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第二十九話






 日本陸海軍は協力してニューギニア戦線からの撤退を2月の下旬から開始していた。そして3月1日にはラエ・サラモア等に展開していた陸軍の堀井少将の南海支隊や1個独立混成旅団等は撤退の為ラエから輸送船4隻、一等輸送艦4隻、二等輸送艦3隻に収容され護衛の第三水雷戦隊と再編成中だった第五水雷戦隊も急遽参加する事になった。上空警戒にはツルブからの陸軍飛行戦隊とラバウルの零戦隊が当たる事になっていた。

 しかしながら3月3日の上空警戒の一瞬を突かれ、ポートモレスビーから離陸した敵爆撃隊がダンピール海峡へ退避する船団を攻撃、船団最後尾にいた一等輸送艦2隻、二等輸送艦3隻が撃沈され堀井少将も戦死するのである。それでも撤退作戦は続けられ4月上旬までにはニューギニア戦線の日本軍は撤退が完了するのである。

 しかし、この撤退作戦において海軍は一等輸送艦4隻、二等輸送艦5隻を喪失してしまい一時的に海軍は揚陸機能を持つ艦を持たなくなってしまう。一応、内地には一等輸送艦7隻、二等輸送艦11隻が完熟訓練中なのと一等輸送艦12隻、二等輸送艦25隻が建造中ではあるが一時的に使用不能なのは事実である。


「輸送艦が一時的に使用不能なのは仕方ない。しかし、ニューギニアからの撤退は成功だ。それは喜べる」


 作戦を聞いた近藤もそう手放しではないが頷くのであった。4月上旬、米軍はブーゲンヴィル島等の攻撃を強めていた。ガダルカナル島から飛び立った米爆撃隊が『ウォッチタワー作戦』の継続を行うが為の爆撃であった。爆撃はラバウルにも及んだがそれでも被害はブーゲンヴィル島のブイン基地等に多く及び、航空隊の稼働率は低下するのである。

 そこで山本長官はラバウルに集められるだけの航空隊を集めてガダルカナル島方面、ニューギニア方面への航空攻撃を仕掛ける事にしたのである。

 この時、ラバウルには零戦360機の6個航空隊を筆頭に一式陸攻120機、艦爆60機、偵察30機が勢揃いしたのであった。また、陸軍もラバウルに3個飛行戦隊を集結させ陸海共同で当たる事になる。

 攻撃は4月7日から開始され始めにガダルカナル島近海に展開していた敵輸送船団や艦隊を攻撃した。なお、この攻撃に備えて各島に展開していたコーストウォッチャーは軒並み陸軍に壊滅されておりガダルカナル島の米軍はコーストウォッチャーからの報告を受ける事は出来なかったのである。この攻撃で米軍は軽巡『ホノルル』『ヘレナ』が大破し『セントルイス』が撃沈、駆逐艦3隻、油槽船4隻を撃沈し敵戦闘機39機を撃墜したのである。

 4月12日以降もラバウル航空隊はオロ湾を攻撃、14日にはポートモレスビーをも空襲しポートモレスビー飛行場を叩いたのである。

 作戦後、GF司令部は4月17日にラバウルに各部隊司令部を集め、『い号作戦』研究会を行なった。ここでは連合軍の増勢遮断と前線航空基地の整備を主題として取り上げ、山本も航空戦の成否が勝敗を決するという趣旨の訓示を行なった。また、宇垣は航空作戦に関して、偵察を徹底すること、小目標であってもこまめに攻撃すること、大型機に対する対処法や、新たな攻撃法に対する研究の促進などを希望として述べるに留まるのである。

 そして本作戦終了後の4月18日、山本はブーゲンビル島、ショートランド島の前線航空基地の将兵の労をねぎらうため、ラバウルからブーゲンビル島のブイン基地を経て、ショートランド島の近くにあるバラレ島基地に赴く予定を立てた。その前線視察計画は、南東方面艦隊(司令長官草鹿任一中将)と第八艦隊(司令長官鮫島具重中将)の連名で、関係方面に打電された。山本長官のブイン進出は前線視察を兼ねて現地将兵の士気高揚を狙ったものであった。

 しかし、ブイン基地に展開していた第11航空戦隊司令官の城島少将は山本の来訪を反対していた。


「此処はラバウルのような安全圏ではありません!! 来るというなら護衛の零戦は60機は用意して下さい!! それに暗号も解読されている節があるのです!!」


 城島や話を聞いた小沢らも反対したが山本は来訪の中止を変える事はなく結局は18日に一式陸攻で向かう事になったのである。

 そして4月18日0733、山本らを乗せた一式陸攻2機と護衛の零戦6機はブーゲンヴィル島上空でP-38戦闘機16機と遭遇するのである。


「緊急着陸します!!」

「……………………」


 操縦士の言葉を聞きつつ山本は軍刀を握り締める。

そして傍らにいた高田少将に視線を向けた。


「高田君、一つ頼みがある」

「はっ、それは……」

「ウム。頼みとはーーーーー」


 その時、機体側方の7.7ミリ機銃に取り付いていた偵察員が叫んだ。


「ブイン基地方向から零戦隊です!!」


 ブイン基地には13号対空電探が配備されていた。その対空電探がブーゲンヴィル島に向かう10数機の航空機を探知していた。


「まさか……飛行長!! 急いで出せるだけの零戦を出せ!! 山本長官が危ない!!」


 報告を聞いた城島少将は即座に判断しブイン基地から零戦14機が慌てて離陸したのである。その零戦隊が間に合ったのだ。しかし、襲撃部隊であるP-38戦闘機も負けてはいなかった。


「早くアドミラル・ヤマモトを仕留めろ!!」


 1機のP-38が速度を出して退避行動をしていた山本機に追い縋る。山本機は機長の判断でジャングルに不時着する腹であった。


「くたばれ!!」


 だが、P-38が一瞬早くに機銃弾を発射し右発動機に20ミリ機銃弾が命中した。右発動機は一瞬の間を置いて爆発、更にはその衝撃で右主翼付け根がバキバキッと吹き飛んだのである。


「長官!!」


 護衛していた杉田飛曹長はその瞬間を目撃した。右主翼が吹き飛んだ山本機は数100メートルは飛行したがやがてはジャングルに不時着したのである。


「長官!!」

「通信!! 直ぐに長官の墜落位置を打電!! 直ちに救助隊を向かわせるようにしろ!!」

「は、はい!!」


 同じく墜落の瞬間を見た2番機の宇垣中将は通信士にそう叫び、通信士は電鍵を叩くのであるがその2番機にもP-38戦闘機が群がり、2番機は洋上で不時着水をするのである。









 1943年(昭和18年)4月18日、ブーゲンヴィル島上空で一人の提督の戦死が後に発表されたのである。












「馬鹿か長官は……どうして歴史を元に戻そうとするんだ……」


 4月20日、航空本部で話を聞いた近藤は自宅に帰った後に溜め息を吐いた。流石に近藤の雰囲気を察したのかいつもは近藤のところに遊びに行く子ども達も近藤のところに行かなかった。不意に襖が開かれ巫女姿の零夢が立っていた。


「零夢……」

「話は聞いているわよ」

「どうやって……」

「あら、前にも言ったでしょ? 私は勘が良い巫女なのよ」


 近藤の言葉に零夢は苦笑しつつ部屋に入り近藤にお茶を差し出す。


「その様子だと山本長官が戦死したのでしょ?」

「……あぁ。やっぱ歴史通りになった……」


 近藤はお茶を飲み喉を潤す。零夢は床に座り、近藤の頭を自身の膝に乗せる。


「大丈夫よ」

「……………」

「貴方は誰かしら?」

「俺は……近藤信竹……憑依者……」

「日本を破滅から救おうとするのでしょ? なら大丈夫よ。まだ貴方がいるんだからね」


 零夢はニコリと笑みを浮かべて近藤の頭を撫でるのである。


「……済まん零夢……」

「良いのよ。それにそろそろ襖の奥で待機している二人も我慢出来ないだろうしね」

「その通り!!」


 バンと襖を開けたのはラム酒を飲んで酔っ払っているグレイスとこれまた日本酒を飲んでいるハンナである。


「大丈夫だノブ、お前はお前だ。お前ならやれる」

「その通りだノッブ!!」

「だからノッブと言うのはやめぇい!!」


 賑やかになる近藤家であった。なお、その夜は三人からの夜戦があったのは言うまでもなかった。翌日、近藤は航空本部に出勤したが直ぐに海軍省に呼ばれたのである。


「急な案件とは如何されましたか?」

「ウム。実は……」


 大臣室にいた嶋田大臣、宮様の二人に近藤が問い宮様がスッと1枚のメモを渡した。


「ッ!? こ、こ、これは……」

「……山本君の遺言だよ」


 メモを見て震える近藤に宮様はお茶を啜りながらそう答える。


「機に乗っていた高田軍医少将の懐から見つかった。彼も戦死していたが恐らくは機上で山本君から遺言を伝えられて記入したのだろう。まぁこれは『唯一』生き残っている重傷の樋端君も朧気ながら聞いていたらしい」

「はぁ……成る程」

「それで……どうするかね? 戦線は待ってはくれんよ」

「ですが、今の自分は航空本部長です。古賀大将等が適任では?」

「古賀君はそこまでの実戦を経験しておらん。それに大将は君も29日付で昇進するからな。だからこそ5月1日付でそうなる」

「……………成る程……(まさかこれが零夢の予言かもな……)」


 近藤は溜め息を吐きながらそう思い嶋田大臣に視線を向ける。


「分かりました……引き受けましょう……『聯合艦隊司令長官』をやりましょう」

「そうかッ。なら4月21日付で聯合艦隊司令長官だ」


 宮様は笑みを浮かべる。


「しかしながら条件があります」

「ほぅ……何かね?」

「司令部や艦隊司令長官等の人事や作戦に関しては自分に一任して頂きたいのです」

「フム、君にかね?」

「はい」


 頷く近藤を宮様は見るがその表情は何かあると踏んだ。


「宜しい。大臣、そのように取り計らいたまえ」

「分かりました」


 そして翌日、海軍は山本長官の戦死を発表。元帥大将に昇進の上、新聯合艦隊司令長官に航空本部長の近藤が就任したのである。後に29日付で大将にも昇進したのであった。













 斯くして近藤は再び表舞台に舞い戻ってきたのである。








結局、ガダルカナル島は最占領されてるし第三次ソロモン海戦等は無いが山本がブーゲンヴィル島上空で後世世界に行くのは必然(何)

御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m

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― 新着の感想 ―
歴史の修正力が強かったですね。 後世世界ででっかい潜水空母作って下さい。
やはり歴史の修正力が働いてブーゲンヴィル島上空で散るか・・・それでも近藤に後を託すことが出来たのが幸い。
きっと山本長官は後世世界で日本を護ってくれるでしょう…
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