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第三十三話






「大統領、間もなくオアフ島です。真珠湾も見えるでしょう」

「あぁ、そのようだな」


 1943年11月1日、第32代アメリカ合衆国大統領のフランクリン・D・ルーズベルトは飛行機にてオアフ島を訪れた。此処で米軍の侵攻作戦の大筋を決定するためであった。

 その後、ルーズベルトは海軍の航空隊格納庫にて陸軍側の代表であるダグラス・マッカーサー陸軍大将、海軍作戦部長キング海軍大将、米太平洋艦隊司令長官ニミッツ海軍大将らと協議を開始した。


「イギリスに取っての脅威はドイツだけでは無くなった。日本軍のインド洋再侵攻に盟友チャーチル首相から日本軍を太平洋方面に釘付けしてほしいとの事だ。そこで現在、我々は南部ソロモン諸島までの確保に成功している。此処からトーキョーまでの道のりは2つある。海軍主体の中部太平洋侵攻か陸軍主体の南部太平洋侵攻かになる」


 ルーズベルトがそこまで言った時、席を立ち上がったのはマッカーサーだった。


「分かりきった事です大統領!! 私、マッカーサーの下で指揮権を集中しない限り、ジャップは向こう100年は太平洋を手中に収めるでしょう」


 マッカーサーはそう言って太平洋の地図があるスクリーンに手をやる。


「ニューギニアから制空権を確保し島伝いに進攻してフィリピンへ……そこから台湾、沖縄へ進めば、資源がある南方地帯を遮断し資源輸送は奴等は出来なくなる。これでジャップの息の根を止める事が可能です!! また、フィリピン及びその周辺は我が合衆国に取って友好的な地域でありジャップからの解放は道義的義務でもあるのです!!」

「……それは君個人に取ってではないのかね将軍?」


 そう捲し立てるマッカーサーにボソリと呟いたのはキング作戦部長であった。


(父親の代から多くの利権を有しているフィリピンはいわばマッカーサーの王国だ)


 キング作戦部長はフンと鼻を鳴らして睨みつけているマッカーサーから視線を逸らすのである。それを横目で見つつルーズベルトはニミッツ大将に視線を向けた。


「海軍はどうかねチェスター?」

「はっ。現在、太平洋艦隊は再建途中であります。後1年、後1年待てば太平洋艦隊は万全の陣容で戦えます。それまでは日本軍の疲労を誘うのが良策だと思われます」

「それは反対だ」


 ニミッツ長官の言葉にキング作戦部長はそれを否定し指揮棒を地図に向ける。


「合衆国はヨーロッパ戦線に入れあげるあまり太平洋を疎かにし過ぎています。そしてマリアナ諸島を占領すれば開発中のB-29爆撃機のトーキョーを含む日本本土空襲を可能となるのです!! フィリピンからでは爆撃圏内はキューシューのみです!! つまり、ジャップを早期に降伏に追い込む事が可能となるのです!! 僅かな損害だけで日本を屈服させるにはマリアナ諸島の占領は是が非でもやるべきです」

「キング作戦部長、フィリピンを素通りすればアジアの人々はアメリカに失望するだろう。そして、捕虜収容所にいる何万もの味方を見捨てる事になる!! キング作戦部長は合衆国の名誉と歴史に傷をつけたいようだな」

「…………………」


 睨みつけるマッカーサーにキングは何も言えなかったが不意に口を開いたのはルーズベルトだった。


「結論を出さねばならん時が来たようだな諸君」

『……………………』

「諸君……我々が疎かに出来ないものは時間と資源、そして国民の命だ。我々は急がねばならない」

「大統領!!」

「合衆国は先にマリアナを目指すッ」


 ルーズベルトはそう明言した。


「マリアナを抑える頃にはB-29も大量に揃うだろう。マリアナから日本本土を空襲しつつフィリピンの奪回にも移行する。これで良いかなダグ?」

「……分かりました。しかしながら、B-29の爆撃は先に仕掛けても良いのでは?」

「B-29を?」


 マッカーサーの言葉にルーズベルトは目を細める。今の時点でのB-29の生産は80機程であったが飛行トラブルが続いていた事もあり飛行可能なのは20機前後であった。


「発進基地予定のチャイナの成都の飛行場は今はまだ建設中ですが無茶をすれば15機前後の攻撃は可能です。チャイナから本土を空襲すればジャップは大陸に目を向けてマリアナの警戒も薄れるのではないですかな?」

「フム……」


 マッカーサーの言葉にルーズベルトは思案する。確かにB-29は飛行トラブル続きであり議会でも「B-29を生産する意味はあるのか?」と言われたりしていたのだ。ルーズベルトもB-29の積極的運用を考えていたのでマッカーサーの提案は良案に思えたのである。


「宜しい。その案でいこう」

「大統領、ですが……」

「多少の損失は構わない」


 ルーズベルトはそう決断するのである。直ちにルーズベルトの命令は成都に進出したばかりの第20空軍に日本本土爆撃の命令が伝えられるのである。








「やっとこさの再就役か」

「まぁ開戦時の優先目標でしたからね」


 12月1日の柱島泊地、師走の中にあるこの泊地に2隻の戦艦が新たに到着し錨を降ろしたのである。それは戦艦『駿河』と『常陸』であった。但し、この2隻は海軍が建造した戦艦ではない。それは開戦初期に英東洋艦隊に配備されたものの、停泊していたシンガポールで小沢中将の機動部隊の航空攻撃を受けて大破横転しそのままシンガポール攻略時に接収され今の今まで修理と改装をしていた『プリンスオブウェールズ』と『レパルス』であった。接収時、損傷具合からそのまま解体して資材にした方が良いのでは?という声もあったが機動部隊の護衛役を兼ねるのであれば役に立つと近藤や山本が主張しそれが通ったのである。






 戦艦『駿河』(元『プリンスオブウェールズ』)


 基準排水量 42,000トン

 全長 237m

 最大幅 33m

 主缶 ロ号艦本式重油専焼水管缶×8基

 主機 艦本式タービン×4基

 出力 120,000馬力

 最大速度 29.8ノット

 武装 45口径41サンチ三連装砲2基

    同連装砲1基

    45口径12.7サンチ連装両用砲10基

    25ミリ三連装機銃8基

    同単装機銃50基

    12サンチ30連装噴進砲改二6基


 【概要】


 日本海軍が開戦初期に鹵獲した英戦艦『プリンス・オブ・ウェールズ』を改装し日本海軍に編入した戦艦。開戦初期のシンガポール攻撃でセレター軍港に停泊していた『プリンス・オブ・ウェールズ』(以後『POW』)は同じく停泊していた『レパルス』と共に被弾、大破横転した。その後のシンガポール攻略時に接収され浮揚、工作艦『朝日』『明石』『三原』の大規模修理が行われたのである。この修理では日本までの回航が最優先だった事もあり取り敢えずの回航は『レパルス』と共に成功しそれぞれ、呉と大神にて改装が施されたのである。なお、大破横転時に『POW』が搭載していた主砲は全てシンガポール防衛に配備される。

 武装は35.6サンチ砲では力不足と判断され『長門』型が搭載する45口径41サンチ砲であるが四連装砲だった箇所は三連装砲にし二番砲は連装砲にするという混在にしていた。混在にしたのは改装に時間を掛けたくない艦本側の理由もあった。

 航空兵装は全て外され埋め込み式カタパルトも撤去された。そこに両用砲2基を増やし機銃と噴進砲を設置したりする。

 また艦首も凌波性が劣っていたので『長門』型の艦首を元に作成、それに合わせて艦首方向も延長された。

 機関は全て海水に浸かっていた事、機関室も魚雷攻撃で破壊された事もあり日本式に全て交換されたのであるがこの時に艦尾方向の幅は増加され両舷にバルジを装着したので復元性は何とかマシになったのである。

 なお、主力部隊に配備予定だったが高速もあった事、近藤の方針により機動部隊配備となるのである。







 戦艦『常陸』(元『レパルス』)


 基準排水量 34,000トン

 満載排水量 39,000トン

 全長 242m

 主缶 ロ号艦本式重油専焼水管缶×8基

 主機 艦本式タービン×4基

 出力 120,000馬力

 最大速力 32.2ノット

 航続距離 7,800キロ

 兵装

    45口径35.6サンチ連装砲×3基

    45口径12.7サンチ連装両用砲×8基

    25ミリ三連装機銃×6基

    25ミリ単装機銃×40基

    12サンチ30連装噴進砲改二4基


 【概要】


元はイギリス海軍が開発建造配備した巡洋戦艦『レナウン』級二番艦『レパルス』である。開戦劈頭のシンガポール奇襲攻撃によりセレター軍港に停泊していた『POW』と共に攻撃され大破横転した。そしてシンガポールを占領された時に『POW』と共接収され工作艦『明石』『三原』『朝日』で緊急修理され内地に回航された。

 主砲は38.1サンチ砲は日本海軍は開発していないので『扶桑』型や『伊勢』型の改装で余って倉庫に保管されていた35.6サンチ砲を搭載する事になる。







「2隻は機動部隊配備だな」

「例の噴進砲ですか?」

「主力部隊の配備も良かったが『駿河』は三連装砲搭載だから散布界が気になると宇垣も言っていたし、噴進砲も搭載しているからそれなら機動部隊配備のが吉かもしれんしな」


 白石の言葉に近藤はそう答える。2隻は対空兵器の一つとして12サンチ30連装噴進砲改二を搭載していた。これは史実における12サンチ30連装噴進砲の更なる改良型であり斉射時における後方ブラスト対策や再装填等の改良を施した改二であった。何れは全艦艇に搭載予定であるが今は2隻に搭載されていたのである。


(頼むぞ……)


 そう思いながら2隻を見る近藤であった。










 そして12月24日済州島、此処に設置されたイ式281型対空電探(元は『POW』に搭載されていたType281レーダーであり接収後に回収され捕虜のイギリス軍兵士から操作方法を聞き運用していた)が大陸側から接近してくる爆撃隊を探知したのである。


「直ちに大村の局戦隊に迎撃命令を発令せよ!!(まさか……来たというのか……)」


 柱島泊地で報告を聞いた近藤は背中がヒヤリと冷たく感じていた。近藤の予想が当たっていれば接近してくるのは……。


「報告!! 敵機は大型爆撃機約20機です!!」

(来るか……B-29……)







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