第二十八話
というわけで本日二話目投下
日本軍がガダルカナル島から撤退したのは1月下旬であった。海軍は前以て撤退の準備をしていたので決行はやりやすかった。その撤退作戦ーー『ケ号作戦』の為に海軍はトラック諸島に待機していた山口少将の第二機動部隊を差し向けた。差し向けたのは米軍の艦隊が輸送船団を伴ってガダルカナル島に接近していたからであり山本長官のGF司令部は『ケ号作戦』完遂の為に山口機動部隊の出撃を認可したのである。
第二機動部隊
司令長官 山口多聞中将
参謀長 白石少将
主席参謀 千早正隆少佐
航空参謀 吉岡少佐
旗艦『加賀』
第五航空戦隊
『加賀』
【零戦27機 彗星27機 天山27機 二式艦偵3機】
『飛龍』
【零戦24機 九九式艦爆18機 九七式艦攻18機】
第六航空戦隊
『龍鳳』
【零戦24機 二式艦偵6機】
第一戦隊第二小隊
『長門』『陸奥』
第二戦隊第二小隊
『伊勢』『日向』
第七戦隊第二小隊
『鈴谷』『熊野』
第一護衛戦隊
『五十鈴』『名取』
第七駆逐隊
『朧』『潮』『漣』『曙』
第十七駆逐隊
『浦風』『谷風』『磯風』『浜風』
第六十一駆逐隊
『秋月』『照月』
山口少将の第二機動部隊はトラック諸島を南下、その途中で偵察に出した二式艦偵がガダルカナル島へ向かう敵輸送船団を発見した。更にはそれを護衛すると思われる巡洋艦隊も発見したのである。
「先に巡洋艦隊を叩いては? 輸送船団は上陸してからも焼夷弾で物資を燃やす事も可能です」
「成る程。確かに『ケ号作戦』完遂なら水上艦艇は叩いた方が良いな……宜しい、攻撃隊は対艦兵装の準備を急がせろ。しかし、輸送船団には敵空母がいるが問題は無いかね?」
「恐らく船団護衛用の空母でしょう。我が軍で例えるなら『大鷹』型になると思われます。ガ島で捕虜にしていた米軍の情報でもそのような空母を保有していると入手しているのでその類と思われます」
「ん。それなら戦闘機と哨戒機くらいしか搭載しないな」
山口の問いに吉岡航空参謀はそう答え、山口も巡洋艦隊攻撃を優先させる事にしたのである。第二機動部隊は直ちに攻撃隊を発艦させた。攻撃予想海域はレンネル島沖合であった。
「見つけたぞッ」
村田少佐がパイロット育成の為に第50航空戦隊に異動した事で『加賀』艦攻隊隊長になった今宿大尉は愛機となった天山の操縦桿を握りつつ眼下にいる米巡洋艦隊を発見する。
「全軍突撃せよ!!」
攻撃隊は対空砲火を避けながら突撃を開始するのを第18任務部隊司令官のロバート・C・ギッフェン少将は旗艦『ウィチタ』の艦橋で舌打ちをしながら双眼鏡を覗いていた。
「クソ、ジャップの航空機は思っていたよりも航続距離は長いようだな」
「はい(だから言ったのに……)」
ギッフェン少将の言葉に参謀はそう思う。ガ島戦を経験していた参謀は日本機が思っていた以上に航続距離がある事を知っていたので護衛空母を切り離す事を反対したがそれまで大西洋にいたギッフェン少将はそれを知らなかったので却下して護衛空母を切り離して輸送船団に回らせていたのだ。
「対空戦闘用意!! 我々には切札がある!!」
それでもギッフェン少将は確信が笑みを浮かべるのであった。
「思っていた以上に攻撃隊の損害が多いな……」
2月7日、近藤は航空本部でレンネル島沖海戦の報告を見ていた。同日にはガダルカナル島からの撤退も完了していた。陸海軍はガダルカナル島に2万名近くの兵力を投入したが戦死約9000名、行方不明約1000名を出して終わったのである。なお、撤退作戦の初期には輸送艦も投入され戦車等も回収されたが帰路に航空機と潜水艦の攻撃により一等輸送艦1隻、二等輸送艦3隻が撃沈され重火器の回収も僅かとなった。これにより重火器の回収は破壊へと変わり兵員の回収が最優先とされたのである。
しかし近藤はその数日前に発生したレンネル島沖海戦に着目していた。
「零戦2機、彗星7機、九九式艦爆10機、天山11機、九七式艦攻12機……幾ら輸送船団も攻撃したからといってこの被害は尋常ではないぞ……」
第二機動部隊は第18任務部隊を二波に渡り攻撃、ギッフェン少将の旗艦『ウィチタ』『シカゴ』軽巡『モントピリア』駆逐艦2隻を撃沈しギッフェン少将も『ウィチタ』から避難する際、予想よりも早くに『ウィチタ』が横転した事で海上に投げ出されそのまま沈降する『ウィチタ』の渦に飲み込まれたのである。巡洋艦隊を壊滅させた第二機動部隊はそのまま輸送船団を捕捉し攻撃、この攻撃で護衛空母『スワニー』が撃沈し輸送船7隻をも撃沈した。
しかし攻撃の戦果と引き換えに攻撃隊の被害も酷かったのだ。被害は近藤が呟いた上記であり第18任務部隊の攻撃を最初にした今宿大尉も撃墜されたがショートランドから飛来した二式大艇(パイロット救助用)に救助されたりしているがそれでも水上機部隊は約20名弱のパイロットが救助しているのでその点は近藤も評価している。
「となると……(やはり使用されたか……マジックヒューズ……)」
史実でもこのレンネル島沖海戦に『マジックヒューズ』ーー近接信管こと『VT信管』が使用されている。第二機動部隊の攻撃隊は『VT信管』をモロに喰らった形となったのだ。
「取り敢えずはGFの山本さんには伝えるか」
近藤は直ぐに山本に会うためにトラック諸島に向かうのである。2月2日の事であった。
「成る程、近接信管か……何か対策はあるかね?」
「S情報によれば混乱目的ならアルミ箔を散布して対空砲火をバラけるのが良いと……一番はその砲弾を入手し無線電波を特定して起爆させる無線電波を混乱させるのが手かと……」
「フム……そうなると海戦して敵艦艇を拿捕するのが一番か……まぁやれる時にやってみよう。君の方でも研究はしてくれ」
「分かりました」
ある程度の話を終えると山本は干し芋を取り出して二人で食べる。
「ニューギニア戦線も本格的に撤退する事になるが、先にソロモン諸島の撤退を開始する。だが撤退はラバウルまでだ。ラバウルは死守する」
「ですな。ラバウル航空隊が踏ん張ればその分のその他地域の撤退も可能となるでしょう」
「あぁ。それと航空本部としての仕事はどうだ?」
「はい、何とか順調にやれてはいます」
「そうか。発動機の件はトラックでも聞いたからな。此方もヒヤヒヤしたもんだ」
「ハハハ……ですが、零戦の後継機も何とかなりそうです」
三菱が開発していた零戦の後継機の試作機は当初、発動機に『誉』を搭載していた。しかし、『誉』の調子は悪く、速度も580キロ程しか出なかったのだ。三菱は『ハ43』を搭載したかったがそれでも航本が『誉』を推した結果だった。だからこそ、この事態に近藤はメスを入れて漸く何とか『ハ42-21』への換装をやらせた。無論、三菱にも納得してもらう為に『ハ43』を搭載した試作二号機も急遽制作中であり両機とも5月頃には試験飛行を迎える予定だったのだ。
「『ハ42』シリーズについては開発中の多任務艦上攻撃機にも搭載させようと思います。馬力があるので速度も出るでしょう」
「ん。君がやってくれるなら安心だよ」
山本は笑みを浮かべて干し芋を食べるのである。
「それと黒島からの発案でラバウル航空隊の負担を減らす為に母艦航空隊を一時的にラバウルに進出させようかと思うが……」
「下の下ですな。採用するべきではありません」
「フム、やはりか」
「母艦航空隊は長官が想定する決戦航空隊になります。それを基地航空に移転するのは宜しくありません」
「成る程。それならラバウル航空隊の負担軽減はどうするかね?」
「陸軍航空隊を要請すれば良いでしょう。ニューギニア戦線の撤退もありますし陸さんも我々に借りを作りたくはないですし……」
「フム。しかし、数個戦隊がラバウルにいるが足りないかね?」
「せめてラバウルは1個飛行師団でしょう。ニューブリテンのツルブにも数個戦隊を置いてダンピール海峡の制空権を此方側にする必要がありますので」
「そうなるか……分かった。ラバウルにいる陸軍は今村さんが最高司令官だ。早速ラバウルに行って協議してみよう」
近藤の具申に山本はそう頷くのである。そしてそれが近藤と山本が会った最後の日であった。2月20日、山本は今村中将の訪問をトラックで受け南東方面における陸海軍作戦計画について協議した。
協議の結果、ニューギニア戦線撤退の海軍戦力全力投入の条件にラバウルにも陸軍航空隊を派遣する事が決定、史実よりも早くにラバウルへ第七飛行師団が投入されるのである。
「どうだ?」
「はい。『ハ42-21』は順調に回っています」
3月1日、近藤は名古屋の三菱航空に来ていた。『ハ42』も近藤のテコ入れにより積極的な振動対策をしたおかげか陸軍が開発しているキ67こと四式爆撃機『飛龍』の開発もスムーズに行えていたのである。今、近藤が見ているのは『ハ42-21』の耐久試験であり海軍や三菱が想定した耐久時間を『ハ42-21』はクリアしていたのである。
「A7Mの具合はどうだ?」
「発動機の取り付けは完了しています。試験飛行はいつでもやれます」
「ほぅ、早いな?」
「『誉』搭載を中止にしてくれた近藤中将に感謝しているからこそ早めました」
「ハハハ、成る程な」
近藤の問いに堀越技師はそう答える。近藤が『ハ42』『ハ43』を搭載した両機の試作を命じた事から堀越は近藤の期待に応えようとしていたのである。
「宜しい。準備出来次第、飛行試験をしてくれ。向こうは待ってくれんからな」
苦笑する近藤であった。その数日後、A7Mこと『烈風』は飛行試験を行い結果は上々であったのである。
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