第二十五話
予定通り後数話で終わり?
村田少佐の第一次攻撃隊は敵機動部隊に向かう途中に第二機動部隊に向かう敵攻撃隊を発見した。
『敵機、2時方向ですッ』
「『加賀』に打電しろ。敵機が迫っている。警戒を厳にされたしとな」
『はい』
『少佐、『葛城』の零戦隊が敵攻撃隊に向かいます!!』
機銃手の言葉に村田が視線を向けると日高大尉の『葛城』零戦隊9機が増槽を投棄して敵攻撃隊(最後尾の『エンタープライズ』隊)に向かっていた。
「チッ、勇ましいのは結構だが……千早大尉ッ」
『此方千早です』
「済まないが艦偵1機を『葛城』零戦隊に同行してくれ。迷子になって行方不明になるのは後味が悪い」
『分かりました。2番機を差し向けます』
(まさか長官はこういうのを予期していたのかもな……)
日高大尉の零戦9機の後を追うように二式艦偵1機も敵攻撃隊に向かうのを見つつ村田はそう思うのである。10機減った第一次攻撃隊はそのまま敵機動部隊に向かうのであった。
そして日高大尉の零戦隊は太陽を背に降下し機銃掃射を加えた。
「クソッタレ!! ジークだ!! 散開しろ!!」
『駄目だ、後ろに突かれた。助けーー』
「トーマス!?」
1機、また1機と攻撃隊は落とされ結果としてF4F5機、SBD3機、TBF6機を撃墜されるのである。『葛城』零戦隊は1機を喪失し誘導の二式艦偵と共に第二機動部隊に帰還するのである。
そして第一次攻撃隊は0655に敵機動部隊ーーマレー少将の第17任務部隊である機動部隊を発見したのである。
「突撃隊形作れ!!」
村田機が『トツレ』を発信し攻撃隊は突撃隊形を形成する。志賀大尉の零戦隊は27機は38機のF4F隊と交戦するが零戦隊は全て改良型の33型であり操るのはベテランパイロット達であった。数が多いF4Fでも瞬く間に一蹴されたのである。
零戦33型
全幅 11.0m
全長 9.240m
全高 3.57m
翼面積 22.60m
自重 3,360kg
正規全備自重 3,930kg
発動機 金星72型(離昇1,680hp)水メタノール噴射装置付
速度 633km
降下制限速度 850km
航続距離 1,240km(正規)+1,980km(増槽有り)
武装 機首 97式13.2ミリ機銃1挺(機首右舷240発)
主翼 97式13.2ミリ機銃2挺(各350発)
99式20ミリ機銃2挺(各250発)
【概要】
日本海軍が開発した零戦の最終型であり最終型シリーズの金星70型発動機に交換した事で無茶な機動をさせる事も可能となった機体である。
当初、零戦は22型で終了させるつもりだったが後継機の烈風等の遅れ、稼働率も心配されていた時期もあったので金星発動機での改良型零戦の開発が命じられたのである。堀越らも予め想定していたのか、予め作成しており空技廠からの命令から僅か3日で試作機を完成させ空技廠関係者を驚愕させたエピソードもある。
それはさておき、制式採用された33型であるが最初の初陣が南太平洋海戦であった。彼等はF4Fを敵とせず落としまくり攻撃隊や母艦を守り抜くのである。
33型は22型より武装強化として機首右舷に13.2ミリ機銃1挺を追加配備している。これは現場からの報告であり実際に現場でも追加配備は好評価であった。
だが、その代償として航続距離は増槽付でも約2000キロしか届かなかったがレイテ沖海戦やその後の沖縄沖海戦を考えれば妥当なモノであった。
沖縄沖海戦でも33型は小型空母用の戦闘機として搭載されF6Fやシーファイヤー等々と死闘を繰り広げるのである。
『零戦隊が敵戦闘機を駆逐しています!!』
「戦闘機からの攻撃は怖いからな……だが問題は……」
高橋定大尉は彗星の操縦桿を握りつつ撃ち上げてくる対空砲火を見る。零戦隊がF4F隊と空戦をする中で村田少佐は『ト連送』を発信、艦爆隊は高度を上げ、艦攻隊は高度を下げ始めていた。攻撃隊を拒否るかのように第17任務部隊は対空砲火を撃ちまくっていた。
それでも艦爆隊は所定の位置に到着すると高橋大尉は決断する。
「突撃!!」
先に急降下を開始したのは『加賀』の彗星隊9機だった。彗星隊はこれまでの一本棒での急降下ではなく編隊での同時攻撃であった。第17任務部隊はこれまでの急降下爆撃の戦法から変わっていた事に驚愕する。
「何てこった!?」
「これじゃあ狙い撃ちが出来ないぜ!!」
「ボヤボヤするな!! おいアパム!! 早く弾を持ってこい!!」
米兵達はそう愚痴りながら機銃を撃ちまくる。しかし、高橋大尉の彗星隊はそれをものともせずに『ホーネット』に500キロ爆弾を叩きつけるのである。
『やりました!! 爆弾3発命中です!!』
「幸先は良い……が……」
後方の機銃手からの報告に高橋大尉はそう呟きながら低空飛行で離脱する。上空に視線を向けると『雲龍』『葛城』の艦爆隊も急降下を開始していた。
しかし、彼等は『ホーネット』ではなく艦攻隊の脅威を減らす為に護衛艦艇に急降下をしていた。だが、護衛艦艇も黙ってはおらず対空砲火は強力であった。
特に『アトランタ』級軽巡の『サンディエゴ』『ジュノー』の対空砲火は強力であり38口径5インチ連装砲や20ミリ機銃は脅威であった。急降下した18機の九九式艦爆も防弾装備は施されていたが彼女達の対空砲火には無意味であり急降下中に10機が撃墜された。
だが残りの8機は投弾に成功、それぞれ三、四発の250キロ爆弾が命中し2隻は炎上した。
その隙に村田少佐の艦攻隊が突入したのである。
『第2中隊、右翼に回ります!!』
右翼側を指揮するのは元『飛龍』艦攻隊の橋本大尉である。橋本大尉も開戦時からのベテランでありミッドウェー海戦の復讐に燃えていた。何せ隊長の友永大尉が目の前で『ホーネット』に体当たりをしたのだから尚更である。
それはさておき、『ホーネット』の左翼から突入した村田隊であるが思っていたよりの対空砲火は少なかった。これは艦爆隊の『サンディエゴ』『ジュノー』を攻撃した影響もあった。
それにより村田少佐の天山隊9機は被弾する事なく『ホーネット』の左翼に躍り出たのである。
『距離1500……1200……1000……』
後部座席の斎藤飛曹長が距離を読み上げる。そして距離が800になった時、村田は魚雷の投下策を引いた。
「撃ェ!!」
天山の腹に抱えていた九一式航空魚雷が投下され、村田はその反動を利用して離脱するが、『ホーネット』を飛び越す前にドラム缶が叩くような音がした。被弾したのだ。
だが、幸運にも火は出なかった。防弾装備が功をなしたようである。これが無ければ村田機は炎上して海面にもんどりうっていただろう。
防弾装備の天山に村田は内心で感謝しつつ離脱すると機銃手が叫んだ。
『魚雷命中!! 3本です!!』
見ると『ホーネット』の中央部に2本、艦尾部分に1本の水柱が吹き上がっていた。
「よし、第二次攻撃を掛ければ仕留める事は可能だな」
村田はそう呟き、攻撃隊を纏めて引き上げるのである。そして『ホーネット』ではこの雷撃で不幸な事が起きてしまうのである。
その頃、第二次攻撃隊を出した第二機動部隊は艦隊を2つに分割していた。
「宜しいのですか長官?」
「構わん。三川ならまたやってくれるさ」
近藤は『長門』『陸奥』の戦艦2隻を分離させ第八艦隊に合流させる事にした。第八艦隊には合流するとそのまま敵機動部隊に前進して砲雷撃戦を挑めと三川にそう伝えたのである。29ノットも出せる2隻なら追いつく事は可能だろうと近藤も踏んだのだ。
そこへ通信兵が慌ただしく艦橋に入ってきた。
「た、大変です!!」
「騒がしいぞ!!」
「何があった?」
「べ、別の機動部隊です!! 『龍鳳』の二式艦偵から敵機動部隊発見の報告です!!」
『何!?』
通信兵の報告に史実を知る近藤以外の全員が驚き、吉岡航空参謀は通信紙を奪い取り中身を見る。
「……確かに敵機動部隊発見の報告です!!」
「方位は?」
「これは……第一次攻撃隊が攻撃している敵機動部隊の至近です!!」
(となると……『エンタープライズ』か……)
吉岡の報告に近藤は略帽を取り、頭の汗を拭ってから再び被り口を開く。
「関少佐に緊急電!! 二式艦偵が報告してきた敵機動部隊を叩く事を最優先とせよ!!」
「長官!?」
「第一次攻撃隊の空母はもう叩いただろう。だが、この新手の空母が攻撃隊を此方に発進していたら? 第一次攻撃隊の空母が囮だったとしたら?」
「…………………」
近藤の言葉に吉岡は何も言えなかった。その可能性も否定出来ないからだ。
「関少佐への打電、急げ!!」
「はッ!!」
通信兵は慌てて通信室に向かうのである。しかし、入れ替わりに対空電探室から伝声管からの報告が入った。
『対空電探に反応有り!! 敵の攻撃隊らしきモノ!!』
「対空戦闘準備!!」
「対空戦闘準備ィィィィィィィィ!!」
第二機動部隊は正に正念場であった。この時、第二機動部隊に迫っていたのは『ホーネット』から発艦した攻撃隊(F4F13機 SBD15機)であった。
上空警戒をしていた零戦12機は無線連絡を受けて直ちに急行する。『龍鳳』の飛行甲板で待機していた零戦9機も直ちに発艦するのである。
(さて……頼むぞ……)
発艦していく零戦を見ながらそう思う近藤であった。
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