第一章
一章
「リスロットヴァシュナ、終焉の刻だ」
戦いの嵐が吹き荒れ、黒い風が哭いていた。ここは最後の戦場であり、我が宿敵、『亜修羅』との約束の場所だ。ここで奴を倒さなければ、この世界の存命が危うい。我は手に持つ宝棒を持ち直し、構えた。
「ああ。ここで、終わりにしよう」
そう我が呟くと、2人の間に長い沈黙が訪れる。ここで、全てが決まる。ここで負ければ全てが終わる。否、勝てば全てが始まる。さらに続く沈黙。
「…」
「…」
その時、長い沈黙は終わりを告げる。我は勇ましき感情を奮い立たせ、宿敵に向かって攻撃を仕掛けた。刹那、亜修羅の持つ槍が金切り声を上げ、我が宝棒を弾き返した。我は血潮を滾らせ再度、攻撃を仕掛けるも、時は既に遅かった。亜修羅の持つ槍が我が装甲の鋼を甚振った。我は血を流し、土の上に横たわった。
「無様だなリスロットヴァシュナ」
かくして、我は負けた。しかし、まだ終わりではない。我は最後の力を振り絞り、我が遺伝子を子孫に託した。何百年、何千年の時を経て我が子孫が復讐を果たすと信じて……
疲れた。とても疲れた。体育の持久走なんてもう二度とごめんだ。本当に疲れて死にそうだ。死にそうな時は神頼みと言うが、本当に神などいるのだろうか。だとしたら神は残酷だ。こんなに可哀想な私を放って置くなんて。それに私は容姿も醜い。多分神様は私のことを左手で作ったに違いない。ああ…神が左利きだったら人生苦労しなかっただろう。などと考えていたら疲れて死にそうだったことを忘れていた。あれ?目の前に白い鳩が…。まずい、幻覚まで見えてきた。どうやら私はそろそろヴァルハラに行かなければならないらしい。ニルヴァーナでもいいけど。眠くなってきた。とうとう人生のスタッフロールに突入。閉幕と同時に観客の拍手喝采!全米が泣いた!興行収入ダントツ1位!アカデミー賞受賞!そんな私の、新里色音の物語は終わりを告げるのだった……
「色音、起きて」
この声は…仏様?
「色音!起きて!」
いや違うなこれ。
「起きなさい」
毎日のように聞くこの声、母だ。
「起きてるなら返事しなさい!」
そう言って母は私の顔をペチペチと叩いた。
「痛い!痛い!起きてるっつーの!」
「やっと起きたのね。あなたまた貧血で倒れてた所を近所のおじさんが拾ってここまで届けてくれたのよ。近所のおじさんに感謝しなさい」
近所のおじさんに拾われて……?
「もしかすると私はおじさんにエロ同人みたいな目に遭わされたのでは……?」
「……は?」
無意識で声に出してしまっていたようだ。そんな私に母は怒りの眼差しを向ける。
「あんたはねぇ…(威圧)」
「は、はい!(服従したと言わんばかりの返事)」
その時、母の右ストレートが私に直撃!私は鼻から血を流し、横たわった。
「あんたはどうしてそうもふざけた思考に転がるの!あなたはもっと人に感謝をしなさい!」
その後、説教は小一時間続いた。なんでそんなエロ同人って言っただけで怒られなきゃならないのか。まだ怒りたりないと言わんばかりの母を背に私は憂鬱な面持ちで自室に向かった。
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私は父が作ってくれた英単語帳を一枚一枚めくり、暗記に励んでいた。一枚めくるごとに英単語を暗記し、日本語訳を読むという行動の繰り返し。父が言うには、これで大抵は覚えられるらしいのだが、私は5単語ぐらいでギブアップした。こんなんやってらんない。というか日本にいるのに英語なんてどこで使うんだ。まあ洋ゲーやる時になら多少は便利かも。それにもし私が大スターにでもなったら外国人からメッセージが来るかもしれない。外国は日本よりちん凸文化が激しいとか聞くし。私が送られてくるいちもついちもつに『nice guy』とでも返せば、『新里色音、外国人にも神対応!』みたいな記事ができること間違いなしだろう。
いや、なんの想像だこれ?外国人からち○ちん画像送られてくる状況ってなんだよ?ねーよそんなこと!
私はこんなクソみたいな妄想に耽る暇があったらゲームでもしようと考え、いつものゲーム機の入っている引き出しを開けた。
「あ…れ…?」
なぜかゲーム機がなかった。私は過去の記憶を呼び起こした。そうだ、思い出した。ゲーム機は弟に貸しているのだった。ゲームはしたいが、今は弟と話す気分ではない。諦めて別のことをしよう。
「あっそうだ」
ゲームで課金しようとして結局使わなかったプリペイドカードがあったことを思い出して、机の引き出しを開けた。
「あった」
ぐちゃぐちゃに散らかった机の中からプリペイドカードを取り出した。
よし!このプリペイドカードでスマホのエロゲーを買おう!
前から気になってはいたし、この機会にやってみるのもいいかもしれない。エロい気分になれば勉強で溜まったストレスも解消できそうだ。スマホのゲームとなると手軽で安そうだし。
早速私はスマホを手に取りおすすめエロゲと検索をかける。
「どれがいいかな……できれば主人公は女がいいな……」
『人外少女のぞみ ~宇宙人の侵略~』
これよさそうだな。絵が上手くてエロい。シナリオもよさそうだ。説明も読んでみることにした。
『突如地球に舞い降りた少女、のぞみはあなたと暮らすことに。様々な人物が翻弄される中、あなたは未知と遭遇する。』
ふむふむ。面白そうだ。とりあえずやってみるか。カートに入れるを押そうとした瞬間、ある言葉が目に留まる。
『※注意 この作品の登場人物は全てふ○なりです!』
ふた○りか……
……今の気分ではないな。
いやふ○なりの気分ってなんだよ。
その後、私は別の作品を探し、主人公が女性でふたなりでもない良さそうな作品を見つけ、買おうした所で最悪なことに、プリペイドカードではエロゲーは買えないことが発覚した。時間を無駄にしてしまった。外を見るといつの間にか日が暮れていた。
「……寝るか」
私は大好きなベッドに横になり、明日の到来を待ち設けるのだった。
ジリリリリリリリ───
「うるさいなぁ」
朝。私が大嫌いな時間だ。やたら明るくて、やたらポカポカで、嫌な時間の始まりで、なんかキショい。目覚まし時計もチビの癖に傲慢で生意気だ。うるせえっつーの。私は階段をかけ降り、うまいともまずいとも言えない朝御飯を食べて、暑苦しい制服に着替えて、そこら辺で買った靴を履き、外に出た。ここからも大嫌いな時間、『登校』だ。通学路ってなんか嫌だ。なんか吸い込まれていく感じ。もがいても、もがいても逃げられないブラックホールのようで嫌いだ。
そんなこんなで学校に着いた。けたたましい生徒や教師の声。うるせえ。中学生の時は高校生にでもなれば友達はできると思っていた。でも違った。青春など夢物語だ。私は誰にも挨拶されないまま淡々と教室に入り、席に着いた。
「新里さん」
話しかけられた!?
「そこ私の席だよ」
はっ!?しまった。昨日、席替えしたんだった。席を替える前の席に着いてしまっていた。最悪だ。私は無言で本来座るべき席に座った。謝罪した方がよかっただろうか。でも今さら後悔しても遅いか…
「新里さん、ドジっ子なんだね~」
急に隣の席の人に話しかけられた。昨日始めて顔合わせしたにしては馴れ馴れしすぎないか?
「い…いえ…その…」
緊張でうまく話せなかった。
「新里さん、これからよろしくね」
「よ…よろしくお願いします…」
「緊張しすぎ!もっとリラックスしてよ。というかさ、私の名前、わかる?」
この人は確か……
「白柳さん?」
「そう!周りからは名前の方の瑠羽って呼ばれがちだけどね」
「そ…そうなんですね」
名前を当てられてよかった。ここで間違えていたら嫌われていただろう。
「新里さんは何か最近、ハマってる事とかある?」
正直、最近何かに熱中したりはしてないが、ここで『ない』と答えてしまうと会話が終わってしまうと考え、こう答えた。
「アニメ……見たり……とか……」
「アニメ!?じゃあさ、どういう系のが好き?」
凄い食いついてこられてしまった。私が見るアニメなんて王道から外れた物ばかりだが、とりあえず私はこう答えた。
「バトル系…ですかね…」
「そっか~。私はどちらかと言うと日常系が好きかな~」
「そうなんですね……」
日常系も別に見ない訳ではないが、そこまで詳しいとは言えない。でも少しだけ趣味が合致した。それだけで嬉しかった。
「じゃあ改めてよろしくね。新里さん」
白柳さんが私に手を差し伸べる。
「はい…よろしくお願いします…」
おどおどした顔で私は白柳さんと握手した。
「っ!?」
白柳さんが突然、なにかに気づいたような表情になる。
「どうしたんですか……?」
「ううん、なんでもない。そろそろ授業始まるから準備しないとね」
そう言って白柳さんは授業の準備を始めた。さっきの表情
はなんだったんだろうか。気になって夜しか眠れなさそうだ。私も続いて授業の準備を始めるのだった。
キーンコーンカーンコーン────
「気をつけ、礼」
そんなこんなで学校が終わった。特に面白いこともなく、楽しいこともなく。それで家に帰って、宿題やって、晩御飯食べて、お風呂入って、寝る。そんな毎日の繰り返し。特に面白みのない人生。あーなんか凄いこと起きないかな。そんなことを考えながら私は下校していた。
なんか凄いこと……なんか凄いこと……
ふと下を見ると、地面に血がついていた。その血はまるで道のように連なり、路地裏の方へ繋がっていた。私は恐る恐る連なる血を頼りに路地裏に向かった。
私は薄暗い路地裏に身を震わせながら、先へ先へと足を運んだ。すると、なにやら人のようなシルエットが見えてくる。
「こっちに来ないで!」
女性の声だった。来ないでと言われても血が出ている人を見捨てるほど私は愚か者ではい。私は彼女の元に近付い
た。
「来ないでって言ったのに……」
私は彼女の容姿を見て唖然としてしまった。近未来なアーマーとも魔法少女の服装とも取れるその姿は美しいと共に悲惨だった。アーマーが少しずつ剥がれ、顔が露になる。
「……」
「白柳……さん……?」
白柳さんだった。なぜ白柳さんがこんなよく分からないアーマーを着てるんだ?大丈夫なのか?いや、こんな血まみれで大丈夫な筈はない。私は白柳さんにさらに近付いた。
「新里さん。あなたはヘブンレ・キングスの血を多く持っている大切な存在なの。だからあなたは戦うべきじゃない」
ヘブンレ・キングスの血?戦う?大切な存在?白柳さんの言っていることがさっぱりわからなかった。
「動くな!」
後ろから大きな声がした。振り向くと、私たちは黒いスーツを着た集団に銃を突き付けられていた。
「っ!?」
「クソっ!」
本当に訳がわからなかった。でも、私になにかできないのだろうか。もしこのスーツ集団をぶちのめすことができたら……できたら!
「白柳さん!私に戦う力があるなら戦わせてください!」
「でもあなたは……」
「私が大切な存在なのかなんなのかはわからないけど、あなたを見捨てたくはない!」
「やっぱり戦う運命なのかな…わかった。術式移行!」
と言った途端、白柳さんの周りに魔方陣のような物が形成される。
いつの間にか私は白柳さんと額を重ねていた。私の中に強力ななにかが入ってくるのを感じた。
「これで行けるよ!」
と言って白柳さんが私から身を離すと、たちまち私の身体に魔法少女のような服装と近未来なアーマーが装着される。
「これ…は…」
私は身体中から湧き出るパワーを感じた。
「また新たなダガーアミーが誕生してしまったか」
スーツの集団の一人がそうつぶやいた。
刹那、スーツ集団の一人が私に向かって銃を発泡する。しかし、私の装甲は銃弾をもろともせず、弾き返し、跳ね返った銃弾がスーツ集団の一人に当たり、スーツ集団の一人が倒れる。残り2人。この装甲があれば行ける!
私は猛スピードでスーツ集団に向かってダッシュし、跳び蹴りを食らわす。もう1人のスーツ野郎が私に槍で攻撃を仕掛ける。私は剣を召還し、敵の攻撃を受け止め、弾き返した。敵がよろけた刹那的時間を見極め、スーツ野郎にトドメの一撃を食らわす。スーツ野郎は倒れ、灰になった。
残り1人。楽勝だ。と思った矢先。
「ぐわあああああああああっ!」
スーツ野郎の叫びと同時に、空間が揺らぎ、未知の空間にワープする。スーツ野郎はみるみる内に大きくなっていき、しまいには容姿も醜くなり、怪獣に成り果てていた。
「こ……これは……」
こんな巨大な敵に勝てる訳がない。恐怖と絶望で固まって私は固まった。そんな私に白柳さんはこう言った。
「あなたの中のアミーを召還して!」
アミー?なんだそれは?でも不思議と頭の中ではわかっていた。私のアミーの存在を。
「我は地獄の業火に挑む宝険。汝は枯花に輝き蘇らせる希望。残夢を聞き入れ開悟し、降臨せよ!リスロットヴァシュナ!」
そう叫ぶと同時に、上空で魔方陣のような物が形成され、巨大ななにかが創り上げられていく。気がつくと私は眼下に広がる街々を見下ろしていた。
「アーマー、100%形成完了」
装甲が形成され、ついにリスロットヴァシュナは完成した。
「降臨!リスロットヴァシュナ!」
太陽の光に黒金の鋼が輝き、煌めいた。祈りを聞き届け、今、正義は呼び覚まされた。
「グガアアアアアアッ!」
怪獣が叫ぶと同時に我に突進攻撃を仕掛ける。我はその攻撃を受け止め、そのまま近距離で攻撃を怪獣に食らわす。
「グガアアアアアアッ!」
怪獣が痛みをこらえるように泣き叫んだ。
私にはなぜかこの力の使い方がわかった。どのように動き、どのように立ち回るのか、この技がどんな役割を果たすのか不思議とわかっていた。
「次はこの攻撃を食らわせてやるっ!」
瞬間、我は目にも見えないスピードで怪獣の腕を切り裂いた。腕を失った怪獣は悲痛な叫びを上げ、膝をついた。
「新里さん!今よ!怪獣を無に帰して!」
「応よ!」
私は必殺技を放つための口上を精一杯の声で咆哮した。
「悪久を切り裂け!刃金を唸れ!邪悪を掻き消すは、叫び上げる正義の裁き!」
口上を放つと同時に我の装甲が羽を模した形になり、勇ましき感情を奮い立たせ、飛翔する。最上空に到達した所で我は宝剣を召還し、怪獣に向かって叫んだ。
「インアバルソードデスブロー!!!」
重力の力を得て何倍にも膨れ上がった必殺技。それはまるで無数に広がる星々の片隅の降下する隕石のようだった。怪獣は必殺技を避けることができず、真正面から攻撃を受ける。
「グワアアアアアアアア!!」
怪獣が泣き、ギザギザの皮膚に亀裂が走る。
ドカアアアアアアアン!
爆発。怪獣の悲鳴が木霊し、残響音が響き渡る。
怪獣、スーツ野郎は死んだ。
そして、ここに正義は誕生した。
リスロットヴァシュナ────
それは地獄の業火に挑む宝剣。
それは枯花に輝き蘇らせる希望。
そして私は、内弁慶ボッチの新里色音───
刻は今始まりを告げた。
これは私の物語だ。
なんてカッコつけてみたり。
いつの間にか私は元いた路地裏に横たわっていた。
「新里さん!」
白柳さんだった。
「凄いよ!初めてであんなにも強いなんて!」
白柳さんは興奮して私を強い力でグラングランと揺すった。
「あ、あ、あ、ありがとうございます……」
「本当に凄い!ありがとうね、助けてくれて」
「それで…あのスーツ集団は何者なんですか?」
当然知りたかった。
「え?それは知らないんだ」
さも知ってて当たり前みたいな返事をされたが、確かにコックピットの動かし方は不思議とわかった。だから奴らの
ことを知っていても不思議ではない。でも知らなかった。
「教えたい所だけど、今日はちょっと疲れちゃった」
疲れて当然だ。あんなにボロボロだったし。
「だから、明日でもいい?」
「はい。今日はゆっくり休んでください」
「ありがとう。じゃあ明日学校でね」
そう言って白柳さんは立ち去った。
これから先、私にはどんな運命が待ち受けているのだろうか。考えただけで胸が膨らんだ。無乳だけどな!私は散らかっていた荷物をまとめて帰路につくのだった。
「また、か……」
その少女は上空から見下ろしていた。リスロットヴァシュナの勇姿を。数多なる罪に苛まれた屈辱を……。




