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第二十七話

少し予定よりも早いですが更新再開します

なるべく納得出来るような結末にしたいと思います







「いきなりの解任……納得はしないと思うが呑んでもらいたい」


 あの南太平洋海戦からの11月1日、近藤は第二機動部隊司令長官を解任され海軍省からの命令で急遽内地へ戻され海軍省に向かうと出迎えたのは宮様であった。


「……予備役ですか?」



 近藤の言葉に宮様は苦笑する。


「クククッ、いや済まない。だが、クビでも無いのだよ」


 宮様はそう言って近藤に一枚の辞令書を渡す。


「……自分を航空本部長にですか?」

「あぁ。塚原にでも良かったが……事態は深刻でな。米軍の新型爆撃機の事だ」


 宮様の言葉に近藤は合点がいった。新型爆撃機ーーB-29の情報が漸く陸海軍の上層部にも入ったのだ。切っ掛けはインド洋作戦でありその時に捕虜にした英軍の佐官がたまたまB-29を知っておりその事を喋ったのだ。思わぬ副産物の情報を手に入れた海軍、そこへ南太平洋海戦が終了した話を聞き宮様は多少強引な手段ではあるものの近藤の第二機動部隊司令官解任を嶋田大臣に要請しそれが通ったのだ。


「我々はその爆撃機が昭和20年までに一万機は生産され日本に投入されると判断したのだ。済まないと思うが、将官の中で一番航空機を分かっているのは操縦した事もある君しかいないのだ。だからこそ航空本部長就任なのだよ」

「分かりました宮様。解任を納得しましょう」

「ありがとう近藤」


 宮様は近藤の手を握るのである。その後、話を聞きつけて内地に戻ってきた山本も宮様からの事情を聞いて納得したのである。


「成る程。それなら納得は出来るが……せめて俺には話を通してもらいたいものだな」

「恐らくはごねると判断したのでしょう」

「成る程。俺もそうするな」


 近藤の言葉に山本は苦笑する。取り敢えずは山本も納得した事で12月1日付で近藤は海軍航空本部長に就任したのである。ちなみに後任の第二機動部隊司令官は山口である。


「それとガダルカナル島は撤退した方が宜しいです」

「ウム。陸さんにはそう伝えているが……どうも陸さんはガダルカナル島を占領した事で鼻がデカいようだ」


 近藤の言葉に山本は溜め息を吐く。それでも陸軍の上層部はガダルカナル島よりも日独航路が開通しそうな事に躍起であった。アラム・ハルファの戦いは引き分けだったドイツ軍の北アフリカ軍団であったが日本軍が実施しているインド洋作戦でイギリス軍への効果が現れていたのだ。史実の第二次エル・アラメイン会戦にて準備されたM4中戦車やM3中戦車等を載せた輸送船団は角田少将や山口少将の機動部隊に捕捉され攻撃、全滅しておりエジプトの第八軍にその戦力は届かなかったのだ。

 そして角田少将の機動部隊が紅海に侵入、攻撃隊をエジプトのカイロに差し向け第八軍の補給路や補給基地を攻撃しモントゴメリーを焦らせたのである。角田と山口の2個機動部隊は紅海に2週間は居座り、エジプトに展開する英軍を攻撃し英軍は元より第八軍はその戦力を低下させたのである。

 これにより第二次エル・アラメイン会戦はドイツ軍の勝利に終わり、エジプトから英軍は叩き出され中東方面に遁走、エジプトはドイツ軍が占領するのである。

 そして北アフリカがドイツの手に落ちた事で日独航路は大西洋周りから紅海方面に行ける事が開通したのだ。

 日独の仮装巡洋艦は資源や兵器を搭載しインド洋等を経由してエジプトや日本に向かうのである。無論、近藤もその話を聞いてドイツから兵器を入手しようと企てる。


「でも、何にするかだよな……」

「どうした父ちゃん?」

「いや、何でもないよ魔梨沙」

「問おう、ダディが私のマスターか?」

「アルトリア、それは誰に習った?」

「無論、母上」

「グレイスは1週間ラム酒禁止の刑だな」


 久しぶりに戻った自宅にて近藤は零夢の娘である魔梨沙と遊んでいた。他にもグレイスとの第四子であるアルトリア(槍)もいたりする。


「ほら二人とも。お昼にするから手伝いなさい」

「分かった母ちゃん!!」

「ウム、赴こう」


 二人がとてとてと台所に向かうと割烹着を着た零夢は近藤の隣に座る。


「悩んでいるのかしら?」

「あぁ……歴史が変わっているからな」

「なら良いじゃない。貴方はこの戦争で何をしたいの?」

「……日本の敗戦を阻止する事だ」

「答えは出ているじゃない」


 近藤の言葉に零夢は笑みを浮かべて立ち上がる。


「ほら、お昼にしましょう。わざわざハンナとグレイスも準備を手伝ったんだから」

「……そうだな。取り敢えずグレイスは1週間ラム酒禁止は決定だしな」


 近藤も笑みを浮かべて居間に向かうのである。なお、その後直ぐにグレイスの悲鳴が近藤家を包んだのは言うまでもなかった。

 12月5日、ガダルカナル島の飛行場は再び米軍が占領したのである。米軍は第二師団によるガダルカナル島再奪取後にニューヘブリディーズ諸島等からB-17やB-24爆撃機等を動員して飛行場を連日に渡り空襲していた。無論、日本軍も飛行場整備を終わらせ陸軍から1個飛行戦隊がガダルカナル島に派遣され爆撃機と空戦をしていたが稼働機を減らしていき遂に12月1日には補充の為にラバウルに後退するのである。そこに偵察の結果、航空隊が撤退した事を知った米軍は奪回の2個歩兵連隊が送り込んだのだ。

 この時、ガダルカナル島守備隊は第二師団であったがその戦力は遥かに低下しており満足に戦えるのは僅か1個大隊しかなかった。これは先のガダルカナル島戦で戦力を低下していたのもあったが、負傷者の後送と飛行戦隊の投入を優先した結果でもあった。その為、ガダルカナル島守備隊は再びタサファロンガ岬方面まで撤退する事になる。


「直ちに軍の派遣を!!」


 大本営の陸軍側はそう主張した。しかし、その主張を抑えたのは海軍省から特命として派遣された近藤であった。


「海軍としてはガダルカナルからの撤収を具申します」

「撤収!? 撤収ですと!! それでは奴等に舐められっぱなしになる!!」


 近藤の言葉に第一部長である田中中将はそう叫ぶ。対して近藤は無念そうに口を開く。


「それは理解しています。私も先頃まで第二機動部隊を率いていました……しかし、事態は悪化しています」

「これは……」


 近藤が田中に一冊の大学ノートを見せた。


「『S情報』」

「ッ!? まさか、そんな……」

「見ても構いません」


 田中は近藤の許可を貰い、大学ノートを一枚ずつ見ていき顔を蒼白し近藤に視線を向ける。


「近藤中将……こ、こ、これは……」

「それが今の欧州の現状です」


 『S情報』(近藤作)に記されていたのは欧州の現状(1942年12月)だった。それは陸軍でも情報を仕入れていない情報もあり眉唾物であった。

 また、この『S情報』には独ソ戦で使用されている両軍の兵器も事細かく記されていたのだ。


「……これがある……という事は……」

「いえ、セルゲイ本人には会えませんでした。しかし、横浜の外国人居留地を通して自分のところに届けられました」

「な、何と……」

「このノートを届けた者も誰かを通して渡されたらしくセルゲイ本人は残念ながら日本にはいないと思われます」

「そうですか……」

(まぁ書いた本人は目の前にいるけどな)


 落ち込む田中中将に近藤はコッソリと笑みを浮かべる。


「これは海軍にも提供しており、GFの山本長官もこれ以上のソロモン諸島への深入りは思わぬ火傷をすると認識しています。そこでのインド洋作戦です」

「ム……例のドイツ側によるインド侵攻要請ですか?」

「はい」


 時は1週間と一日を遡る8日前、ドイツ特命全権大使のオイゲン・オットを通じてドイツは日本軍のインド侵攻を要請していた。北アフリカを占領したドイツ軍は中東に逃げた残存英軍(第八軍等)を撃破するために中東侵攻を計画していた。そこで残存英軍の戦力を分散させるために日本軍にインド侵攻を要請したのだ。

 要請を受けた陸軍はその気ではあるが、今のビルマ〜インドを防衛しているのは僅か1個師団(第55師団)であり不安要素は存在していた。だが、海軍がガダルカナル島再奪取を取り下げるなら宙に浮いた第38師団を同方面に投入出来る事も可能であり更には第15師団等も加えれば都合で5個師団を揃える事は可能であったのだ。


「どうでしょう? 海軍は元よりGFもガダルカナルからの撤退を陸軍が納得するならインド方面への艦隊と航空隊の出動を約束します」

「ほぅ……ちなみにどの程度の戦力ですか?」

「期限付ではありますが1個艦隊に1個機動部隊、2個航空戦隊です」

「そ、そんなにもですか!?」


 近藤の言葉に田中は驚愕しつつも海軍の本気度を知り陸軍上層部を新しい『S情報』を携えて説得するしかないと判断するのである。この会談後に田中は東條等上層部に海軍の本気度や新しい『S情報』に驚愕しつつガダルカナル島からの撤収を決定するのであった。

 近藤は陸軍との会談をしつつ本来の仕事である海軍航空本部長も行っていた。


「噴式発動機は手に入ったな?」

「カイロに到着した輸送船団からの確実な情報です。BMW03とユンカースユモ004の噴式発動機をそれぞれ5基とそれの設計図を購入して搬入しています」

「ん。後は無事に内地に到着するだけだな」


 カイロに到着した独派遣輸送船団は東南アジアの資源(ゴム等)を揚陸し代わりにドイツ兵器を搬入した。この中に噴式発動機(軸流式ターボジェットエンジン)であるBMW03とユンカースユモ004がそれぞれ5基あり、更にはコピーした設計図もあった。

 他にも六号戦車『ティーガー』10両に五号戦車『パンター』D型2両も含まれていた。『パンター』は本来であればまだ生産途中であったが独派遣輸送船団が大量の資源を積載してきた事にヒトラーが感激しそれに感謝の気持ちに応える形で急遽2両を日本に譲渡する事になったのだ。

 無論、これらの兵器も内地に持って帰り、陸軍の戦車開発に大きな影響を与えるのは言うまでもない。


「よし、各航空会社に伝えろ。発動機の生産を整理する」

「整理ですか?」

「あぁ。昭和18年1月を以て各航空会社で開発中の発動機は全て開発中止とし官民一体となって噴式発動機の開発に専念とする」


 近藤の宣言により各航空会社で開発中であった『護』や『誉』、液冷発動機は完全に開発中止となった。例外とされたのは三菱と中島が開発していた『ハ42』『ハ43』『ハ44』であった。

 特に中島は『誉』が開発中止された事に直接近藤に文句を言いに行ったが逆に近藤からのドギツイ叱責を喰らったのである。


「馬鹿野郎ォ!! 『誉』はアメリカからの潤滑油や高オクタン価のガソリンを大前提にした発動機じゃねーか!! 故障しまくっているのは此方でも聞いているんだ!! 万が一戦闘中に発動機が故障して上空で止まったらどうするんだ!! 陸軍と協議をして技術者等の除隊を認可しているし『ハ44』の2つで満足しろ!! 技術向上も理解出来るが大量生産が出来る発動機を作れ!! 分かったらさっさと帰って噴式発動機の受け入れ準備をしろ!!」

「は、は、はいィィィィィィィィ!!」


 近藤はそう言って中島からの代表を追い出すのである。


「塩を撒いとけ小福田!!」

「塩が勿体ないです本部長」


 史実より早くに海軍航空技術廠飛行実験部部員になった小福田少佐は近藤にそう言うのであった。







御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m

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