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第三十二話








 1943年(昭和18年)9月30日、この日閣議及び御前会議にて「今後採ルヘキ戦争指導ノ大綱」に「帝国戦争遂行上太平洋及印度洋方面ニ於テ絶対確保スヘキ要域ヲ千島、小笠原、内南洋(中西部)及西部「ニューギニア」「スンダ」「ビルマ」ヲ含ム圏域トス」と定められたものーー『絶対国防圏』が設定された。


「マリアナの防備は進めんとなぁ……」


 柱島泊地に停泊するGF旗艦『高雄』の作戦室で近藤は地図を見ながらそう呟く。既に海軍はギルバート・マーシャル諸島からの撤退を開始しているが偽装工作として各飛行場の滑走路にはヤシの木等で作った航空機や故障して解体されるのを待つ航空機を置いたりしている。米軍も高高度偵察でそれを確認し米太平洋艦隊司令部も兵力を増強していると認識していた。

 なお、この撤退でギルバート諸島からは約5300名弱、マーシャル諸島からは約20000名弱の陸戦隊や陸軍部隊が撤退しマリアナ諸島のサイパン島やテニアン島、グアム島等に再配備されるのである。

 そしてマリアナ諸島も防備は進められていた。サイパン島は当初は第五根拠地隊を主力にした陸戦隊約4000名弱であったが工兵隊等の到着で陣地化が進められていた。また、大本営もマリアナ諸島の防備を重要視していたがどの師団を出すかで揉め、漸く10月2日に都合6個師団がマリアナ・パラオ諸島に配備が決定された。そのうちの3個師団はニューギニア戦線で戦闘し内地で再編成中であった第20師団、第41師団、第51師団であった。

 これらを指揮するために第31軍も創設され、第31軍の兵力をマリアナ諸島やパラオに輸送される事になりそれを担当したのが聯合艦隊と海上護衛隊であった。


「第三十一戦隊は当然として何とか2個水雷戦隊は出す」


 近藤は新編成された『阿賀野』を旗艦とする第一水雷戦隊、『能代』を旗艦とする第三水雷戦隊と『由良』を旗艦とする第三十一戦隊を輸送船団の護衛に派遣した。海上護衛総隊も第一海上護衛隊と第二海上護衛隊が主力になって輸送を行う事になっていた。

 また、航空隊も海上護衛隊所属の第901航空隊、第902航空隊等も参加し米潜水艦を警戒するのである。マリアナ・パラオ方面への兵力増強輸送ーー『松輸送』が実施されるのである。この『松輸送』には輸送船が合計139隻も運用される事になる。

 それにも理由は有り、特に主戦闘地域となるマリアナ諸島のサイパン島には第41師団と第43師団の2個師団と1個戦車連隊に1個独立旅団、グアム島には第29師団に2個独立旅団等を輸送する予定でありだからこそ近藤の発言であった。

 実際に陸軍は元より護衛を担当する海上護衛総隊も近藤がGFの艦艇を彼等が想定した以上に派遣してくれたおかげで輸送の効率は良くなったし海上護衛総隊も聯合艦隊には好意的に見てくれるようになったのである。


「ま、そこは嬉しいところだが……だからと言って今これを出すか……?」


 近藤は大本営を通して陸軍からもたらされた計画書を見て溜め息を吐いた。計画書には『インパール作戦』と記載されていた。

 ドイツがエジプトを占領し日独伊の航路が開けた事で南方軍の中でインド攻略の声が出てきて海軍にも要請したのだ。


「ドイツ軍は中東に軍を派遣しエジプトから逃げたイギリス軍と戦っている。我々もビルマ側からインドに侵攻して挟み撃ちをする」

「インドを攻略すればイギリスは必ず連合国から離脱する」


 そう言った声に押されて南方軍は参謀本部にインド攻略である『武号作戦』を提出していた。しかし、南方軍の中でも明確に反対をしていたのが第18師団長の牟田口中将であった。史実でも初期はインド侵攻等反対していた牟田口であったがこの時期でも明確に牟田口は反対していたのだ。

 それは自身がイギリス軍から攻撃されていた事も原因があった。昭和18年2月13日、ウィンゲート少将のチンディット旅団がビルマでゲリラ戦を展開した。第18師団配下の歩兵第55連隊からの報告を受けた牟田口は現地視察として護衛等を率いて視察をしようと向かっていた時にたまたまそのチンディットの部隊と遭遇、多数の死傷者を出しながらも何とか離脱に成功した牟田口は「英軍侮り難し。ドイツ軍と互角に戦えるだけはある」とそれまでの評価を変えていた。だからこその牟田口は反対し続けていたのだ。


(牟田口が反対し続けているのは予想外だが……)


 だが近藤はこれを逆手に取る事にした。近藤は新編されたばかりの第13航空艦隊に命じて航空偵察を実施しその報告書を元に参謀本部に『武号作戦』の反対と1個機動部隊によるカルカッタ、チッタゴン等への航空攻撃を具申したのである。


「航空偵察の結果、ビルマからインドに向かうのは道中にある2000メートルから3000メートル級の山々が阻んでおり非常に困難である。故に陸軍はガダルカナル島の再来を望んでいるようにしか見えない。陸路からインドを攻略するのではなく、海路からカルカッタ、チッタゴン等の航空基地や施設等を航空攻撃、破壊しイギリス軍のビルマ侵攻を食い止める事を提案するとの事です」


 近藤の使者として白石参謀長が参謀本部に派遣され東條らにそう具申する。対して東條らも頷いたのである。


「成る程。我々もガダルカナル島の再来を望んではいない。改めて協議しよう」


 東條はそう言って確約したのである。実は東條ら上層部も『武号作戦』には消極的であったのだ。その為、海軍(近藤)からの具申に東條らも形式的には取り敢えずの協議をと言い、内面では安堵の息を吐いていたのである。なので東條達も『武号作戦』に乗り気な若手の馬鹿な参謀達に喝を入れて結局は海軍(近藤)の具申を採用する事になるのであった。






「角田の第二機動部隊で一暴れをしてもらう」

「分かりました。お任せ下さい」


 近藤の言葉に角田は頷く。昭南シンガポールで航空隊の錬成を行っていた第二機動部隊は出撃準備をしていた。第二機動部隊は旗艦を『加賀』のままであったが多少の変化をしていた。




 第二機動部隊

 司令官 角田中将

 参謀長 市丸少将

 旗艦『加賀』


 第四航空戦隊

 『隼鷹』

 【零戦18機 彗星18機 天山18機】

 『飛鷹』

 【同上】

 第五航空戦隊

 『加賀』

 【零戦27機 彗星27機 天山27機 彩雲3機】

 『雲龍』

 【零戦24機 彗星18機 天山18機】

 第六航空戦隊

 『葛城』

 【零戦24機 彗星18機 天山18機】

 『笠置』

 【同上】

 第八航空戦隊

 『鳳鶴』(元『ホーネット』)

 【零戦27機 彗星27機 天山27機 彩雲3機】

 『龍驤』

 【零戦18機 彩雲15機】

 第一戦隊第二小隊

 『長門』『陸奥』

 第二戦隊第二小隊

 『伊勢』『日向』

 第七戦隊第二小隊

 『鈴谷』『熊野』

 第一護衛戦隊

 『五十鈴』『名取』

 第七駆逐隊

 『朧』『潮』『漣』『曙』

 第二十七駆逐隊

 『有明』『夕暮』『白露』『時雨』

 第六十一駆逐隊

 『秋月』『照月』




 第二機動部隊には新しく四航戦と鹵獲して改修していた『ホーネット』もとい『鳳鶴』が参戦した。これまで四航戦は角田と共にインド洋に出撃して日独航路を切り開いた立役者でもある。角田も馴染みのある部隊があるのは嬉しいだろうという近藤の配慮でもあった。

 それは兎も角として第二機動部隊は10月15日に昭南を出撃しマラッカ海峡を通過してインド洋に躍り出たのである。第二機動部隊がチッタゴンとダッカを同時攻撃したのは昭南を出撃してから3日後の10月18日であった。


「南方向から敵航空機の反応だと!?」

「まさかジャップだと言うのか!!」

「ウィンゲートの作戦がバレたという事か!? 直ちに戦闘機を出せ!!」

「今やっている!!」


 両方の英軍航空基地は慌ただしく動き出す。しかし、両基地に押し寄せた第二機動部隊の航空機は200機は超えていた。しかもチッタゴンには第二機動部隊の攻撃隊とは別にラングーンから出撃した第五飛行師団と第七飛行師団の『隼』84機、九九式軽爆48機、百式重爆『呑龍』36機が第二機動部隊への航空支援として離陸しておりダメ出しに近かった。

 結果としてダッカ、チッタゴンの航空基地は第二機動部隊と陸軍飛行師団の攻撃で壊滅したのである。しかし、英印軍も意地を見せた。

 第二機動部隊がカルカッタを攻撃したがカルカッタの航空基地はカタリナからの報告で第二機動部隊の位置を割り出し先に攻撃隊を出したのである。


「凡そ100機前後の攻撃隊が向かって来ます!!」

「……英印軍の意地か……対空戦闘用意!! 出せれる零戦は全て出せ!!」


 第二機動部隊は英印軍攻撃隊が第二機動部隊に到着する前に零戦65機を発艦させる事に成功する。しかし、英印軍攻撃隊は味方機が撃墜されようとも物ともせずに進撃し第二機動部隊を攻撃したのである。


「『龍驤』に敵機が!?」


 『龍驤』にブレニム爆撃機が数機襲い掛かるも『龍驤』はその高速を活かして回避していた。しかし、正面から来るブレニム爆撃機には一瞬の間があった。


「取舵一杯!!」


 『龍驤』はその爆弾を回避した。しかし、その爆弾はまだ爆発していなかった。一瞬の間がある遅発信管を有した爆弾であったのだ。


「舵故障!!」

「クソッタレ!!」

「左舷より雷撃機!!」


 左舷からブリストルボーフォート雷撃機3機が迫ってきたのだ。しかし、零戦2機が対空砲火の被弾をも覚悟して低空に舞い降りてボーフォート雷撃機2機を撃墜したのである。

 だが、残っていた1機は魚雷を投下。『龍驤』は左舷中央に魚雷1本が命中したのである。更に『飛鷹』にも500ポンド爆弾3発が命中したが英印軍の攻撃はそこまでだった。

 零戦隊の猛攻には耐えきれなかったのだ。これによって英印軍攻撃隊は引き上げ、第二機動部隊は何とか窮地を脱したのである。


「『龍驤』は持ちそうかね?」

「魚雷が1本だけだったのが幸いです。舵故障なので曳航する必要はありますが……」

「カルカッタの航空基地も叩いたので送り狼は来ないだろう。『龍驤』は『日向』に曳航させよう」


 第二機動部隊は『龍驤』『飛鷹』が損傷しただけでベンガル湾周辺の英軍基地及びその施設を叩いたのである。更に第二機動部隊は攻撃の手を広げてインパール方面の英印軍を攻撃しその戦力を低下させる事に成功したのである。

 この一連に渡る攻撃で危機感を覚えたのは他ならぬイギリス総理大臣のチャーチルであった。


「イカン。このままではまたインド国内でサボタージュが起きる」


 所謂『B作戦』に該当する『インド洋作戦』で角田中将の機動部隊等がインド洋を荒らし回った時、インドも独立の機運が高まりインド国内でサボタージュがあちこちで発生したのだ。

 今は何とか抑え込んでいるがいつサボタージュが発生して終いには反乱にでも発生したら取り返しがつかない事になるのはチャーチルも分かっていた。

 だからこそアメリカに更なる支援を求めたのである。







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