温かい暖炉の一室にて
(俺はここにいていいのか?)
少年レイズは戸惑っていた。
パチパチと暖炉の炎が不規則に燃え上がる。
わずかに異臭を放ち、サイズ合わない薄黒いTシャツにパンツ。
解れや穴、場に似つかない服装をした貧相な黒髪の少年はホコりひとつない部屋にソワソワとしていた。
「さ!召し上がってください!助けていただいたお礼ですわ」
「あ……」
パッと花咲く笑みの貴婦人の言葉にレイズは弱々しく声をあげた。
彼がこの場にいるは貴婦人を助けたことがきっかけである。
身なりが小綺麗で育ちが良いことがわかり、恵みを貰えるかもと打算からの行動だった。
結果食事にありつけた。
出された食事は彼にとって見たことないようなものだった。
脂の乗った骨付きの肉、紅の甘辛いタレの匂い。
スープも野菜たっぷりで、煮込まれたのかふんわり浮かぶ湯気が食欲をそそる。
自分が食べて良いものなのか、葛藤している中、目の前の貴婦人は勘違いをしたのか、表情が曇る。
「申し訳ありません、今用意できるものがこれしかなくって……お口に合わないようならーー」
「そ、そんなことない!ただ、こんな美味そうなのは初めてだったんだ!」
「そ、そうなんですのね」
「……ごめん大声出して」
レイルは突発的な大声に距離をとった貴婦人に謝罪した。
普段彼は豪華な食事は食べたことがない。そもそも料理と言えたものを口にしたことがない。
しょっぱすぎる干し肉に、噛みちぎるのも一苦労な硬い黒パン。
貧民地区で住むには比較的保存できるものしかない。
だから、自然と食べるものは毎日同じで温かい食事をとるのは初めてであった。
「食う!」
誰にも取られまいと食事に手を出したレイズはまるで獣が獲物を喰らうように、近くのフォークやスプーンは使わず肉をつかむと口に運ぶ。
貴婦人は目を丸くした。
「あら……」
レイズは気にせず喰らい続ける。スープを喉に流し込む。テーブルの上はソースがこぼれ口元もソースで汚れる。
まるで取られまいと、慌てて食べる姿は彼の生活を物語っていた。
貧民地区は弱肉強食。力あるものは、知恵あるものならば生き長らえるため。
だが、貴婦人は咎めることをしなかった。
「まだ……あるからゆっくり食べていいのですよ」
「……」
さらに出された食事にレイズは小さく頷き黙々と口に運ぶ。瞳が潤い頬に涙が溢れる姿は初めての食事に感動した……そんな姿を貴婦人は温かい目で見守っていた。