路地裏の危機一髪
貴族街に入るには2つのルートがある。
1つは大通りに面した1本道。2つ目は路地裏からの複雑に入り組んだ道だ。
普通の人間ならば前者を選ぶが、レオが選んだのは後者だった。
「路地裏の迷路みたいな道だったら敵を撒けるもんな!」
先程、大通りをエシュリーの手を引いて走っていたら、エシュリーの証言した通りの3人組と会ってしまった。
エシュリーの言っていた小柄な男の足が想像以上に速かったため、撒くのに結構な時間を割いてしまった。
「なんだよアレ。スキルなのか?」
「おそらくそうでしょうね。それに加え、風の魔法も使っていましたから。」
レオのため息混じりの独り言を聞いたエシュリーが答えてくれた。
スキルのレベルが高く、風の魔法で増速させていたとは。技術の応用だろうか。
「とりあえず、エシュリーの家に向かおう。」
そうレオが気持ちを切り替え、振り向いた時だった。
「———っ!」
レオはいきなり立ち止まった。エシュリーはレオの突然の行動に目を白黒していたが、目の前の事態に素早く気づいた。
レオ達の視線の先には黒いフード付きローブを目深に被った人がいた。
男か女かはわからない。だが、ローブの人間から放つ禍々しいオーラは冒険者を初めて1か月のレオでも分かる。
——アレは、危険だと。
レオの頭の中に警鐘が鳴り響いている。エシュリーも、目の前の人物を警戒する。
レオもローブの人物も、相手から目を離さないように感じる。
路地裏に緊迫した空気が広がる。
そして、———先に動いたのはレオだった。
レオは前に飛び出しながら右手を背中へ回し、『グリムリーパー』を掴む。
『グリムリーパー』を抜いて振り翳したら刃が当たる距離まですぐさま詰める。
だが、相手は身動きもせずじっとしている。
レオはその事に疑問を持つが、考えるより先に行動する。
またしてもレオの悪い癖が出た。そして、
「——っ!」
ローブの人物はレオの攻撃を右手の人差し指と中指で挟んで、易々と止めた。
レオがローブの人物が攻撃を止めたことに驚いた隙に、ローブの人物はレオの横腹に蹴りを入れる。
「——っく!あっ!」
レオは地面に背中を打つ前に受け身を取り、どうにか威力を抑える。
「あっぶねぇ、危うく肋が折れるところだったな。」
レオの攻撃を受けたのもそうだが、蹴りだけであの威力は、只者ではない。
レオはもう一度間合いに入ろうとするが、ローブの人物が動く方が先だ。
ローブの人物は左右にゆっくりと揺れ始め、だんだんと影が薄くなり、次第に消えてしまった。
「——っ!消えた?」
「何かの術でしょうか?」
「いや、術式は見えなかった気がするけど・・・」
「じゅ、術式が見えるのですか?」
「え?普通見えないの?」
緊迫した空気が消え、肩から力を抜く。エシュリーとレオはローブ男が消えた原因を考えようと思ったが、エシュリーはレオが術式を見たことに驚いている。
「術式ってこう、魔法陣みたいなやつじゃん?俺の知り合いの冒険者が魔法使ってる時にも見たんだけど・・・」
勿論、知り合いの冒険者とはリコルのことだ。魔法を行使する時、リコルの手の平に赤色の魔法陣が浮かんだのを見たのだ。
「普通、術式は魔法を行使している本人にしか見えないものなんです。だから、他人が魔法を使っている時に術式を見るということはないはずです。」
「ふーん、ということは・・・・・」
おそらく、これもレオの異世界転生特典なのだろう。
複数の特典を貰えるのはありがたいが、特典をまとめたリストなどを作って欲しいものだ。
手探りで得点を探しに行かなければならないし、全くこの世界のことを知らなかったレオに、気付けと言われても無理がある。
「本当に、特典くれた奴は何考えてるんだか・・・・・」
特典の話は置いといて、今はエシュリーを家まで届けることを優先する。
「えっと、貴族街はこっちだっけ?」
「はい。」
レオとエシュリーは気を取り直して貴族街に向かうのだった。
その二人を建物の陰から覗く視線に気づかずに。