……まさかフィリピンに閉じ籠もるつもりじゃないだろうな……?)
報告を聞いたマッカーサーはコーンパイプを握り締める。彼がやる事は自身の権益等を持つフィリピンに戻る事である。だが、実際にはマッカーサーの予想通りに陸軍はフィリピンに戦力を集中させており持久戦の構えを見せるのである。
ビアク島を占領した米軍であるがソロンに後退していた陸軍第七飛行師団(司令部はアンボンに移動)がビアク島に連日に渡り爆撃を敢行、マッカーサーは日本軍がビアク島奪還を目論んでいると予測を立てるもそれは後に空振りとなる。
第七飛行師団は敵がビアク島に集中させる為の陽動であり本命はマリアナ諸島——サイパン島等であったのだ。そして6月11日、スプルーアンス中将の本隊より先行していたミッチャー中将の第58任務部隊の3個機動群がサイパン島を空襲した。
しかし、彼等を待ち構えていたのは第341航空隊(『紫電改二』72機)第343航空隊(『紫電改二』72機)第345航空隊(『紫電改二』36機 零戦36機)第361航空隊(『紫電改二』36機 零戦36機)の海軍航空隊と陸軍飛行第五戦隊(『飛燕改』36機)と飛行第十七戦隊(『飛燕改』36機)であった。
「馬鹿な!? ジャップにまだこれだけの戦闘機がいたのか!!」
『助けてくれトム!! ジークに後ろを取られた!!』
「馬鹿野郎マーク!! ジークなんぞヘルキャットの敵ではないぞ!!」
『違う、このジークは速——』
「マーク!?」
サイパン島の上空は激しい空戦を展開していた。サイパン島を攻撃しようとしていた米攻撃隊は合計360機の陸海軍の戦闘機に阻まれていた。F6Fヘルキャットは味方のSBCヘルダイバーやTBFアベンジャーを守ろうとするがあっという間に『紫電改二』や零戦隊に撃墜されヘルダイバーやアベンジャーも落とされていくのである。
「オラオラ!! さっさと落ちやがれ!!」
『紫電改二』を操縦する343空301戦闘隊隊長の菅野大尉はこの日3機目のTBFアベンジャーを撃墜し後方からの銃撃を避けつつ右フットバーを蹴飛ばし回避飛行をする。菅野機を銃撃したのはF6Fであり菅野は反転して銃撃を加えようとしたがそのF6Fの後ろからスッと『紫電改二』が忍び寄り銃撃を加えて撃墜したのである。
『隊長、1機頂きました』
「おぅ笠井か。助かったぞ」
烈機の笠井上飛曹の報告に菅野は笑みを浮かべつつ上昇をするのであった。
「何!? 160機余りもやられたのか!!」
「はい。第一次攻撃隊で帰還出来た機は僅か60機程度です」
第58任務部隊司令官のミッチャー中将は損害の報告に顔を歪ませる。
「クソ、早まったか……」
ミッチャー中将はマリアナ攻略を早まったかもしれないと認識した。確かに米第五艦隊は正規空母7隻、軽空母8隻を揃えた機動艦隊であった。しかし、パイロット達は漸く満足な攻撃の練度を持ち始めたところなのだ。
「イカン、このままでは第二次攻撃隊もやられるぞ!! 直ちに反転帰還命令を出せ!!」
ミッチャー中将はそう指示を出すも通信参謀から返ってきた返答は最悪のモノであった。
「司令、第二次攻撃隊もサイパン島沖合で待ち伏せに合い混戦模様です!!」
「ググッ……やはりアドミラル・コンドーか!?」
ミッチャー中将はそう叫ぶしかなかった。全ては近藤が仕組んだ策であるとミッチャーは理解したのだ。
結局、第58任務部隊が繰り出したは二波の攻撃隊は354機も喪失するのである。対してサイパン島の航空隊も52機を喪失する程であった。報告を受けたスプルーアンスは直ちにマーシャル諸島に待機していた護衛空母群から増援用の航空機を出させ再度サイパン島を攻撃するも結果は同じであった。
「フム……サイパン島は我々が想定していた以上の堅固であるな」
「しかし長官、我々の任務はサイパン島の攻略です」
「分かっているさ参謀長。しかし、補充の機もあるがパイロットの練度がな……」
参謀長であるムーア大佐の言葉にスプルーアンス中将は顔を歪ませる。スプルーアンス中将もパイロットの練度の件は聞いていたがそれでも使わざるを得ないと認識していた。
「長官、此処は多少は無理をするべきかと思われます。サイパン島を占領すれば航空基地は使用可能です。ガダルカナル島の再現をすれば良いのです」
「ム、それは分かるがな……」
そうは言うスプルーアンス中将だったが結局はサイパン島占領の任務があるので引き続きの攻撃を行うしかなかったのである。
そしてその頃の聯合艦隊はタウイタウイ泊地からフィリピンのギマラス泊地に移動、6月15日にギマラス泊地を出撃し聯合艦隊は2個艦隊に分離したのである。
山口中将の第一機動艦隊は西進しつつ高速偵察機『彩雲』を盛んに飛ばしつつスプルーアンス中将の第五艦隊を捜索するのである。
6月19日、スプルーアンスはグアム島の航空基地殲滅を図るために二波の攻撃隊を出した。しかし、グアム島には第301航空隊(零戦54機)と第201航空隊(零戦72機)陸軍飛行第51戦隊(『疾風改』36機)が展開しており二波の攻撃隊はグアム島の航空基地殲滅が出来なかったのである。
そして再度、第一機動艦隊から発艦した『彩雲』が遂に米第五艦隊を発見したのである。
『サイパン島西部、約300キロノ海域ニ敵機動艦隊発見ス0630』
『彩雲』が放った電文は旗艦『高雄』でも受信していた。
「長官……」
「ん。無線封止解除、第一機動艦隊に打電だ」
「ハッ!!」
直ちに旗艦『高雄』はただ短い電文を発した。
『Z』
電文を受信した第一機動艦隊旗艦『大鳳』の飛行甲板には第一次攻撃隊の準備を整えていたのである。
「山口長官!! 旗艦『高雄』より『Z』の電文を受信しました!!」
「よし……『Z旗』を揚げろ!!」
旗艦『大鳳』に『Z旗』が掲げられ第一次攻撃隊の発艦を発令したのである。
「往くぞォォォォォォォォォ!! 第一次攻撃隊全機発艦!! 始めェェェェェェェェェェェェ!!」
各空母の飛行甲板で待機していた第一次攻撃隊はプロペラを回し始め発艦を開始したのである。
第一機動艦隊
司令長官 山口多聞中将
参謀長 古村啓蔵少将
航空参謀 淵田大佐
旗艦
『大鳳』
第一航空戦隊
『大鳳』
【『烈風』54機 『彩雲』12機】
『飛龍』
【零戦60機 『彩雲』3機】
第二航空戦隊
『翔鶴』
【『烈風』72機 『彩雲』6機】
『瑞鶴』
【『烈風』72機 『彩雲』6機】
第三航空戦隊
『雲龍』
【零戦27機 『天山』27機『彩雲』3機】
『天城』
【零戦27機 『天山』27機『彩雲』3機】
第五航空戦隊
『加賀』
【『烈風』72機 『彩雲』6機】
『鳳鶴』(元『ホーネット』)
【『烈風』72機 『彩雲』6機】
第六航空戦隊
『葛城』
【零戦27機 『天山』27機『彩雲』3機】
『笠置』
【零戦27機 『天山』27機『彩雲』3機】
第一防空戦隊
『千歳』
【零戦27機 『天山』3機】
『千代田』
【零戦27機 『天山』3機】
第八戦隊
『利根』『筑摩』
第十一戦隊
『駿河』『常陸』
第十三戦隊
『石狩』(元『ヒューストン』)
第十四戦隊
『穂高』(元『ホバート』)『天塩』(元『ボイシ』)
第一護衛戦隊
『五十鈴』『名取』
第二護衛戦隊
『長良』『阿武隈』
第六十一駆逐隊
『秋月』『照月』『涼月』『初月』
第六十二駆逐隊
『新月』『若月』『霜月』『冬月』
第六十三駆逐隊
『春月』『宵月』『夏月』『満月』
第十駆逐隊
『夕雲』『巻雲』『風雲』『秋雲』
第十七駆逐隊
『浦風』『谷風』『磯風』『浜風』
『烈風』342機 零戦222機
『天山』114機 『彩雲』51機
第一艦隊(前衛)
司令長官 宇垣纏中将
参謀長 松田千秋少将
旗艦
『大和』
第一戦隊
『大和』『武蔵』『長門』『陸奥』
第七戦隊
『最上』『三隈』『鈴谷』『熊野』
第一水雷戦隊
『阿賀野』
第六駆逐隊
『暁』『響』『雷』『電』
第七駆逐隊
『曙』『漣』『潮』
第十八駆逐隊
『陽炎』『不知火』『霞』『薄雲』
第二十一駆逐隊
『初春』『初霜』『若葉』
第二防空戦隊
『瑞鳳』
【零戦27機 『天山』3機】
『龍鳳』
【零戦27機 『天山』3機】
零戦54機 『天山』6機
第一次攻撃隊
指揮官 新郷少佐
『大鳳』『翔鶴』『瑞鶴』『加賀』『鳳鶴』
『烈風』342機
『彩雲』9機
凡そ350機の戦闘機と偵察機しかいない第一次攻撃隊は第一機動艦隊から発艦し第五艦隊へ向かうのである。
「ヤップ島の攻撃隊と『烈風』隊はどうした?」
「既に離陸したとの事です」
「ん。なら此方も第二次攻撃隊の発艦準備だ」
「分かりましたッ」
「しかし……近藤長官の発想は面白いですな」
「あぁ……元は山本元帥の言葉で思い付いた事らしい。山本元帥は空母は海上の航空基地であると言っていたからな」
「成る程。山本元帥らしいです」
山口の言葉に古村参謀長は頷く。そこへ航空参謀の淵田大佐が艦橋に入ってきた。
「長官、皆の士気はええところです」
「そうか。今回の攻撃の主力は戦闘機と基地航空だからな。士気が高いなら良い事だ」
「ホンマですよ」
山口中将の言葉に頷く淵田である。第一機動艦隊は忙しく発艦準備に取り掛かるのであった。
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