第二十二話
「これはこれは長官」
「やぁ近藤さん。ガダルカナル島の戦況はどうかな?」
9月2日、山本率いるGF司令部と『大和』らがトラック諸島にやってきた。
「川口旅団が9月中に総攻撃を仕掛けるとは言っていますが何時頃なのかは不明です。出来れば期日が分かれば第二機動部隊で支援を行う予定です」
「ウム、そこはGF司令部からも突いてみよう。もしかしたら分かるかもしれない」
近藤の報告に山本は頷く。
「ガダルカナル島の糧食は約2ヶ月分となります。長引くのであれば更なる輸送は必要です」
「ウム、手配しよう。それと航空攻撃はどうかね?」
「ブーゲンヴィル島南部にあるブインに航空基地を建設中ですが、ガダルカナル島から撤退した第11設営隊や第13設営隊を投入しています。報告では10日前後で完成しブカ島の零戦隊をブインに移動させパイロットの負担を軽減させます」
「ん、それなら助かるな」
山本は内地から持ってきた干し芋を齧りながら笑みを浮かべる。
「B作戦は上手くやれている。大分、イギリスを困らせている」
インド洋(アラビア海及びアデン湾)で行われている通商破壊作戦は今のところ順調であった。空母は四航戦の三空母が主力だったがそれでも貨物船41隻、タンカー24隻を撃沈しタンカー7隻を鹵獲しているのである。
「それで更なる戦果拡大の為に空母が欲しいのだよ」
山本の言葉に近藤はピンと来た。どうやら二空母をインド洋に向かわせたい意向なのだろう。だが、山本の本心はガダルカナル島に向けられていたので意向は軍令部なのかもしれない。
「修理が完了した『飛龍』は山口君と共にインド洋に行ってもらう。そこで君の空母をどちらか貰いたい」
「長官、それは……」
「分かっている。そこで修理と改装が完了した『加賀』は予定通りに第二機動部隊へ配属させる。新型機と共にな」
「ッ。新型機……間に合ったのですか?」
「あぁ。君が航本にいる時に発動機関係をせっついたおかげでね。それにインド洋作戦はアフリカ戦線を助ける事にもなる」
干し芋を食べ喉を潤す為にお茶を飲んでいた山本はニヤリと笑みを浮かべた。この頃、アフリカ——北アフリカ戦線ではアラム・ハルファの戦いでロンメルのドイツ軍が撤退しており非常にマズイ状態だった。再度の通商破壊作戦を知ったドイツとイタリアは日本に強く通商破壊作戦を主張したのだ。
「このアフリカ戦線の戦いは日本に掛かっている!!」
ドイツ寄りの陸軍はそう主張し軍令部は折れた形で大規模部隊の派遣を連合艦隊に要請する事になった。しかし、軍令部次長に就任した井上中将は陸軍にラバウル方面への航空戦力の派遣をという形で妥協したのである。
「しかし長官もよく認めましたね?」
「ドイツは嫌いだが人までは嫌いじゃない」
山本はそう言いつつ二袋目の干し芋に手を伸ばして口に放り込む。
「山口には『瑞鶴』と修理が完了した『瑞鳳』も付けて第三艦隊の主力も行ってもらう。小沢は引き続き本土で『翔鶴』と共に航空戦力の再編をしてもらう」
「思いきった事をしましたな」
「なに、山口がスエズ運河も叩きましょうと言ってきたからな。ならやるとこまでとことんやるしかないよ」
山本はそう言って肩を竦める。山本自身はガダルカナルに集中したかったがそうは言っていられない。ちなみに話を聞いた四航戦司令官の角田少将は「二航戦が来るまでの露払い」としてスエズ方面に向かうイギリス輸送船団の3個輸送船団を攻撃して輸送船38隻とタンカー11隻を撃沈する。
この輸送船の中にはアメリカから供与されたばかりのM4中戦車やM3中戦車も多数含まれており実に400両近くを喪失してしまうのである。しかも火砲も多数喪失しており報告を受けたモントゴメリーは頭を抱えるのであった。
その為、モントゴメリーは更なる増援を要請したがその追加の輸送船団も後にやって来る山口の機動部隊に捕捉され全滅してしまい、更には紅海に侵入されスエズ運河が爆撃され破壊されてしまうのである。また、エジプトも爆撃されモントゴメリーの第八軍は戦力を低下してしまいロンメルにアフリカ占領というフラグを立たせてしまうのである。
それはさておき、第二機動部隊はGF司令部からの要請により空母『天城』をインド洋に向かわせるとし代わりに『加賀』が加入した。
『加賀』は全て新型機で編成されており零戦30機、彗星27機、天山27機という搭載だった。格納庫の面積を増やすためにこれまで何もしていなかった後部の20サンチ砲10門は撤去されている。また、改装で10メートルの拡張を行っている。(この拡張工事の期間が長かった)対空火器も両用となった99式12.7サンチ連装両用砲を搭載し25ミリ単装機銃も大幅に増強、艦橋上部に21号と13号対空電探を搭載しているのである。
「ウム、良いものだな」
近藤は旗艦を『加賀』にし将旗を掲げるのである。そしてガダルカナル島の戦況であるが、川口旅団の総攻撃は失敗したのである。
9月12日の2000を期して川口旅団は総攻撃を開始した。川口支隊は、一木支隊の戦訓から、正面攻撃を避けるべくヘンダーソン飛行場の背後に迂回してジャングルから飛行場を攻撃することを試みた。しかし、そのために必要な地図の準備はなく、険しい山岳地形の密林に進撃路を切り開くために各大隊の工兵部隊は通常装備を捨てて、つるはしとスコップによる人海戦術で総攻撃の当日まで啓開作業を行った。完成した粗末な啓開路では重火器や砲弾の運搬は不可能であり、その大部分は後方に取り残された。また、作業により兵は疲労困憊していたのである。
ちなみに重火器については高射砲12門、野砲12門、山砲12門、速射砲18門を揚陸しておりそれで十分だろうとされていた。しかし、物量は米軍が圧倒していたのである。タシンボコ付近にある川口旅団司令部は12日夜に川口旅団支援の為にルンガ泊地に突入した六戦隊と駆逐艦3隻の艦砲射撃の砲声を聞きながら勝利を確信した。
しかし攻撃位置につけたのは中央隊のみでありバラバラの突撃であった。
「突撃ィィィィィィィィ!!」
雄叫びを挙げて突撃する歩兵達は堅固な守備陣地が待ち構えていた。また一人、また一人と銃弾を受けてガダルカナルの地に倒れていく。
それでも激戦となった中央隊左翼を担当した田村昌雄少佐率いる青葉大隊の一部が、中央隊右翼国生大隊と合流し米軍陣地の第一線を突破し、さらに3個中隊のうちの1個中隊がムカデ高地の端からヘンダーソン飛行場南端に達し、付近の建設中の倉庫などの拠点を確保した。だが、混戦のすえに敗走した。
もう一つの激戦となったのが左翼隊であるこの左翼隊は岡大佐率いる歩兵第124連隊第二大隊と海軍陸戦隊であった。第二大隊は史実だと舟艇機動で被害を受けていたが、輸送艦で直接上陸したので無傷であった。
また、陸戦隊は野砲代わりに迫撃砲ーー九七式曲射歩兵砲を36門も揚陸しており第二大隊はこの迫撃砲の砲撃の支援の下で突撃、第五海兵連隊第三大隊の守備陣地の突破に成功するのである。
突破報告を受けた第五海兵連隊は直ちにルンガ岬に駐屯していた第一大隊、第一海兵連隊から2個中隊の援軍を差し向けるのである。
第二大隊と陸戦隊はルンガ川に迫りこの川を越えれば飛行場は目の前だった。しかし、此処にも前哨線が展開しており銃撃で動けなかった。それでも陸戦隊の迫撃砲が前哨線を破壊した事で第二大隊は渡河を開始した。そこへ第一大隊と2個中隊が間に合ったのである。
激しい銃撃戦になり渡河中であった第二大隊は瞬く間に川に倒れていく。岡連隊長も負傷した事で第二大隊は撤退を開始し、陸戦隊は迫撃砲で撤退を支援し順次撤退するのである。
総攻撃後、岡連隊長と陸戦隊司令の安田大佐は迫撃砲の威力を絶賛し岡連隊長は「迫撃砲が後20門あればルンガ川を突破し飛行場に出れた」と述べる程であった。また安田大佐は「ガダルカナル島のようなジャングルに野砲や重砲は不向きであり軽量の山砲や迫撃砲を使用するのが望ましい」と高評価であった。
この戦訓もあり迫撃砲と砲弾の製造は史実以上に生産量を増やすのは言うまでもなかった。
総攻撃後の9月17日、陸軍参謀総長杉山元陸軍大将は大元帥である昭和天皇にガダルカナル島の戦いについて以下のように上奏している。
・川口支隊の攻撃不成功の要因はジャングルを利用した奇襲に重点を置きすぎ、連絡不十分なまま戦力を統合運用しなかったためであること
・連合軍の防御組織、とりわけ物的威力が予想以上であり、同島では今後まったくの力押しによる戦闘が求められること
・この戦いを受けて第17軍に、関東軍・支那派遣軍などから20個単位の戦車、砲兵戦力を転用・編入して戦機である10月中にガダルカナル飛行場を奪回するべきこと
ガダルカナル島の戦いにおいては、陸海軍戦力を統合発揮する必要があること
杉山の発言は陸軍もガダルカナルに漸くの本腰を据えたわけである。しかし、それらの兵力をガダルカナル島に送り込むにはどうしても輸送船が必要となる。駆逐艦の「鼠輸送」だけでは重火器の輸送は無理だったのだ。
そこでGF司令部は機動部隊の護衛と戦艦部隊によるヘンダーソン飛行場艦砲射撃の間接支援で、ガダルカナル島タサファロング沖に6隻の高速輸送船での揚陸を企図することになる。また、GF司令部はその支援にも輸送艦投入する事を決断した。特に戦車の揚陸の為に二等輸送艦である第『百一号』型輸送艦を10隻も用意するのである。
その輸送艦隊の護衛には第八艦隊が担当し第八艦隊も戦力を増強してもらう事になった。そして10月11日、日米両軍はサボ島沖で激突するのである。
ちなみに山本長官の言い回しや口調は役所広司をモチーフにしています。
なので三宅参謀はいません(何
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m
 




