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第二十話








「第八艦隊は栄光を掴んだか……」


 トラック諸島で待機する戦艦『陸奥』の艦橋で近藤はそう呟く。第八艦隊からの報告があったのは8月9日の1000頃だった。

 8日の夜中にガダルカナル島泊地に突入した第八艦隊は連合軍南方部隊(重巡『キャンベラ』『シカゴ』等が主力)と交戦、南方部隊を僅か6分で壊滅させたのである。南方部隊はこの攻撃で『キャンベラ』『シカゴ』は後に沈没する事になる。

 南方部隊を壊滅させた第八艦隊はそのまま南方部隊と交戦中に発見した連合軍北方部隊と交戦を開始、『クインシー』『アストリア』を撃沈する結果を生んだ。

 2つの部隊と交戦した第八艦隊は一旦はサボ島北方で集結し再度突入するか議論されたが『鳥海』艦長ノ早川大佐は突入を主張した。


「何を躊躇う必要があるのです!! 直ぐ数キロ先に敵輸送船団がいるのですよ!!」

「しかしだね早川艦長、敵輸送船団とは言うがもう揚陸されている可能性もあるのだよ」


 早川大佐はそう言うが大西参謀長はそう主張し引き揚げを具申する。しかし早川艦長は食い下がる。


「敵機動部隊は撤退しているのは確認しているじゃありませんか!? 此処で輸送船団をやりませんと第八艦隊は弱腰と言われますよ!!」

「しかしだな……」

「ならば司令部は他の艦に移動して下さい!! 突入は『鳥海』一艦で行います!!」

「まぁ待て早川艦長」


 激論している時、口を開いたのは三川中将であった。


「参謀長、艦隊を分けよう」

「長官!?」

「突入するのは『鳥海』に第十三戦隊と第十四戦隊、『朝潮』『大潮』で行う。六戦隊と残りは北方へ退避し突入艦隊の脱出を支援する」

「成る程、十三戦隊と十四戦隊は鹵獲艦ですからな。失っても問題は無いというわけですな」


 三川中将の案に大西は納得するように頷く。


「ウム。万が一もあるから参謀長と主席参謀は『青葉』に移動してもらいたい」

「は、分かりました」


 三川中将の決断に大西参謀長らも頷き、『鳥海』を退艦して『青葉』に乗艦するのである。そして第八艦隊は艦隊を二分にし『鳥海』らは再度サボ島に突入するのである。この突入時に異変を察知した東方部隊が『鳥海』ら突入艦隊と激突した。

 しかし、東方部隊は史実の『ホバート』を欠いた乙巡1、駆逐艦2の部隊であり突入艦隊を防ぐ事は出来ず逆に乙巡『サン・ファン』が大破、後に沈没する被害を出して敗走したのである。また、態勢を建て直そうとしていた甲巡『オーストラリア』と交戦し探照灯を照射していた『鳥海』が中破するが『オーストラリア』を大破させるのである。

 そして0116、突入艦隊はガダルカナル泊地に躍り出たのである。


「全艦、砲雷撃戦始めェェェェェェ!!」


 投錨し動こうにも動けない輸送船団は次々と被弾炎上しガダルカナル泊地の波間に消えていくのである。突入艦隊は砲雷撃開始から24分後に泊地を離脱し、突入艦隊は輸送船11隻を撃沈、4隻大破後に放棄という戦果を生んだのである。

 初戦は何とか日本側に軍配が上がったのである。また、帰路で第八艦隊は敵潜水艦『S-44』の襲撃に遭遇するが第八駆逐隊が先に『S-44』を発見し爆雷を投下したので『S-44』は撤退し『加古』の喪失は免れたのである。

 しかし、連合軍は撤退という二文字を選択する事はなく、ラバウル航空隊は連日に渡りガダルカナル島までの航空攻撃をする羽目になる。その為トラック諸島に待機していた近藤はガダルカナル島を攻撃する為の航空基地建設を主張した。

 既にブカ島に零戦隊はいたがそれでも往復するのは少し疲労があるのでブーゲンヴィル島の南部にあるブインに航空基地が建設される事になる。設営隊がブインに入ったのは8月11日の事である。

 無論、日本軍もガダルカナル島の状況を座していたわけではなく海軍(GF司令部)は連合軍(米軍)の反攻作戦と認識していたが軍令部側はそこまで捉えておらず楽観視していた程であった。


「南方からの報告では上陸した米軍は約2万というが……」

「ただの陽動だろう。主力はポートモレスビーから攻める筈だ」

「ソ連大使館情報では上陸したのは3000弱で基地を破壊して後は撤退準備中だと言うぞ」

「陸さんにはそう言いますか」

「これを出汁にFS作戦の兵力を抽出してもらうか」


 そんな事を話す軍令部である。なお、楽観視する軍令部の事を聞いた山本は9月に軍令部に喝を入れるために第四艦隊司令長官の井上中将を軍令部次長の伊藤中将と交代という形で再び軍政へと向かわせ軍令部の空気を替えさせるのである。それはさておき、海軍からの要請を受けた陸軍は第17ラバウルに処置を任せるとしつつもグアム島で待機していた一木支隊、パラオ駐屯の第35旅団(川口支隊)を投入する事を決定したのである。


「お待ち下さい。せめて川口旅団の上陸まで攻撃は控えるべきです」


 トラック諸島に到着した一木支隊に近藤は具申をする。


「ガダルカナル島の第13設営隊からの報告では敵は約2万弱です。僅か2000で突っ込むのは日露戦争の旅順攻防戦と同じ行為です」

「待って下さい。2万ですか?」


 一木大佐は近藤の言葉に目を見開いた。一木大佐が聞いていたのは敵は撤退準備中で3000弱という情報だった。それを聞いた近藤は頭を抱えた。


(軍令部の大馬鹿野郎が!!)


 軍令部に怒鳴りつけたい心を抑えつつ一木大佐に視線を向ける。


「大佐、取り敢えずは上層部に具申して下さい。ガダルカナル島に赴くのはそれからでも遅くはありません」

「わ、分かりました」


 近藤の言葉に一木大佐は頷き、直ぐに第17軍へと報告したのである。しかし第17軍はそこまで重要視をしなかったのだ。


「近藤中将は開戦初期の我々の活躍を知らないと見える」

「左様。ガダルカナル島の敵は一木支隊で十分でしょう」


 百武中将らはそう判断する。結局、一木支隊は送られるのだがその輸送には第『一号』型輸送艦と第『百一号』輸送艦が選ばれた。強行輸送をするならこの二種類の輸送艦が最適であり、後の川口旅団等の輸送にもこの輸送艦が使用されるのである。

 それはさておき、ガダルカナル島への最初の増援は一木支隊約2000と陸戦隊一個大隊が輸送される事になり、護衛は第八艦隊が担当しその援護として近藤の第二機動部隊が派遣される事になる。


「派遣するのは良いが……」

「『雲龍』と『龍鳳』だけでは些かキツイ気がしますぞ。せめてもう1隻は欲しいところだが……」

「3日前にも具申したけど……航空隊の錬成で空母は必要だから難しいとの返答だ」

「GF司令部は戦を知っているんですかね……」


 近藤の言葉に白石は肩を竦める。第三艦隊は漸く『翔鶴』が戦列復帰をしたので空母2隻にまで回復したのだ。それに『加賀』と『飛龍』は何とか8月下旬頃には修理等が完了するのだからGF司令部も何とか敵には待ってもらいたい気持ちであっただろう。

 しかし、現実はそう甘くはないのだ。だからこそ近藤は空母ーー『瑞鶴』の派遣を求めたが断れたので仕方なく二空母(『雲龍』『龍鳳』)で何とかするのである。

 一木支隊約2300と安田大佐の横須賀第五特別陸戦隊約1000は第『一号』型輸送艦4隻と第『百一号』型輸送艦4隻に乗艦しラバウル沖合までは第二機動部隊に護衛されその後は第八艦隊に護衛されるのである。

 第二機動部隊は上陸船団を第八艦隊に渡すとそのままガダルカナル島に向けて南下、サンタイサベル島北方まで進出すると上陸船団支援の為に攻撃隊を発艦させた。


「対空電探を発見したら叩くように。ラバウル航空隊の負担をなるべく減らしたい。後、戦車とかもあれば叩くようにな」

「分かりました、お任せ下さい」


 近藤は発艦前に攻撃隊隊長の高橋定大尉に声をかけ、高橋も頷き発艦するのである。なお、攻撃隊の発艦で零戦隊は両翼下に発艦用のRATOを搭載して発艦している。これは開戦前に軍令部次長だった近藤が色々と開発させた中の一つに含まれており、今回の戦いから使用される事になったのだ。


(ま、些細な事だ)


 多少早まった歴史だが、近藤は気にする事なく攻撃隊を見送るのである。そして攻撃隊はガダルカナル島に向かい、その上空で敵戦闘機の歓迎を受ける。


「直掩機以外は掛かれ!!」


 零戦隊隊長の宮野善治郎大尉は無線にそう言うや否や速度を上げて敵戦闘機の輪に突っ込むのである。たちまちばらける敵戦闘機群に零戦隊が群がり、一機、また一機と撃墜していくのである。それを尻目に攻撃隊はヘンダーソン飛行場の攻撃を開始する。


「俺の小隊は対空電探基地を叩く、他は滑走路等を叩け!!」


 高橋大尉は対空電探基地を発見、自身の小隊で攻撃すると共に他は滑走路等を叩くように指示を出すと急降下を開始し250キロ爆弾を対空電探基地に叩きつけるのである。


「攻撃隊より入電。敵飛行場は叩けているようです」

「ん、まぁ念の為だ。二式艦偵を出せ」


 ミッドウェー海戦で『蒼龍』等に搭載されていた十三試艦爆が二式艦偵として一旦は採用された。しかし発動機は金星六二型なので実質的には彗星三三型である。『雲龍』から発艦した二式艦偵は高速を利してガダルカナル島に接近し写真撮影をして帰還するのである。


「ウム……もう一度叩こう」

「やはり叩き足りませんか?」

「陸さんを支援するんだ、徹底的に叩こう。次は零戦隊の一部にも六号爆弾を搭載させろ」


 六号爆弾とは一式七番六号爆弾三型の事であり焼夷爆弾の事である。近藤は何かに使えると思い、第二機動部隊に積載させていたのだ。


「零戦隊にもですか?」

「食糧とかあったら焼き払ってしまえ」

「成る程。それは面白いですな」


 近藤の言葉に吉岡航空参謀もニヤリと笑みを浮かべるのである。その後に送られた第二次攻撃隊は第一次攻撃で対空電探基地を破壊していた事もあり少ない戦闘機の歓迎を受けたのである。しかし、零戦9機で敵戦闘機は敗走し第二次攻撃隊は思う存分の攻撃を行うのである。この第二次攻撃で米海兵隊は滑走路等の修理に使用するロードローラーやトラック等、更には配置していた野砲や軽戦車等が破壊され、海岸に揚陸中だった食糧等の物資を六号爆弾で燃やされるのである。

 この攻撃でヘンダーソン飛行場は3日間の使用不能となり、その間の8月19日未明、ガダルカナル島タイボ岬(飛行場の東側約35km地点)に一木支隊が上陸し、クルツ岬方向に安田大佐の陸戦隊が上陸したのである。なお、糧食は第13設営隊隊長の岡村少佐からの要請もあり何とか2ヶ月分を確保して輸送艦に詰め込んで揚陸させたのである。

 また、近藤としては現地偵察をして強固な守備陣地を発見したら航空攻撃で叩き一木支隊を支援する事も思案していた。

 しかしながら、それは全て大本営にせっつかまれて十分な状況情報が無いまま一木支隊が突撃し壊滅した事で御破算になるのであった。






御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m

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― 新着の感想 ―
一木大佐は脳筋すぎるのか? 少しはこちらの都合を考えて欲しいものだ(はぁ
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