プロローグ
静かだ.いやに眩しい.あそこで光っているものは何?強烈な光を放つ何かがいた.
光は近づく程に眩しく不鮮明になるようだが,目を覆っても眩しさを感じる程に近づいた頃,ぼんやりと人の気配を感じ意識を集中した.音?誰かが歩いているのか?衣擦れとかすかな足音に,耳が正常に機能しているという安心と,得体の知れないモノが傍にいる恐怖を覚えた.二つの感情に支配された頭は,考えをまとめるには不十分な程疲れているように感じる.ふと忘れていた言葉を思い出した.
「あなたは誰?」
返答は無いが,音は止んだ.
更に進むうちに生き物がそこにいるような温かさをうっすらと感じ,眩しさが収まっている事に気付いた.目を開けると目の前には影があった.目の前にある影はしかし,目の前にあってもぼんやりとして影としか言いようがない黒い何かだ.影を見つめているとうっすらとした感情が湧き始め,それらの感情はふつふつと膨れ上がり,気づけば泣き笑いが止まらなくなっていた.
影は触手を伸ばし,感情が収まらない私の額をなでた.漏れ出る温かさに反して,その触手は氷のように冷たく,息を飲んだが,その触手も徐々に暖かくなってきた.
「あなたは誰?」
再び訪ねた私に,影が何かを呟いたように感じた.いや気のせいかもしれない.一度そう思うと,この世界そのものが自分の想像のように感じられた.これは現実か?意味があるのか?知りたい事が次から次へと湧いてくるが,頭はの中はひどく不鮮明でもどかしさがあふれる.
「ここはどこだ.」
やはり先ほども影は呟いていたようだ.呟いた私に,影は再び,しかし今度ははっきりと聞こえる声で言った.
「幸せな世界」
「……そうか,幸せなら,それは良い事なのだろうな.」
私は幸せに身を委ねた.