第十七話
「友永大尉は?」
『……『エンタープライズ』型の艦橋に突入したのを確認しました』
「……そうか……」
攻撃を終えた楠見少佐は『飛龍』隊副隊長の橋本大尉からの報告を受けた。第二次攻撃隊は艦攻と戦闘機しかおらず攻撃は艦攻だけだった。その為対空砲火の殆どを艦攻隊が受け止めたのである。F4Fを蹴散らした数機の零戦が降下して駆逐艦等に機銃掃射を行い対空火力を減らしはしたがそれでも突入前に18機の艦攻が対空砲火で撃墜された。
そして突入中に4機、突入後の離脱中に2機が撃墜された。しかし、『エンタープライズ』の右舷1発、左舷2発、『ホーネット』の右舷2発に魚雷を命中させたのである。その中で友永大尉機は魚雷投下後に被弾炎上、そのまま機を『ホーネット』の艦橋に体当たりをしたのである。
「『飛龍』に打電。敵空母2隻撃破だ」
「了解!!」
直ちに打電され『飛龍』の山口少将も第二次攻撃隊が戻り次第第三次攻撃隊の準備をさせるのである。その一方で第二艦隊からの第二次攻撃隊(零戦18機 艦爆18機 18機)を米第16任務部隊に差し向けていた。しかし、対空砲火が強力な事もあり『エンタープライズ』に爆弾2発の命中しかなかったのである。
「司令、搭乗員達の疲労が思っていた以上に大きいです。此処は第二艦隊と合流すべきです」
「そこまで酷いか?」
「はい。それに機体の修理も必要です。共食いもあると思います。今すぐ出せるにしても零戦18機、艦爆4機、艦攻3機です」
「ムゥ……」
航空参謀からの報告に山口は顎を撫でる。どう見ても攻撃隊には足りず待つしかなかった。そこで山口は第二艦隊との合流を決意し第二艦隊に連絡し所定の海域に向かうのである。しかし、航行中に『霧島』の21号対空電探が接近してくる米攻撃隊を探知したのである。
「上げれる零戦は全て上げろ!!」
『飛龍』『加賀』から零戦19機が何とか発艦し上空警戒の9機と合わせて迎撃を開始する。
「取舵イッパァァァァァァイ!!」
『飛龍』は軽快な動きを見せ急降下してくる敵SBDを回避する。しかし『加賀』は上空の雲から現れたSBDに対処出来なかった。
「直上ォォォォォォォ!! 急降下ァァァァァァァァァァ!!」
「取舵イッパァァァァァァァァイ!!」
岡田艦長は回避運動を行うが最後の2機が避けきれなかった。2発の1000ポンド爆弾は中部から下部飛行甲板に突き刺さり格納庫を転がっている途中で爆発した。爆風は待機していた艦爆や艦攻、整備員達を薙ぎ倒すが艦爆や艦攻は対艦兵装をしていなかったので誘爆はしなかった。しかし、『加賀』が現時点で空母としての機能を失ったのは言うまでもなかった。
「『加賀』被弾!! されど誘爆はせずとの事!!」
「続いて『飛龍』上空に直上5機!! 急降下ァァァァァァァァァァ!!」
「取舵イッパァァァァァァァァァァイ!!」
加来艦長が伝声管に向かって叫ぶ。『飛龍』も最初の2発は回避した。しかし、3発が飛行甲板に命中、中部飛行甲板のエレベーターは吹き飛び、艦橋左横に寄り掛かってしまう。しかし、これにより火災が入り込む事はなかった。
「消火作業急げ!! 消火作業急げェ!!」
加来艦長は素早く消火作業を発令する。無傷の整備員や搭乗員達がホースを伸ばし水を出して消火作業に移行する。手すきの者も消火器等を持ってきて消火作業に移るのである。
二空母にとって幸いだったのは対艦兵装の準備中でなかった事であり炎上はしていたが誘爆が二空母とも無かった事であった。だが二空母は飛行甲板が使用不能となりこれ以上の戦闘は不可能であった。
山口は直ぐに第二艦隊の近藤に打電した。
『第一機動部隊、全空母使用不能』
報告を受けた近藤は一瞬、目を閉じたが直ぐに見開き白石に命令をした。
「南雲の機動部隊との合流は中止しない。しかし、これ以上の戦闘は無理だな。山本長官に打電、これ以上の戦闘は不可也とな」
「はっ」
第二艦隊に配備されていた『瑞鶴』『雲龍』の飛行隊も着艦後に損傷が重すぎる機体は海没処分や共食いをしていたりするので即時に出せる機体は無かった。また、薄暮攻撃をしても夜間着艦出来るパイロットはいなかったので近藤も攻撃はこれ以上の出来ないと判断したのである。
「まだ空母が残っているではないか!? 長官、突っ込ませましょう!!」
報告を受けた『大和』のGF司令部では黒島中佐がそう叫び山本に具申をする。しかし、それを宇垣参謀長が制する。
「待て、残っている空母も殆どが余力が無いのだぞ。パイロット達の疲労も考えるべきだ」
宇垣の言葉に山本は目を丸くする。山本も偏見な事があり宇垣にはそういった態度を取っていたが今の発言は山本も評価を改めるのである。
「……黒島、近藤らの撤退は許可する」
「長官!?」
「責任は全て俺にある」
山本の言葉に黒島は肩を落とすのである。斯くしてMI作戦は中止され主力部隊は第二艦隊や南雲艦隊と合流するとそのまま内地へ帰還するのであった。
「まぁ負けたわけじゃないわね」
「そりゃあな」
内地へ帰還後、近藤は久しぶりに自宅に戻りハンナ達とイチャついていた。今は近藤の事情を知る零夢とイチャついていた(二人して裸で布団の中)ので近藤からの話を聞いていた。
「でも信さんの史実とやらよりはマシでしょ?」
「まぁな、史実だと四空母がやられた。今回は半分の二空母がやられて二空母は大破したが生き残る事が出来た」
「なら信さんの勝利よ。四空母を撃沈されるのと二空母を撃沈されるのとは違うわ」
零夢はそう言って微笑み、近藤の右頬にキスをする。
「だから……貴方は勝つわ」
「それは巫女の勘かな?」
「いいえ……貴方を愛する女の勘よ」
零夢は近藤に胸を押し付ける。まだもう一戦をやるつもりである。
そして翌日の6月21日、海軍省にて空母急増対策委員会が開かれその会議に近藤も出席した。なお、人員については山本、宇垣、南雲、近藤、山口、鈴木義尾軍令部第二部長、大西航空本部総務部長、江崎造船少将である。本来であれば草鹿、源田も参加すべきだが草鹿は重傷で入院、源田は戦死したので二人は除外されていた。
「まず共通点が何点か……空母の急増、新型戦闘機の開発配備量産、新型艦上爆撃機及び新型艦上攻撃機の配備量産、新型艦上偵察機の配備量産になると思われます」
航空本部総務部長の大西がそう主張し山本達は頷くがそこに口を開いたのは近藤であった。
「大西総務部長、そこに防空艦も加えてもらいたい」
「と言いますと?」
「味方空母を敵攻撃隊から守るには新型戦闘機は勿論だが防空火力がある艦艇も必要だと言う事だ。少なくとも、つい先日就役した『秋月』型駆逐艦を量産して機動部隊に組み込むべきだ。ただ、今暫くは既存の駆逐隊で防空してもらうしかないがね」
「成る程、確かにその通りです」
近藤の言葉に山口は頷く。隣にいる南雲も無言ではあるが頷いていた。他の者もミッドウェー海戦の生き残りである南雲と山口が認めるならとそこまで口を挟む事はなかった。
「分かりました……次に空母の脆弱性についてです。これは二空母の生存者や大破した三空母からの艦長達からの具申です」
「装甲を張っては? 神戸で建造中の第130号艦が飛行甲板に装甲を張ってはいるが……」
「しかし装甲を張るとなると航空機の搭載が少なくなります。実際に第130号艦は60機程度しか搭載出来ません」
「飛行甲板は捨て置くしか無いのでは? むしろ誘爆を防ぐために消火装置を増設して炎上を避けるべきです」
「確かに。そうなると散水器の搭載です」
「江崎造船少将、搭載は今修理中の空母から各自搭載して下さい」
「分かりました。そのように手配します」
「次に空母の急増についてです」
「輸送船から改装した空母は速度が遅い鈍足だ。海上護衛隊に移管するべきだろう」
「それは意義ありません。しかし、空母を急増するにしてもどの艦艇を空母に改装するかです」
「潜水母艦はこれ以上無理だろう。第六艦隊が黙ってはいない」
「既に3隻を改装して『祥鳳』は珊瑚海で喪失しているからな……」
潜水母艦の『大鯨』や『剣崎』型の『剣崎』『高崎』はそれぞれ『龍鳳』『祥鳳』『瑞鳳』に空母改装されており『祥鳳』は珊瑚海で戦没し『瑞鳳』はミッドウェーで大破し今はドック入りしていた。
「水上機母艦はどうだ?」
不意に近藤はそう呟いた。まぁ近藤は史実を知っていたのでそうなるように誘導をした。
「成る程。水上機母艦なら高速の『千歳』型や『日進』もいるな」
近藤の言葉に山本も頷いた。水上機母艦の活躍も少なくなるのは間違いなかったので空母への改装も有りだと山本も判断したのである。
「そうなりますとその3隻は改装すべきでしょうな」
「ウム。新規建造は『雲龍』型を量産するしか無いだろう」
「『天城』『葛城』は艤装の最終工事中であるから年内の就役は可能だろう。四番艦以降は来年度になる」
「……そうするしかありませんな」
鈴木軍令部第二部長も頷き、粗方の予定を決めたのである。
「それと先程の防空艦に附随してだが……これを見てもらいたい」
「これは……?」
近藤は一冊のノートを机に出す。
「『日向』の松田艦長が纏めた『爆撃回避法』という操艦マニュアルのノートだ。南雲、読んでみてくれ」
「はぁ……ムッ、これは……」
ノートを見た南雲の顔色が変わってきた。
「近藤さん、これは……」
「どうだ? 水雷屋として見ても見事な回避方法だろ?」
「確かに……これを習得すれば回避も楽になります」
松田大佐が認めた回避法マニュアルは水雷屋の南雲から見ても十分な出来だったのだ。
「これは各艦の艦長、船長クラスも目を通しておく方が良い。これも大量に刷って配布したい」
「成る程、分かりました」
斯くして方針は決定したのであった。
「近藤君、少し話がある」
「長官?」
そして会議後、近藤は山本に呼ばれるのであった。
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