第十三話
本日二話目
インド洋機動作戦を大成功させた近藤の第二艦隊は他の艦隊より一足早くに内地へ帰還した。日付は4月16日であり史実より1日早い帰還であった。
「だがこうして家にも帰れたからか良いか」
「何か言ったノブ?」
「いや何も」
まぁそのおかげで近藤は久しぶりに自宅でハンナ達と会う事も出来たのである。翌日、近藤ら第二艦隊司令部は軍令部に出張しインド洋での戦果報告をしていた。
「いや近藤長官がインド洋でやってくれたおかげでドイツやイタリアから感謝の言葉が絶えませんよ」
「恐縮です。しかし、インド洋での通商破壊作戦は継続すべきと存じます」
「ウム。しかしGF司令部は米機動部隊の撃滅を主張し我等は米豪遮断を主張だからな……」
近藤の言葉に永野総長は言いにくそうに言うが近藤はキッパリと言う。
「仁義を疎かにしては信頼と信用を無くしますぞッ」
「ッ。そ、それは……」
近藤の言葉に永野総長は顔を歪めるに留めるのである。というのも近藤はそう言ってから総長室を退出したからであり永野総長の返事を期待していなかったからである。
「おのれ近藤め……ッ」
退出した近藤を見て永野総長は肩を震わせるがどうも出来なかったのである。そして翌日ーー4月18日0630、事件は起きる。
哨戒部隊(黒潮部隊)である『第二十三日東丸』から『空母2隻を含む機動部隊発見』の報が入り込む。同船は0645に発信された『敵航空母艦2隻、駆逐艦3隻見ユ』が最後の無電となり第二艦隊旗艦『高雄』もそれを受信したのである。
「出撃出来るのは何時になる!?」
「少なくとも1000以降には……」
「チッ、此処は抑えに回るしかない。GF司令部へ電話するぞ!!」
近藤は直ぐにGF司令部に電話をかけ即応態勢を具申したのである。
『分かった。恐らくは艦載機の攻撃だろうから翌日だと思う。それまでに迎撃態勢を整えれば良い』
「それでは遅い!! 今日にも攻撃されると想定した方が宜しいです長官!!」
『……分かった。取り敢えずは厚木と横須賀には非常態勢を発令する。近藤君、君は前進部隊指揮官とし内地在泊艦艇の指揮を任せる。それに三河湾には演習で就役したばかりの『雲龍』がいる。それも君の指揮下とする』
「分かりました!!」
受話器を置くと近藤は叫ぶ。
「直ちに内地在泊艦艇に電文!! 『我、前進部隊ノ指揮ヲ取ル』伊豆大島の対空電探基地にも警戒態勢を敷かせろ!!」
「ハッ!!」
第二艦隊は準備出来次第出撃となったが近藤は内心、間に合わないと思っていた。
(確か全機を取り逃がすが……何処までやれるかだな……)
この時、関東方面の海軍飛行場では指令を受けて直ちに準備出来次第戦闘機が離陸したのである。厚木基地では零戦18機、横須賀基地で零戦15機、96式艦戦11機が出撃したのである。史実では空振りに終わったが、この世界では既に伊豆大島、館山に対空電探ーー『三式一号三型電波探信儀』通称『13号電探』が設置されており2ヵ所の13号電探は東京に接近してくるドーリトル攻撃隊のB-25を探知するのである。
『宮崎、俺の小隊は横須賀に来る爆撃機をやるぞ』
「了解!!」
樫村一飛曹に率いられた零戦3機1個小隊は房総半島の南部を横断してくるB-25と会敵する。
『喰らわせてやれ宮崎!! 後始末は任せろ!!』
「了解です!!」
宮崎三飛曹は速度を上げてB-25に近づく。彼等が乗る零戦は改良型の33型であり金星発動機を搭載した零戦でもあった。宮崎三飛曹は思いっきり近づき20ミリ機銃弾を叩き込み、左主翼の付け根から火を噴かせる事に成功する。
「やった!!」
後方を振り返っていた宮崎は叫ぶ。そこへ樫村一飛曹らの零戦2機がトドメの銃撃を叩き込んでB-25は爆発四散したのである。
『引き続き警戒を実施する』
樫村一飛曹の無線に宮崎はグイッと操縦桿を引いて上昇をするのであった。この日、日本を空襲したドーリトル攻撃隊は4機を撃墜したが残りは逃げられたのである。日本本土空襲はほぼ史実通りの被害となった。ほとんどが爆撃後に追い付いての撃墜だったが唯一阻止出来たのは樫村小隊による13番機の撃墜であり13番機が爆撃前に撃墜された事で史実では『龍鳳』が被弾し更に4ヶ月の修理を要する事になるが撃墜された事で被弾せずに改装工事を続行する事が出来た。それにより8月に改装工事が完了するのである。
「だから『鍾馗』を海軍でも配備すべきだったんだよ」
爆撃後、内地へ帰還した近藤は『高雄』の艦橋でそう愚痴る。近藤は軍令部次長時代、陸軍が開発していた二式単戦『鍾馗』を海軍でも配備しようと主張していたがこの頃は海軍も三菱に命じて局戦開発(十四試局地戦闘機。後の『雷電』)をしていたのでうやむやに終わったのである。せめて局戦が配備されるまでは……と思っていた近藤である。
まぁそれでも終わった事は仕方ないとし、内地に帰還した近藤であった。
4月25日、近藤はGF旗艦『大和』に来ていた。
「山本長官、MO作戦の作戦時期が早くはありませんか?」
近藤は渡された『MO計画』と記載された計画書を見ながらそう答える。
「しかし近藤長官、ポートモレスビー攻略は是非とも必要なのです」
「それは理解している。ポートモレスビーを攻略すれば米豪遮断やニューカレドニアを攻略しやすくなるのは容易だろう。だが時期が早い」
黒島の言葉を近藤はそうバッサリと切り捨てる。
「元から空母を12隻程度保有している状態ならやり易いかもしれないが、貴重な大型空母なんだ。しかも機動部隊は護衛が少ない」
「米機動部隊が出てくるとしても『サラトガ』の1隻くらいでしょう」
「大西洋から回航していたらどうする? 奴らだって馬鹿じゃない。先日の内地空襲を忘れたのか?」
「それは……」
参謀達と近藤の討論を山本は満足げに見ていた。山本も時期が早いと思っていたが軍令部も五月蝿く言っていた。しかも『MI作戦』の為に軍令部の主張を受け入れたのだ。
「しかも五航戦を出す理由が「実戦経験を積ませる」だと? どうせ草鹿と源田のアホがそう言ったんだろうが……訓練をさせて錬度を上げるのが得策だろ。実戦で錬度が上がるかボケ」
「我々に言われましても……」
近藤の言葉に黒島も強くは言えなかった。近藤は母艦飛行隊の予備パイロット増強を戦前から強く訴え実行させていたおかげで予備パイロットはまだ余力があったのだ。これが無ければ各空母の搭載機を減らす必要があったのだ、だからこそ黒島らも感謝しているので強くは言えなかったのだ。
ちなみにMO作戦に参加する艦艇は以下の通りであった。
南洋部隊
指揮官
第四艦隊司令長官井上中将
旗艦『鹿島』
MO機動部隊
指揮官
第五戦隊司令官
高木武雄中将
主隊
第五戦隊
『妙高』『羽黒』
第七駆逐隊
『曙』『潮』
第五航空戦隊
『瑞鶴』
【零戦27機 艦爆24機 艦攻27機】
『翔鶴』
【零戦27機 艦爆21機 艦攻27機】
第二十七駆逐隊
『有明』夕暮』『白露』『時雨』
補給部隊
給油船『東邦丸』
MO攻略部隊
指揮官
第六戦隊司令官
五藤存知少将
MO主隊
第六戦隊
『青葉』『加古』『衣笠』(九四式水偵×2)『古鷹』(九四式水偵×2)
『祥鳳』
【艦戦16機 九七式1号艦攻12機】
第七駆逐隊
『漣』
掩護部隊
指揮官
第十八戦隊
司令官丸茂邦則少将
第十八戦隊
『天龍』『龍田』
特設水上機母艦
『神川丸』
【零水×4、零観×8】
『聖川丸』
【零水×4、零観×8】
特設砲艦
『日海丸』『京城丸』『勝泳丸』
特設掃海艇2隻
ポートモレスビー攻略部隊
指揮官
第六水雷戦隊司令官
梶岡定道少将
第六水雷戦隊
『夕張』
第十駆逐隊
『夕雲』『巻雲』『風雲』『秋雲』
第三十一駆逐隊
『長波』『巻波』『高波』『大波』
敷設艦
『津軽』
第二十号掃海艇
輸送船12隻
基地航空部隊
指揮官
第十一航空艦隊司令長官
塚原二四三中将
第五空襲部隊
指揮官
第二十五航空戦隊
司令官山田定義少将
第二十五航空戦隊
第四航空隊:一式陸攻×12機
台南海軍航空隊:零戦×27機
横浜海軍航空隊:九七式飛行艇×7機
元山海軍航空隊(戦闘機隊欠):九六式陸攻×20機
なお、『夕雲』型駆逐艦は④計画で予算が成立した駆逐艦ではあるが史実と異なり対空対艦を両立出来るように45口径12.7サンチ連装両用砲(元の名称は四十五口径九九式十二糎七高角砲だったが水雷屋や砲術屋の面子を考慮し両用砲へ改定)を搭載した駆逐艦であり更には対潜兵器も充実している駆逐艦である。工業力が向上していたので開戦時までに『長波』までの4隻が就役し『大波』までの4隻が3月までに就役し駆逐隊を編成していた。
また、史実の攻略部隊には『睦月』型駆逐艦が展開していたが海上護衛総隊へ4月に移管していたので『夕雲』型の2個駆逐隊がこの作戦のために六水戦へ臨時配備されたのだ。
ちなみに海上護衛総隊は『睦月』型や『若竹』型、『神風』型等の旧式駆逐艦(対潜兵器は更新され最新鋭となっている)20隻、特設巡洋艦6隻、水雷艇4隻、海防艦12隻まで増強され3個艦隊を編成、内地~南方航路のヒ船団、ミ船団の護衛を担っている。
「近藤君、我々も何とかしたいがこれが今の現状だ。それは受け入れてくれたまえ」
「………分かりました」
山本の言葉に近藤はそう言うしかなかったのである。斯くしてMO作戦は発令され、MO作戦はーーー史実と同じく軽空母『祥鳳』が撃沈され正規空母『翔鶴』が大破したのである。また、航空機も52機を喪失したのである。これによりMO作戦は中止となったのであった。
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