第二十一話
(これだから陸軍は……頼むぞホンマに……)
一木支隊壊滅の報を受けた近藤は溜め息を吐いた。第二機動部隊はトラック諸島の沖合で燃料を洋上給油中であった。第二機動部隊はラビ攻略の支援を第八艦隊から要請されたのだ。しかし、近藤はラビ攻略を懐疑な眼差しをしていた。
「MO作戦は既に破綻しているに近い。今更ラビなんぞ攻略する暇があるならツルブ等に対空電探や航空基地を置いてニューギニア方面は守勢に回るべきだろう」
近藤は第八艦隊司令部は元よりGF司令部にも具申し山本もそれを重く受け止め、GF司令部側からラビ攻略を8月23日に中止させるのである。それに伴い、第二機動部隊はトラック諸島に帰還するがガダルカナル島の戦況が思わしくないのは事実である。
そして一木支隊が壊滅した陸軍は本格的にガダルカナル島への介入を決定。更にはダバオに駐屯していた川口旅団の投入を半決まりだったのを決定に変更したのである。
また海軍、元よりGF司令部はラビ攻略の部隊(約1200名の一個大隊規模)をガダルカナル島の陸戦隊増援として輸送艦で派遣するのである。その両部隊の護衛としてトラック諸島に戻ったばかりの第二機動部隊に白羽の矢が立ったのである。
そして空母の増援もあった。就役したばかりの『雲龍』型空母2番艦の『天城』が第二機動部隊に配備されたのである。
「まだ『加賀』の修理は終わらないのか?」
「対空兵装や対空電探等を搭載する予定ですからね。思ったよりも掛かるのだと思います」
近藤の呟きに参謀の千早少佐はそう答える。
「幾ら正規空母とはいえ……配備予定のが欲しいものだな」
近藤の言葉に白石や千早少佐達は頷くのである。それはさておき、近藤の第二機動部隊は増援の陸戦隊を載せた輸送艦と護衛隊を後方に置きつつトラック諸島を出撃した。
第二機動部隊の任務は無事に輸送艦隊がガダルカナル島に揚陸させる事と敵機動部隊が出現したらこれを撃破する事だった。
(しかし……輸送艦隊を無事にガダルカナル島を届けるには……)
近藤はそう思うが一つ、案があった。
「白石、千早。一つ案がある」
「何でしょうか?」
「『長門』『陸奥』『龍鳳』を護衛艦隊担当の第八艦隊に一時配備としてガダルカナルに突っ込ませる。そして二戦艦は状況を見て飛行場を砲撃してもらう」
「……成る程。揚陸中の空襲を警戒するなら直接飛行場を叩く方が成功する確率は高くなりますね」
「戦艦も二隻くらいならあの狭い水道や泊地ならば問題無いかと思います。問題があるとすれば二戦艦の艦長かと……」
「ですな。いきなり対地砲撃をしろと言われると砲術屋の面子もありますからな」
「そこは俺が直接頭を下げよう。頭を下げて作戦が成功するなら俺は何でもやるよ」
二人の言葉に近藤は笑みを浮かべ、作戦は決まる。近藤は直ぐに『長門』艦長の矢野大佐と『陸奥』艦長の山澄大佐を呼び事情を説明し二人に頭を下げ「砲術屋の面子としてあるだろうが、是非ともやってもらいたい」と述べた。二人は近藤が頭を下げた事に驚きつつも「戦艦の出番を出してくれた事に感謝したい」と述べ三隻は第八艦隊に臨時配備されるのである。
また、事情を聞いた第八艦隊も臨時とは言え戦艦の配備に三川中将らは驚きつつも輸送艦隊の無事な揚陸を願うのである。なお、三川は近藤から「艦砲射撃をする際に是非ともやってもらいたい事がある」との伝言を聞いた時には成る程と納得する。
8月25日、第二機動部隊はガダルカナル島に近づきつつあった。近藤は部隊の動きを悟られないようにトラック諸島に在泊する第四艦隊にお願いをし通信量を増やさせ第二機動部隊がトラック諸島に在泊しているという偽装を行わせた。これにより米太平洋艦隊情報部が騙されフレッチャー機動部隊に「日本軍機動部隊はトラック諸島にあり」という情報部判断を送られ、フレッチャー中将もそれを信じた。
その判断によりフレッチャー中将は大西洋から回航された空母『ワスプ』の第18任務部隊を燃料補給の為に南下させたのである。
「敵機動部隊がまだ見つからないなら先にガダルカナル島の航空戦力を叩く」
索敵をしてフレッチャー機動部隊を発見出来なかった第二機動部隊は先にガダルカナル島を叩く事を決断、8月27日0430に夜間発艦ではあるが攻撃隊を発艦させた。
零戦36機、艦爆36機、艦攻36機の攻撃隊は吊光弾を念の為に搭載した二式艦偵2機に誘導されながらガダルカナル島を目指すのである。この攻撃隊は0540頃にガダルカナル島上空に到着、朝日を浴びつつ上空にいたF4F戦闘機19機を零戦隊が排除しつつ攻撃を開始したのである。
「用意……撃ェ!!」
対空砲火の中、艦攻隊が800キロ陸用爆弾36発を次々と投下しその爆発の威力で対空砲火が下火になった瞬間を逃さずに高橋定大尉率いる艦爆隊が急降下を敢行、対空電探基地(新設されたばかり)や燃料タンク等を破壊し重要施設のダメージを狙うのである。
その後、ガダルカナルの飛行場は昼間に再度ラバウルからの航空攻撃を受けて基地機能は低下したのである。そして同日の夜半、輸送艦隊を護衛した第八艦隊がガダルカナル島泊地に侵入したのである。
「目標、敵飛行場!! 砲撃始めェ!!」
8月28日0100頃、『長門』『陸奥』の二戦艦は距離2万で砲撃を開始した。二戦艦からの砲撃に飛行場では混乱が生じていた。
「何事だ!?」
「ジャップの戦艦です!! ジャップの戦艦が沖合から艦砲射撃を此方に行っています!!」
「な、何だと!?」
「各所で誘爆が激しくこのままでは司令部にも火災が来ます!! 直ちに避難を!!」
ヴァンデグリフト少将は部下に急かされつつもジープに乗り込んで退避するのである。『長門』『陸奥』は約1000発の砲弾を飛行場に叩き込んだのである。この艦砲射撃でヘンダーソン飛行場のカクタス航空隊は配備していた航空機73機のうち68機が破壊され飛行場は砲弾の跡が多く使用不能となる。しかもこの砲撃での砲弾は半分以上が不発弾であった。
「砲撃の半分くらいが不発弾? ジャップの砲弾はそれ程酷いのか?」
報告を受けたヴァンデグリフト少将は首を傾げるがニューカレドニア島ヌーメアに司令部を置く南太平洋地区司令官及び南太平洋部隊司令官であるロバート・リー・ゴームレー中将はガダルカナル島からの報告を受け舌打ちをする。
「チッ、奴らは時間稼ぎをしたわけだな」
「それはどういう意味で?」
ゴームレー中将の呟きに第62任務部隊司令官のリッチモンド・ケリー・ターナー少将が質問をする。
「不発弾は信管がある。ちょっとやそっとで不発弾は除去出来ないしその間は飛行場は使用不能だ。航空機も飛べないし降りれない。奴等はその間に上陸部隊を揚陸させるだろうな」
「そういう事ですか、クソッタレのジャップが」
ターナー少将はそう悪態をつくが、悪態をついて飛行場が使用可能になるわけではない。
「今の海兵隊の戦力でどれだけ持ちこたえられるかだな……」
そう呟くゴームレー中将であった。そして8月28日、前進していた第二機動部隊は早朝から索敵の為に発艦した二式艦偵がフレッチャー中将の第61任務部隊ーー第16任務部隊を発見したのである。
発見されたキンケイド少将は即座に第11任務部隊と合流をした。そして第二機動部隊も空母『サラトガ』から発艦したSBDに発見され日米の機動部隊はほぼ同時に発見したのである。
「先手必勝だ、先に戦爆連合を送れッ」
第二機動部隊は零戦21機、艦爆24機の第一次攻撃隊(隊長 関衛少佐)を発艦させた。そしてこの頃に『龍鳳』から発艦した零戦12機を『雲龍』『天城』で6機ずつ収容した。これは航空攻撃を予見した近藤の命により揚陸した輸送艦隊ト共にトラック諸島に向かっていた『龍鳳』から発艦させ臨時の防空隊として参戦させたのである。
そして第二機動部隊は第二次攻撃隊(零戦18機 艦爆12機 艦攻24機)は『天城』艦攻隊隊長の今宿大尉を隊長とし出撃したのである。
そして第61任務部隊に向かった第一次攻撃隊であるが、被害は続出していた。零戦隊がF4Fを蹴散らしている間に関少佐の艦爆隊は攻撃を開始したが第61任務部隊は対空火器を増強しており、特にボフォース40ミリ機関砲の威力は凄まじかった。
この対空射撃で艦爆14機を喪失し更には帰還途中に3機が被弾での影響で不時着水を余儀なくされている。(なお、パイロットは全員救助)
そして与えた被害は『サラトガ』に4発の命中弾でありその爆風が機関室にも入り込み『サラトガ』は速度17ノットまでしか発揮出来ず、フレッチャーは攻撃終了後に後退する事にさせるのである。
なお、第二次攻撃隊は第61任務部隊がスコールに入った事で事実上攻撃を断念した。今宿大尉は尚も粘ろうとしたが燃料不足の危険もあったので旗艦『雲龍』に攻撃を断念、帰還すると打電後に帰還するのであった。
そして再度索敵機を放つとスコールから出た第61任務部隊が南下しているのを確認したのである。
「敵機動部隊が撤退しているなら仕方ない。我々も引き上げよう」
第二機動部隊は零戦4機、艦爆14機の喪失をしてトラック諸島に帰還し、後に『第二次ソロモン海戦』と名付けられたこの戦いは戦略的に日本が勝利をし(川口旅団と陸戦隊の揚陸成功)戦術的にはアメリカが勝利したのである。
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