お・ふ・ろ♪♪
久しぶりの投稿です!
新しい作品も開始してなかなか手が回らない状況ですが、頑張ります!!
湯気の上がる風呂に頭まで潜り、息を止める。
水中は音がくぐもって聞こえ、考え事をするにはもってこいだ。
レオは、エシュリーとの稽古を思い出した。
エシュリーはその辺にいる冒険者と同等、もしくはそれ以上の実力だったと思う。身のこなし方、足さばき、剣の振り方、視線、呼吸。どれも生半可ではできないような領域に達していた。
だが、エシュリーの技術力に驚いている場合じゃない。
稽古中は気づかなかったが、自分の心に当然の様に存在している異物に気づいたのだ。
異物と言っても、物体的な物ではなく、心の中にある悪意の塊のようなものだと感じる。エシュリーとの稽古中、なぜか自分の力に自信過剰になっていたのだ。冒険者をやっているとしても、初めてまだ一か月だ。ベテランの冒険者には今でも敵わない。
それなのに、エシュリーには絶対的な自信をもって『負けるはずがない』と思ったのだ。
まるで、自分の心に誰かの心が染みついているかのような気持ち悪い感じだ。
息が持たなくなり、水面に顔を出したレオは、勢い良く息を吸う。
酸素を欲していた肺に酸素を送り込み、辛さを緩和させる。
「自分が自分じゃないみたい、か」
心当たりはこの一か月に何度もあった。
レオは地球という惑星の日本に生まれ、父親の翔一と母の宇宙、それに妹の星奈の四人家族だ。家は、周りに畑のあるような田舎にある。だが、高校入学とともにレオだけ上京してきたのだ。
そして、高校入学から約一年。クリスマスの近いあの日に、レオは事故に遭い、そして、命を落とした。
しかし、気が付けば、目の前には中世ヨーロッパ風の世界が広がっていた。
だが、そこがおかしいのだ。
レオの知っている転生というものは人生をはじめからやり直すもの。だが、現実は違う。死んだと思った次の瞬間には前世と同じくらいの年齢の別人に生まれ変わっていたのだから。
この場合、生まれ変わっていたという表現すらも怪しくなる。
「はぁ、もう何がなんだかわけわかめ」
「わかめ、が何かは知りませんが、邪魔なので早くお風呂から上がってください」
「うぉう!」
突然後ろからかけられた声に驚いて振り返ると、浴槽のふちに裸足で立っているリサがいた。彼女の手にはモップが握られており、これから掃除をするのだと伺えた。勿論、裸ではなくメイド服を着ている。
だが、
「なんでまだ俺入ってるのに、声もかけずに入って来るんだよ!」
「あぁ、それは失礼しました。長々とお風呂に入っているホシヤ君を追い出すためにはこの方法が手っ取り早いと思いましたので」
「いや、俺でも声かけてくれればすぐ出たからね?」
「今、り……私はとても驚きましたよ。まさかホシヤ君にも人間と同等の知能を持っているとは思いもよらず……」
「お前今俺と普通に話してるよな!?どこをどうしたらその発想になるんだよ!」
「もちろん、普段の生活態度です」
「まだ会って一日しか経ってないのに!?」
リサはレオの態度を見かねて「はぁ」と深い溜息をする。モップの持っている反対の手で頭に手を添え、困ったと言いたげなポーズをしながら「まったく……」と切り出し、
「人の性格や生活態度などは、日常的なことからわかるものです。例えば、その人の口癖や、髪を触るなどの無意識に行ってしまう癖などです。それらを見れば、普段どのような生活をしているかぐらいわかります」
リサは再び「はぁ」と深いため息をつく。
さすがにレオもそんなに侮られて黙ってはいられない。主に男としてのプライドが。
「なぁ、さすがにそれは言いすぎじゃないか?確かに使用人としての力量とか態度とかはリサが上だろうけど、俺だって素人なりには頑張ったんだぜ?」
「そうですね。頑張りには評価します」
「めっちゃ上から目線……」
おそらく、リサは清楚というよりも辛辣という言葉が似合うだろうな、とレオは思った。
「いや、メイドにそういうタイプだとちょっとアレだな」
「メイドが何ですか?」
「いえ、何でもありません」
リサの冷たい視線を浴びて、レオはすぐさま口を塞ぐ。それよりも、
「人に出てけって言っておきながら、いつまでそこにいるんだよ。出たいからとりあえず外行ってくんない?」
「はぁ、仕方がありませんね。それでは一旦リサは外に出ていきます。ですが──」
リサはレオの顔に指をさし、ぐっと顔を近づけ、思わずレオは後ろに下がる。その時に足を滑らせ、無様にも湯の中でひっくり返ってしまう。
水面から顔を出したレオの前には先ほどと変わらぬ表情のリサが目の前にあった。
「夕飯までには帰ってきてください。でなければ、リサの仕事が増えます」
「今、言外にサボり宣言した?」
「リ……私は仕事を怠ったりしません。馬鹿にしないでください」
話が終わるやすぐに風呂場からリサは出て行った。
その後ろ姿をレオは口をぽかんと開けた状態で見ていた。
ゆっくりと湯に体を浸し、頃合いを見計らって風呂から上がる。
その時、レオは自分でも気が付かずに大きなため息をしていた。
その姿はまるで、仕事帰りの父親のようだっただろう。