第十六話
「敵ィィィィィィィィ!! 直上ォォォォォォォォォォォォォ!! 急降下ァァァァァァァァァァァァァ!!」
叫んだのは『加賀』の見張り員であった。それを聞いた『加賀』艦長の岡田大佐は咄嗟に伝声管に向かって叫んだ
「取舵イッパァァァァァイ!!」
『とぉーりかぁーじ、イッパァァァァァァァイ!!』
『加賀』が急速転舵を行う。それもあってか、最初に急降下を開始したマクラスキー少佐の小隊は全て至近弾で回避した。
「更に来ます!!」
続くギャラハー大尉機のSBDが急降下をしようとした時、ギャラハー大尉機が火を噴いた。零戦の銃撃だった。ギャラハー大尉の小隊は零戦3機の攻撃を受け退避行動をした事で『加賀』を攻撃する事が出来なかった。
この数分前、TBDデバステーターの攻撃で低空に降りた零戦隊を見た岡田艦長は嫌な予感を覚えたので無線電話にて上昇せよと命じていた。それが功を成したのである。
これにより『加賀』は回避に成功するのである。しかし、他の空母はそうではなかった。
「敵機直上ォォォォォォォ!! 急降下ァァァァァァァァァァ!!」
0725(1024)、レスリー少佐の『ヨークタウン』隊17機は手前にいた二空母ーー『蒼龍』『瑞鳳』に向けて急降下を開始した。レスリー少佐は発艦時のミスで爆弾を誤投下していたが自ら先陣を切って機銃掃射で対抗しようとした。レスリー少佐は機首の12.7ミリ機銃を放ち、機銃弾が艦橋を襲う。その破片が『蒼龍』艦長柳本大佐の右腕を食い千切った。
「グォッ!?」
「艦長!?」
抱き起こす兵だったがその一瞬は指揮しておらず直進をしてしまいそれが格好の狙いだった。2番機ホルムベルク大尉が投下した1000ポンド爆弾は『蒼龍』の前部エレベーター前に命中、瞬く間に大爆発を起こした。
爆風は発艦準備中だった九九式艦爆を吹き飛ばし、胴体下に搭載していた250キロ爆弾が誘爆を始めた。それは何処かしこでも誘爆を始めており『蒼龍』は瞬く間に炎上したのである。
「『蒼龍』に爆弾3発命中!! 『蒼龍』炎上中!!」
「何!?」
「あ、『赤城』上空に急降下!!」
「なッ!?」
南雲らは一瞬の隙を突かれた。4機のSBDが急降下を開始しており慌てて高角砲や25ミリ機銃が射撃を開始するが殆ど当たる事はなかった。
「おもぉーかぁーじ!!」
『赤城』艦長の青木大佐は懸命に操艦を行い投下される1000ポンド爆弾を回避するが、回避出来たのはクルーガー中尉機とウェバー中尉機だけであり最後に急降下してきたベスト大尉機の1000ポンド爆弾は『赤城』の飛行甲板中央に突き刺さって格納庫に転がり込んだ。1000ポンド爆弾はそこで力を解放したのである。
1000ポンド爆弾の爆発は凄まじく爆風が飛行甲板の中央から押し上げて甲板の破片が宙に舞い、格納庫にいた整備員や搭乗員達を薙ぎ倒す。
「消火急げ!!」
増田飛行長はそう叫ぶが被弾の影響で散水器が故障していた。仮に散水器が稼働していたとしても消火は出来なかっただろう。何せ格納庫の床には陸用の250キロや60キロ爆弾が転がっており爆風で次々と誘爆していたのだ。だが彼等SBD隊はまだ投下していないのが4機残っており、その4機は付近にいた軽空母『瑞鳳』に向けて急降下を開始した。
「とぉーりかぁーじ!!」
『瑞鳳』は回避運動を行うも3発が飛行甲板に命中、『瑞鳳』も瞬く間に炎上した。しかし、幸いだったのは『瑞鳳』は防空空母としての役割であり攻撃隊の発艦準備中で無かった事だ。爆風は翼を休めていた九七式艦上攻撃機を吹き飛ばしたがガソリン等は入れていなかったので誘爆は起きなかったのだ。
しかし飛行甲板に3発命中した『瑞鳳』は発着艦不能だったのは誰からの目を見ても言うまでも無かった。しかも運が悪い事に『瑞鳳』に命中弾を与えたSBDが低空で離脱中に『赤城』の艦橋に機銃掃射を行い南雲中将以下死傷者が出ていた。
「………………八戦隊司令部に発光信号。『我、航空戦ノ指揮ヲ取ル』」
『ッ』
『飛龍』から三空母の惨状を見ていた山口の言葉に加来艦長や伊藤首席参謀は息を飲んだ。山口は振り返り全員を見渡す。
「……まだ我が『飛龍』がいる。『加賀』がいる。近藤さんの第二艦隊に『瑞鶴』がいる。『雲龍』がいる……。いいか、刺し違えてでも、敵の空母は全て沈めるッ!! このままじゃあ我が帝国海軍は末代まで舐められるぞ!!」
『オオオォォォォォォ!!』
『飛龍』から『我、航空戦ノ指揮ヲ取ル』の電文は全方位に渡り送信された。斯くして『飛龍』以下の反撃が始まるのである。
「チッ『赤城』らが被弾炎上か」
「はい。二航戦司令官の山口少将が『我、航空戦ノ指揮ヲ取ル』の電文を放ちました」
第二艦隊では第一航空艦隊からの被害の電文を受信し報告を受けた近藤は顔を歪ませていた。
(これが歴史の修正力……というヤツか)
近藤は溜め息を吐きながら『瑞鶴』に視線を移す。
「『瑞鶴』に発光信号。直ちに攻撃隊発進準備を急がせろとな。それと攻略部隊支援隊の栗田に此方に合流するよう伝えろ。支援隊がミッドウェー島に一番近づいている。下手こいたらやられるぞ」
「分かりました。直ちに」
『高雄』から『瑞鶴』に向けて発光信号が飛ぶ。『瑞鶴』ではミッドウェー島攻撃から帰還した攻撃隊の収容が終わったばかりであった。
「全く、人使いが荒いもんだな」
発光信号の内容に五航戦司令官の原少将は苦笑する。
「三重野、発艦準備はどうか?」
「予定では両空母合わせて零戦24機、艦爆18機、艦攻18機が第一次攻撃隊として準備中です」
「ん。なるべく早くに頼む」
三重野航空参謀に原少将はそう言うのである。そして第一航空艦隊では二航戦の山口少将が指揮を取り敵米機動部隊への第一次攻撃隊を発艦させていた。
『加賀』
零戦12機
艦爆18機
『飛龍』
零戦12機
艦爆18機
零戦と艦爆のみの戦爆連合であったが艦攻隊はミッドウェー島攻撃に出していたので致し方ない事であった。指揮官は『飛龍』の小林道雄大尉が取り敵米機動部隊を目指すのである。それに続く形で第二艦隊も高橋定大尉率いる攻撃隊を発艦させたのである。
その一方で小林大尉の第一次攻撃隊は『筑摩』五号機からの誘導により敵艦爆隊との小規模な交戦はせずに0840頃に第一次攻撃隊は空母『ヨークタウン』を発見した。
「『トツレ』を放て!!」
零戦隊24機が敵F4F12機と空戦を展開を尻目に小林大尉は突撃命令を出した。
「『ト連送』を打て!! 全軍突撃せよ!!」
小林大尉は突撃命令と共に急降下を開始した。
「『飛龍』艦爆隊、往くぞォォォォォォォ!!」
先に攻撃を開始したのは『飛龍』隊であった。『加賀』隊は『飛龍』隊の戦果を確認してからの突撃を判断した。『ヨークタウン』は甲巡2隻(『アストリア』『ポートランド』)駆逐艦6隻を従えての輪形陣を組んでいた。
護衛艦艇からの対空砲火を小林隊18機は気にする事なく躊躇せずに突撃、この急降下の最中に小林大尉機が被弾したが防弾装備を施していた事もあり小林大尉機は撃墜しなかった。その為『ヨークタウン』の中央飛行甲板に250キロ爆弾を叩き込む事に成功したのである。
小林大尉に続く形で『飛龍』隊は4発の命中弾を『ヨークタウン』に叩き込んだのである。うち1発がボイラー室に火災を発生させ、『ヨークタウン』は動力を失い航行不能となりフレッチャー少将は攻撃後に駆逐艦『グウィン』に移乗した。予定では『アストリア』だったが『アストリア』は甲巡への攻撃に切り替えた小川大尉の『加賀』隊に『ポートランド』共々襲われていたのだ。
『加賀』隊は『アストリア』に5発、『ポートランド』に3発を命中させ2隻とも炎上させる事に成功する。(『アストリア』は後に沈没)
しかし小川大尉機は投下後の上昇中に対空砲弾の直撃を受け機体は爆発四散するのである。
小林大尉は『『ヨークタウン』級1隻炎上』の電文を放ち小林隊が引き上げた後、『ヨークタウン』の対空レーダーが接近する攻撃隊を探知した。
第二艦隊からの第一次攻撃隊であった。指揮官の高橋定大尉は炎上する『ヨークタウン』を発見しトドメとも言える攻撃を開始、この攻撃で『ヨークタウン』は爆弾3発、魚雷5発が命中し攻撃隊が引き上げる頃に飛行甲板までに波が押し寄せていたのである。
そして第二艦隊から発艦した『摩耶』の水偵がスプルーアンス少将の機動部隊ーー第16任務部隊を発見したのである。
「敵機動部隊発見!! 空母は2隻!!」
『摩耶』水偵が発した電文は飛行中だった第一航空艦隊の第二次攻撃隊も受信していた。
『先程の艦隊よりかは多少離れていますが近いです!!』
「よし、全機そちらに向かうぞ」
攻撃隊を率いていたのは『加賀』の楠見少佐であった。
『加賀』
零戦12機
艦攻27機
『飛龍』
零戦9機
艦攻10機
第二次攻撃隊は『摩耶』水偵が敵戦闘機に撃墜されるまで発せられた誘導電波に従い飛行し、1230に第16任務部隊を発見した。
「全軍突撃せよ!!」
楠見少佐は準備出来次第突撃を発信、第二次攻撃隊は零戦隊とF4Fの空戦を尻目に突撃を開始するのである。
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