第十九話
やはり米軍はやってきた。米軍は史実通りに対日反攻作戦である『ウォッチタワー作戦』を発令させた。投入兵力は海兵隊約二万で支援する艦隊はフレッチャー中将の第61任務部隊等が主力となっていた。
しかし空母は大西洋から回航された『ワスプ』と修理が漸く完了した『サラトガ』であり史実で参加していた『エンタープライズ』はおらず、未だ修理中であった。
だがそれでもキング海軍作戦部長は作戦を強行させフロリダ諸島とガダルカナル島の上陸は成功させるのである。
「将軍、滑走路を確保しました。他にもジャップが遺棄していったトラック等も確保しています」
「ウム。幸先は良い事だな」
部下からの報告に海兵隊第一海兵師団長のヴァンデグリフト少将は満足そうに頷く。
「ですが気になる事もあります」
「……フロリダ諸島の事かね?」
「はい、もぬけの殻でした。5月の時はジャップの基地があったのにも関わらずいませんでした」
「ジャップがガダルカナルに戦力を集中させたのかもしれんが……まぁ臆する事はあるまい」
「はぁ……」
ヴァンデグリフト少将はそう言うのである。真実は少し違っていた。フロリダ諸島の水上機基地は2日前にショートランド諸島へ後退しポポラング島にて史実と同じく水上機基地を建設し始めたばかりだった。
これは近藤の具申でもあった。近藤は7月25日、空路でラバウルに向かい新設されたばかりの第八艦隊司令長官の三川中将と面会をしていたのだ。その話の中で近藤はソロモン諸島の危険性を主張したのだ。
「ソロモン諸島のガダルカナル島に航空基地を建設するとの事だが、その中間点のブーゲンヴィル島やショートランド諸島にも中継基地を建設した方が良いと思う」
「ほぅ。中間点ですか?」
「FS作戦で島伝いに移動してニューカレドニアに向かうのだが、零戦の航続距離が限界に近い」
現在、空母や基地航空で使用されている零戦22型の航続距離は2,350km(400L増槽付)であり片道ならガダルカナル島へ向かえる。しかし、帰ってくるとなると燃料が足りずに不時着してしまうのだ。その事実に気付いていた近藤は「ガダルカナル島を巡る戦い」の記憶を頼りに最もらしい理由を付けてフロリダ諸島の横浜航空隊を退避させる事にしたのだ。
「成る程、確かに不時着用の飛行場は必要ですね。分かりました、直ちに手配します」
三川中将も近藤の具申に納得し直ぐに撤退の艦艇を派遣したのである。なお、ガブツ島にタナンボゴ島、フロリダ島の部隊はショートランド諸島に向かったが、鈴木中佐の第84警備隊400名余りはガダルカナル島へ配置替えとなった。そして8月7日を迎えたのである。
ガダルカナル島からの緊急電を受けた三川中将の第八艦隊は対応を開始しつつ第十一航空艦隊に援軍を要請した。第十一航空艦隊はラバウルの第二十五航空戦隊に攻撃を発令させた。
第二十五航空戦隊司令官の山田少将は零戦が帰って来れない事に不安を抱いたが台南空司令官の斎藤大佐は問題無いと山田少将に報告した。
「ブカ島に不時着用の滑走路があります。帰りはそこに着陸し燃料給油して帰還すれば問題ありません。もしくは零戦隊の一部はブカ島に駐留した方が良いでしょう」
史実ではガダルカナル戦が始まってから使用されるブカ島の滑走路はそれ以前から使用可能としていた。これは5月のMO作戦にも関連していた。MO作戦時にツラギ島が攻撃された時にラバウルも航空攻撃しようとしたが零戦隊の航続距離が問題となった。そこへパイロット達の意見もブカ島に不時着用の滑走路を造成する事になった。それが6月1日であり設営隊はガダルカナル島の造成に充てられていた第13設営隊の一部が造成を行った。
完成したのが7月29日であり本当に不時着用の滑走路に燃料タンクや2個小隊規模の警備隊しかいなかったが使える事は使えるのであり、それを聞いた山田少将も攻撃を許可したのである。
零戦27機、陸攻27機、艦爆9機は直ちにラバウルから出撃するのである。なお、陸攻は史実と同じくラビ攻撃の為に爆装していたのでそのまま出撃となり艦爆隊も史実と同じく帰還途中に不時着水してパイロットは回収される事になる。
この攻撃で零戦隊は1機が撃墜されるもF4Fを26機、SBD6機を撃墜している。史実では台南空の坂井一飛曹が被弾重傷を負うが、無線電話も普通に使用可能であり尚且つ風防も防弾ガラスだった事もあり機体の被弾はするもののSBD4機を撃墜した程であった。
空でラバウル航空隊が奮戦する中、第八艦隊(『鳥海』ら数隻)は7日1430にラバウルを出撃したのである。その道中でカビエンで輸送任務をしていた第六戦隊と第十四戦隊と合流しブーゲンヴィル島方面に向かうのである。
この第八艦隊は以下の艦艇で編成されていた。
第八艦隊
司令長官 三川中将
旗艦『鳥海』
独立旗艦
『鳥海』
第六戦隊
『青葉』『衣笠』『加古』『古鷹』
第十三戦隊
『石狩』(元『ヒューストン』)
第十四戦隊
『穂高』(元『ホバート』)『天塩』(元『ボイシ』)
第十八戦隊
『天龍』
第八駆逐隊
『朝潮』『荒潮』『大潮』『満潮』
このうち、第十三戦隊の『石狩』と第十四戦隊の『穂高』と『天塩』は南方作戦時に鹵獲された『ヒューストン』『ホバート』『ボイシ』であり、各艦とも修理と日本式の武装に改めてから第八艦隊に配備されたのである。他にも第八駆逐隊は二水戦の第十五駆逐隊がインド洋作戦『B作戦』に投入され、三水戦が戻るまで(三水戦の第八艦隊配備が予定されていた)その代わりに第八艦隊へ一時配備されていた。
また、トラック諸島に駐留していた近藤の第二機動部隊も第四航空戦隊の『龍驤』『隼鷹』『飛鷹』の三空母が『B作戦』支援のために急遽インド洋に向かう事になり8月2日にはトラック諸島を出港していたりする。この為、第二機動部隊は『雲龍』と就役したばかりの『龍鳳』しかいなかったりする。
それはさておき、出撃する第八艦隊の援護の為にラバウル航空隊は8月8日にも航空攻撃を仕掛けた。この時、零戦12機は制空隊として7日の夕刻に再度ブカ島に向かい、8日にはブカ島から出撃したのである。この12機は笹井中尉率いる零戦隊であり中隊長の笹井中尉を筆頭に坂井一飛曹、西沢、太田等の後に有名となる『笹井中隊』として支えるベテランパイロットばかりで構成されていたりする。
ちなみに8日の攻撃で零戦隊はF4F19機を撃墜するも陸攻11機が未帰還となりラバウル航空隊はその戦力を半減させてしまうのである。しかし防弾装備を施した一式陸攻(桜花を搭載しない二四型丁)であったのでこれくらいの被害で済んだのである。
しかし、ラバウル航空隊の攻撃によるおかげでフレッチャー中将は機動部隊を撤退させるのである。なお、この撤退する様子をショートランド諸島から離水して偵察飛行をしていた横浜航空隊の九七式飛行艇に発見され第八艦隊に通報されるのである。史実であればフロリダ諸島の戦いで全滅する航空隊に発見されるのは何の因果であろうかは分からない。
だが、この通報により第一次ソロモン海戦は意外な方向に舵を変えるのである。
「敵機動部隊はニューカレドニア方面に撤退している。これは流れが此方に向いてきたな」
三川中将は250海里圏内に敵機動部隊(フレッチャー機動部隊)がいない事を掌握し空襲を受ける危険は無いと判断する。そして日没後(1630)に三川中将は全艦に向けて戦闘前訓示を発した。
『帝国海軍ノ伝統タル夜戦ニオイテ必勝ヲ期シ突入セントス。各員冷静沈着ヨクソノ全力ヲツクスベシ』
第八艦隊は旗艦『鳥海』を先頭に航続に『青葉』以下の第六戦隊、『石狩』の第十三戦隊、『穂高』『天塩』の第十四戦隊、『天龍』の第十八戦隊、『朝潮』以下の第八駆逐隊の順である単縦陣に変更し16ノットに増速して一路ガダルカナル泊地を目指し1700には航空燃料等の可燃物を投棄したのである。
「水偵よりサボ島南に乙巡3隻を発見との報告です」
その日は暗闇だった。『鳥海』『加古』より発艦した水偵はガダルカナル泊地に敵輸送船20隻とツラギ泊地に敵輸送船10隻ばかりを発見し『鳥海』に通報し第八艦隊は2240にサボ島南方水道への突入を開始、敵艦を発見したのは2243だった。これは駆逐艦『ブルー』だったが『ブルー』では装備していたレーダーが島影による電波の乱反射により役に立っていなかった。『ブルー』は第八艦隊に気付かず、また僚艦の『ラルフ・タルボット』と誤認し、遠ざかっていった。これにより三川中将は「戦闘」を下令したのである。
サボ島南方に到着したのは2330頃であり三川中将は命令を発した。
「全軍突撃せよ!!」
この下令直後、『鳥海』の見張員が左舷約15,000mに駆逐艦『ジャービス』を発見した。『ジャービス』は日中の空襲で大破し、退避中だった。
『鳥海』と『古鷹』は各艦魚雷4本を発射したが命中せず、『ジャービス』は日本艦隊に気付かず去ったのである。なお、この発射直後に『鳥海』は右舷方向に敵艦を発見し2343に水偵が吊光弾を投下し背景照明が成功した。
「見事な背景照明だ!! 敵艦が綺麗に見えているぞ!!」
「目標、敵先頭艦。魚雷、撃ェ!!」
距離3700で『鳥海』から再び魚雷が4本発射、この魚雷は照準した敵先頭艦ーー豪重巡『キャンベラ』に命中したのである。
「砲撃始めェ!!」
「撃ちぃ方始めェ!!」
『鳥海』から最初に砲撃を開始しそれに遅れて『青葉』以下の第八艦隊は一斉に砲撃を開始した。後に語られる『第一次ソロモン海戦』の始まりであった。
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