第十二話
明けましておめでとうございます
本年も宜しくお願いします
先に発見されたのは日本艦隊ーー南雲中将の第一航空艦隊であり4月4日夕刻にセイロン島南東700キロの海域でPBY『カタリナ』に発見されたのである。しかし、第一航空艦隊司令部はそれ程気にしてはいなかった。それでも万が一に備え五航戦の『瑞鶴』飛行隊は対艦兵装で待機し三空母でコロンボ港を空襲したのである。
4月5日、三空母から発艦した攻撃隊は淵田中佐を指揮官とする零戦36機、艦爆39機、艦攻54機であり在泊していた艦船と港湾施設、飛行場を攻撃し喪失は3機であった。逆に零戦隊は迎撃に来たハリケーン戦闘機26機、フルマー戦闘機6機を撃墜するのである。
「総隊長、艦船への爆撃は不十分ですね」
淵田機を操る松崎大尉は対空砲火を避けつつ眼下の港湾施設を見ていた。確かにまだ停泊する艦船にはそこまでの被害を与えていなかった。
「こりゃもう一撃は必要やな。水木、無電を打て!!」
「はい!!」
直ちに水木一飛曹が電鍵を叩き無電を発した。
『第二次攻撃ヲ準備サレ度』
無電は『赤城』でも受信されていた。
「兵装転換を行い、直ちに陸用爆弾に切り替えるのだ」
索敵機からの敵艦隊発見の報は無かったので南雲はそう決断したのだ。しかし13時に『利根』の九四水偵から『敵巡洋艦ラシキモノ2隻見ユ』を報告してきたのだ。これは甲巡『コーンウォール』『ドーセットシャー』の2隻であった。
南雲司令部は爆装準備が整っていた艦爆隊45機を発艦させ見事に2隻を急降下爆撃だけで撃沈する事に成功したのである。
6日には早朝から広範囲の索敵を行ったが、敵艦発見の報告は無く、既に遠方へ退避したことも考えられたため、英機動部隊攻撃は断念された。南雲機動部隊は警戒を厳重にしながら南東方向に退避、コロンボから450海里圏外を北上してツリンコマリ攻撃に向かった。
一方の英東洋艦隊は日本艦隊への攻撃を計画していたが再発見できず、追撃を中止し8日11時にアッドゥ環礁に入った。南雲の第一航空艦隊も索敵は行っており、5日から8日にかけて日英双方が互いを捜したが、接触はなかった。
そして8日も1400を過ぎた辺り、アッドゥ環礁で待機していた英東洋艦隊の対空レーダーであるType281レーダーが接近してくる100機余りの攻撃隊を探知したのである。
「敵機だと!? そんな馬鹿な事があるか!!」
「し、しかし現に……」
「……えぇいッ!! 此処を見破られていたというのか……」
報告を受けたサマヴィル中将は地団駄を踏みながらも迎撃を指令するのである。この時、迫りつつあったのは第二艦隊の第二航空戦隊から発艦した攻撃隊(零戦36機 艦爆36機 艦攻36機)であった。
「経路は間違いないな?」
『はい、間違いありません』
後部座席に座る石井飛曹長は攻撃隊隊長である江草少佐の問いにそう答える。
(しかし、これで敵艦隊がいれば御の字……多聞丸の親父もよく全力出撃を具申したもんだ……)
江草少佐はそう思いながら北叟笑む。第二艦隊も攻撃をする予定にしていたがそれを第二航空戦隊司令官の山口少将は『蒼龍』から『高雄』に発光信号で全力出撃を具申したのだ。
「ですが長官、全力出撃をすれば備えが……」
「いや構わん。『蒼龍』に発光信号、『下駄ハ預ケタ。航空戦ノ指揮ヲ取レ』とな」
近藤は航空戦の指揮を山口に全て預けたのだ。具申したらそれ以上の事が返ってきた山口少将は大笑いをしながら略帽を被り直す。
「宜しい。全艦に発光信号、『我、航空戦ノ指揮ヲ取ル』二航戦全力出撃だ!!」
斯くして二航戦はほぼ全力出撃を行うのである。
「見えた、アッドゥ環礁だ!!」
江草少佐は正面に見えてきたアッドゥ環礁を見て叫ぶ。アッドゥ環礁には多数の艦艇が停泊していた。英東洋艦隊であった。
「こりゃ近藤長官の賭けは勝ちだな」
『隊長、右2時方向に敵戦闘機です!! 数は凡そ30余り!!』
石井の報告に2時方向を見ると数10の敵戦闘機が此方に向かいつつあった。それを確認した零戦隊隊長の熊野大尉が叫ぶ。
『零戦隊で抑えます!! 隊長は続行して下さい!!』
「任せた!!」
新型の航空無線は使いやすかった。零戦隊36機は直ちに敵戦闘機ーーハリケーンと交戦を開始するのである。それを尻目に攻撃隊は前進を続けてアッドゥ環礁手前10キロまで進出した時、江草は『ト連走』を発信したのである。
「全軍突撃せよ!!」
艦爆隊は高度を上げ、艦攻隊は高度を下げていく。
「対空砲は撃ちまくれェ!! ジャップを近づけさせるな!!」
サマヴィル中将が旗艦『ウォースパイト』の艦橋で叫ぶ。緊急出港を急がせていたが何分動きは鈍かった。機関の火は落としてはいなかったが英東洋艦隊は空母こそは最新鋭だが戦艦はww1の期間で建造就役した旧式戦艦であり速度は25ノットをも下回っていたのだ。
「攻撃目標、前方の空母!!」
艦攻隊を率いる友永大尉は『蒼龍』隊は左翼から『飛龍』隊から突撃を開始、英東洋艦隊は対空砲火を上げるが艦攻隊はそれを避けつつ距離を詰める。
『距離1200……1000……900……800……』
距離読みをしている偵察員の声を聞きつつ友永大尉は魚雷投下策に手を添える。
『700!!』
「撃ェ!!」
友永大尉は距離700で魚雷を投下、魚雷が投下された反動を利用して上昇しつつ狙った空母ーー『インドミタブル』を見ていた。
『あ、やりました!!』
機銃員が叫ぶ。空母『インドミタブル』の右舷に水柱が噴き上がったのだ。
『敵空母一番艦右舷に魚雷3本命中!! 行き脚、止まりました!!』
友永大尉が見ると『インドミタブル』は右舷に急速に傾斜しつつあった。あれではどう見ても助からないだろう。
「『高雄』に打電、『我、雷撃ス。敵空母沈没寸前』とな」
「ハッ!!」
『インドミタブル』が助からないのは『ウォースパイト』の艦橋からサマヴィル中将も確認していた。
「おのれ……おのれジャップめ!!」
「敵機直上ォ!! 急降下ァァァ!!」
ハッとサマヴィル中将は上空を見る。10数機の艦爆ーー九九式艦爆が『ウォースパイト』に急降下していた。『ウォースパイト』は懸命に回避運動を行うも250キロ爆弾6発が命中するのである。
「長官、江草機より入電です!! 『敵空母2、戦艦3隻撃沈確実。大破戦艦2、巡洋艦3隻』以上です!!」
「やりました長官!! これで英東洋艦隊は壊滅です!!」
「ん。だが、確実だからまだ詳細は不明だ。『千歳』から零式水偵を発艦させ詳細を報告するように」
「分かりました!!」
直ちに『千歳』から零式水偵が発艦しアッドゥ環礁に向かうのである。その後、アッドゥ環礁に向かった零式水偵は未だ炎上する敵艦艇や地上施設を確認するのであった。
「流石は二航戦だぜ」
『機長、どうやら空母と戦艦は環礁内で沈没したようですね』
「あぁ。これなら英東洋艦隊は壊滅だな」
零式水偵はそう報告し近藤は満足げに頷いたのであった。
「よし、南雲の艦隊に現状を報告。二航戦は護衛艦艇と共に南雲の一航艦に合流せよ。我が第二艦隊はそのままアラビア海に進出、敵輸送船団を通商破壊にて攻撃する」
近藤は3日間の限定的ながらもアラビア海での通商破壊作戦を展開、『千歳』『瑞穂』の水偵で索敵し都合二つの輸送船団を発見、これに追い付き砲雷撃を敢行したのである。この攻撃は然したる影響はまだ無かったがタンカー6隻を鹵獲して第二艦隊の腹を満たしている。
また、後に日本海軍がインド洋の通商破壊を知ったチャーチルは海軍戦力をインド洋に派遣したりするが日本海軍も海軍で後に『インド洋方面海上交通破壊戦』(B作戦)を実施したりする。
また、英東洋艦隊の壊滅を知ったヒトラーは壊滅に寄与した近藤を表彰しようとしたりするのであった。
「なッ!? 第二艦隊がアッドゥ環礁に停泊していた英東洋艦隊を壊滅させただと!?」
トリンコマリ港を攻撃していた第一航空艦隊司令部は第二艦隊からの報告に驚愕していた。
(やはりか……)
報告を受けた南雲はそう思う。コロンボ港でもトリンコマリ港にも英東洋艦隊はいなかった。南雲司令部でも「もしやアッドゥ環礁に……?」という疑念が絶えなかった。そこへの英東洋艦隊壊滅の報である。
南雲は味方が英東洋艦隊を壊滅させたのは嬉しかった。しかし、第一航空艦隊で叩きたかったのも本音の一つである。だが南雲は艦隊司令長官であるためその本音は消す事にしたのである。
しかし、パチンと指を鳴らした者がいた。会議で近藤に喧嘩を売った源田である。
「確かに第二艦隊は英東洋艦隊を叩きました。しかし、よくよく考えれば空母は二航戦であり我が一航艦所属です」
「成る程。我々が叩いたというわけだな」
「その通りです」
草鹿と源田のやり取りを見つつ南雲は眉を潜める。二人は確かに南雲を支えてはくれるがどうも物事を有利に見定めようとしていた。
「詮議はそこまでだ。一先ずは二航戦と合流するのが優先である」
南雲はそれ以上の議論を制したのであった。
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