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第二話

剣と魔法、そして蒸気機関、もしかすると銃も出てくるかもしれない。そんな世界でも変わらない事がある。


武器を手に取り、命令を実行する。

きっと兵士とは常にそういうものだ。

 肌寒い夜道。点々と光る街灯は、どこか哀愁を漂わせる。何度も歩き慣れた道なのに、どこか寂しい気持ちを思わせるような景色。

 冷える手をコートのポケットに突っ込み、早足で帰路を進む。


 やがて、少し繁華街から外れた道の奥に二階建ての事務所が見えてくる。

 そう、この大男は探偵であり酒場の用心棒であり、そして冒険士としての資格も有している。一日の仕事を終えた彼は玄関を気怠けに開け、分厚いコートをすぐそこのハンガーに掛ける。



「やぁおかえり。どうだい?今日はトラブルがあったようだけど」



 奥の方から仕立ての良い真っ白なスリーピースを着込んだ長身の男が話しかけてきた。

 そうだ。彼もまた探偵であり、この連邦国アルリアに拠点を置く事務所の代表取締役である。

 彼の名を"スカイ・ピーター"と言う



「冒険士二人が揉め合いになり、警察対応。怪我人は無し。それ以外は何も起きていない」



「へぇ、まぁ血が出る事態にならなくて良かったねぇ。お疲れさん"シルバー・ダガー"」



 銀の短剣。シルバー・ダガー、それが彼の名前だ。



「ところで、先程警察から連絡があってね」



 ピーターは話を切り出した。



「身柄は受け渡し済みだ」



「いやその話じゃない、別件だよ」



 そう言い放った彼は、手に持っていた資料をダガーに手渡した。



「麻薬取引のガサ入れか」



「そう、ここ最近取り締まりが厳しくなって件数が減ってた筈なんだけどねぇ。また流通し始めたみたいなんだ。既にブツその物は確保して調査済みなんだが、どうも国外から大量に流れ出ているらしくてね」



 手短に説明するピーター。それにダガーは答える。



「薬物というのは殆ど外から流れてくる物じゃないか?なぜ今更それを」



「その大元が、まぁ色々とね」


 そう言いながら彼が資料の一部に指をさす。そこには「調合された素材や輸出ルートから考察すると"ルージアン"から流れて来ている可能性が高い」と記述されていた。


 社会主義共和国ルージアン、かつて第三次大陸戦争にて自由連邦国アルリアと敵対関係であり、熾烈な衝突を繰り返し、やがて停戦協定を結ぶことになる。しかし、停戦間もなくアルリアの占領地であった"キール半島"の分割統治を宣言して一方的に攻撃を仕掛けてきた過去がある。

 アルリアはそれが再び国家間の大規模戦争の引き金になる事を恐れて、自国の軍事力のみでキール半島の紛争鎮圧を決定した。数日で収拾するはずだった衝突は非常に大きな戦火となり、お互い戦後という大きな国家ダメージを背負った状態での軍事衝突であったため、泥沼の戦争へ突入してしまったのだ。

 戦後の国際平和が崩壊しかねないこの戦争は、完全な非公式戦争という形で始まって、幕を閉じた。国際社会はこの半島で何が起きていたのか全く知らないのだ。

 何故ならそれがルージアンとアルリアが締結した"停戦協定"である為である。この二大国家は戦争などしていない、戦後は衝突していない。お互い敵国同士であった国々が国際平和社会の名の下に、手を取り合った。そういう事になっている


 その歴史の裏には、大量の血が流れているとも知らずに。


 

「またやましい事を考えてるんじゃない?有事が起きるなら出向くまでさ」



  とピーターは軽々しく言い切る。



「さて、お喋りも済んだ事だし……今夜9時35分から開始だ。あと2時間もある、ティータイムでもどう?」



「アーマーの準備で1時間潰れる。急ごう」



 ダガーは急かすつもりで言ったわけではないのだが、ピーターは少し呆れた顔で奥の部屋へ向かった。



 応接間を抜け、事務所の奥へ。さらに先を進むと金属に包まれた無機質な廊下がみえてくる。更に歩みを続け、冷えた鉄扉を開ける。金属の擦れる音が響き、扉が開き切った。


 兵器庫。まさにそう呼称するのが合致している部屋だ。さまざまな軍用兵器が丁寧に整理されて並ぶ。

 そして一番奥に立っているのは……



「さしぶりに見たな。"ブロードアーマー"」



 ピーターが呟く。視線の先には合金で構成された灰色の装甲、2メートルもあるでろう巨大な金属の塊。"ブロードアーマー"だ。全身の装甲パーツがそこに立て掛けられていた。



「スキンはもう着てたよな?」



 ピーターがダガーへ問う。



「大丈夫だ」



「じゃあ先に装着しておいてくれ。こちらはギアの準備をする」



 ピーターはそう告げると端のロッカーを開けて様々な種類の雑嚢を取り出す。各任務によって必要な装具は変わる。戦闘準備とはそういうものだ。

 その一方でダガーはコートを脱いで本来の姿を露にした。やや焦茶色の黒いボディスーツ。いや、そう呼ぶにはあまりにも分厚い。

 体格が一際大きく見えるその"下地"は、この鉄の鎧を着るために欠かせないものだ。


 ダガーがゆっくりと装甲に手をかざした。目を閉じて魔力を念じる。すると立て掛けられていた何kgもの装甲パーツが次々と浮かび上がり、まるでダガーの身体に吸い込まれるかのようにパーツが貼り付いていく。

 爪先、脛、太腿、股間、臀部、腰、胸、背中、肩、腕……殆どの身体の部位を合金で包まれていく。

 そして接続部位が"結晶"によって確実に固定され、ダガーと一体となった。



「あぁそういえば魔力ジェルの交換はまだ大丈夫だっけ?」



 それを横目に、ピーターが思い出したかのように質問する。



「あと1日と3時間」



「丁度いいな。この任務が終われば補充しておこう。少し失礼」



 ピーターが両手に様々なポーチを抱えてダガーのアーマーに取り付けていく。

 1個ずつマウント部位に装着していき、中身を確認して脱落確認。手慣れた手つきで鎧を"装飾"する。



「さて、これで最後だ」



 自慢げな顔でピーターは箱から物体を取り出す。ヘルメットだ。

 ただの鉄帽ではない。頭部を完全に覆い被せるフルフェイスヘルメット。兵器らしい威圧感と工業製品のようなスマートな顔つき。

 青いバイザーが夜光に反射する。



「最後はご自分で」



 それを差し出すピーター。ダガーは両手でしっかりと受け取り、自らの頭に被せる。



「様になってるよ。さて、一時間前倒しだが外で準備を……」



「待て、小銃は?」



 一仕事終えた雰囲気を出して、部屋を後にしようとしたピーターを引き留めた。



「実弾は使用できない。使えたとしても麻酔弾だ、残念ながらウチはそういった類は持ち合わせてないのでね」



「どうやって敵を無力化しろと?」



「警察のお偉いさん方は全員の逮捕を望んでいる。なるべく健康体で捕獲しろと。つまり徒手格闘で捕縛だな」



 ピーターが皮肉混じりに言葉を返す。



「僕が"タイタス兵"だと忘れてないか?それとも知らないのか」ダガーも悪態混じりに返す。「素手でも人間の頭くらいならもぎ取れてしまうぞ」



「別に無理に捕獲しろってわけじゃ無い。なるべく生捕にしろとさ。状況によっては迷いなく殺傷してくれ」



「アバウトな命令だな」



 そう会話を終えて2人は隠し扉から探偵事務所を出た。


 彼等の裏仕事が、始まる。

・強化兵士タイタス計画


超人的な兵士による圧倒的な軍事力の確保を目的とした計画。

第一世代、第二世代、第三世代と大きく分かれており、第二世代までは乳児を病院施設から合法的に誘拐、戦争孤児の児童を孤児院から回収するなど非常に非人道的な手法で候補生を徴兵した。

特に第一世代はノウハウや実証データの少ない不安定な初期技術を用いていた為、強化途中に肉体の異常発達や変形、合併症による死亡などが起こってしまった。

強化技術の安定した第二世代でも一名だけ死亡者が発生している。

戦後、情報公開を迫られたアルリア政府は第三世代タイタス計画を開始し、成人した志願兵のみを募集して強化内容も肉体の魔力コーティングのみに留めるように課程をダウングレードさせてこれまでの違法性を隠蔽している。


強化内容

・成長薬の服用

・主要骨格に強化剤の注入

・薬物による心肺機能の強化

・魔力石を各部位に埋め込み身体を強化し、強力な魔力術を使用可能にする

・肉体、骨格の魔力コーティング


以上の強化内容が実施されており、第一世代では身長190〜220cm、体重は平均150kg以上と肉体成長がバラつき、失敗リスクも大きかった。

第二世代からは計算と統計学によって正確に投与と強化が実施されて身長190cm、体重130kgで肉体成長を統一する事に成功する。

第三世代では肉体の魔力コーティングのみに強化内容をグレードダウンしている。

戦闘時においては、専用の特殊装甲服を着用して戦地へ投入される。

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