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慰安旅行(9)

 余程海に行くのが楽しみなのか、無駄に気合が入るNo.1(アインス)

 で、俺としてはNo.1(アインス)の為に海に行ったつもりだったのだが思いのほか楽しくて、二人でさんざんはしゃいでしまった。


 こっちの海も前世の海と同じだったので、足元の砂は変な感じはするし、水はしょっぱいし、波はあるし、二人で時間を忘れて楽しむ事ができたのだ。


「あ~楽しかった。今度アンノウンの皆で楽しむか?」

「ぜひそうしましょう、ジトロ様。海って大きくて、奇麗で、これほど楽しい場所だとは思いませんでした!」


 輝く笑顔のNo.1(アインス)。これでいて、裏では魔獣の制御をしっかりしているのだから大したものだ。


 で、俺達がさんざん楽しんでいる最中のあいつらと言えば、ただひたすら魔獣の遠距離攻撃を全力で防ぎ続けていた。

 長きに渡り悪事に身を染めていた連中だけあって、この状況下でも連携も取れているし、被弾した者を後方に下げて回復させる鮮やかな動きだ。


 俺は攻撃している魔獣の内の一体の視覚を共有して状況を確認している。

 恐らくNo.1(アインス)も同じような事をしつつ、魔獣の制御をしているのだろう。


 だが、防戦一方。反撃できる隙すらなく、かなりの時間が経過しているので、回復するにも時間がかかり始め、ダメージを負いつつ防御する場面が増えてきた。


 もちろんこいつらに睡眠なんてさせるつもりはない。

 しかし、このままだと二日は持たないな。


No.1(アインス)、あいつら、明日の朝にでも迎えに行く事にしよう。それで、俺達は今日は宿に帰る途中で気に入った店に入って食事でもしようか?」


 海でモヤモヤが洗い流されたのか、すっかり観光モードに入っている俺とNo.1(アインス)


 大通りに面した通りを歩き、海産物を焼いた良い匂いのする店に自然と足が向かう。


「どうだNo.1(アインス)、ここにするか?」

「とても良い匂いがしますね、ジトロ様。フフフ、本当に楽しみです」


 正直、魚の名前やら何らは俺達には一切わからないので、店主に任せてみたのだが、これが大当たりだった。前世のホタテに似たような味の他にも、海苔やカニのような物まで出てきた。


 海で、全力で遊んだ後だけあって、余計に美味しく感じたのかもしれない。

 スキー場のカレー的な効果だろうか?


「ジトロ様、本当に今日は楽しかったです。食事もおいしくて。また皆で楽しみましょう」

「そうだな。イズンに相談すれば、アンノウンゼロの休暇もうまく調整してくれそうだしな」


 そして翌朝、俺とNo.1(アインス)はアンノウンとしてあいつらの元に向かった。


 もちろん面倒くさいので、魔獣の攻撃は中止させた上で移動している。


「く、ようやく魔力が切れたか。この隙に治療と休息できるものは休息しろ!」


 俺達に気が付いていない、この一団のリーダー的な奴が場を仕切っている。

 てっきり魔力レベルが一番高い門番がリーダーかと思ったのだが、違うようだ。


「おいお前ら、あの魔獣の攻撃は魔力が切れたんじゃないぞ。俺達が来たからだ」


 ようやく俺達の存在に気が付くクズ共。

 まさに満身創痍と言う言葉がふさわしい状態で、領主に至っては回復時の魔力節約からか、最低限の治療だけされて放置されている。


「で、お前はまだまだ元気そうだな。もう少し罰を続けるか?」


 リーダー的な男に少々強めに指摘すると、一瞬で土下座の姿勢になった。

 まさに電光石火の土下座!電石土下座と名付けよう。


「アンノウンの皆様、申し訳ありませんでした。もう許してください。二度とあのような事は致しません。何卒、何卒!!」


 必死に懇願してくるのだが、俺としては一つだけ確認しなくてはならない事があった。

 既にNo.1(アインス)には伝えてあり、更に完全な体制としたいので、隠密状態のNo.7(ジーベン)もこの場にいたりする。


「お前らは、バリッジか?」


 そう、この短い期間ではそこまで調査しきれなかったのだが、こいつらがバリッジと繋がっているようであれば、残念ながらこの場から出すわけにはいかないからだ。


 本当は昨日の時点で聞けば良かったのかもしれないが、ゴメン、忘れていた!


 もしこの連中がバリッジだとしたならば、あんな組織の連中が改心などするわけがないから罰は継続。いや、もっと厳しい罰になるので、そう長くは生きられないだろうな。


 もちろん領主もその対象に含まれる。バリッジか絡むのであれば、例外はない。


 俺、No.1(アインス)No.7(ジーベン)で注意深く観察する。


 すると、残念な事に全員から動揺が伝わり、更には無意識に領主に視線を移す奴までいた。


「どうやらそのようだな。ここまでクズだとその可能性が高いと思ったが、残念だ。これだけ素晴らしい街なのに、クズの一味が統治しているようでは、未来はないな」

「……最近組織から時折話が来るアンノウン。お前らか」


 俺達が決して許す事がないと悟ったリーダーは、電石土下座をやめて口調も攻撃的になった。

 やはりこいつらに改心する心は持ち合わせていないのが良く分かる。


「俺達もまあまあ有名になったようだな。だが、あのドストラ・アーデがいるような組織の中で有名になっても、これっぽっちも嬉しくはないな。No.7(ジーベン)もういいぞ、出てきてくれ」

No.0(ヌル)、この者達はもう駄目ですね。今の態度から改心する可能性がないと判断しました。」


 流石はしっかり者のNo.7(ジーベン)、良く見ている。ま、そのために呼んだんだけどな。


「お前らの罰は決まった。命尽きるまでここで頑張ると良い。あっ、優しい俺は、耳寄りな情報を教えておいてやろう。この魔獣、今は俺達の力で強さを調整しているが、本来は魔力レベル30だ。お前らを生かさず殺さずのレベルに制限してやっていたんだ。信じなくても良いけどな。これからは、時間が経つごとにその制限を解除していくからそのつもりでな。今までお前らのふざけた行動で犠牲になった人々に懺悔しながら朽ちると良い」


 もはやこいつらと話す事は何もない。

 だが、領主だけは別だ。万が一そこそこの地位にいるのであれば情報を仕入れておきたい。


「お前には少し話がある。もし俺達の知らないバリッジの情報をよこすのであれば、命は助けてやろう。そうだな、例えば首領の正体、戦力、拠点、何でも良いぞ」


 だが、この領主は目を泳がすだけで何も言わない。

 周りの連中に配慮しているのではなく、俺が伝えた希望する情報を持っていないのだろう。


「はぁ~、そりゃそうだな。あの貴族であるドストラ・アーデすら本当の下っ端だったからな。お前程度がそんな御大層な情報を持っているわけがないな」

「待ってください。何とか調べますから、命だけは助けてください!」


 お約束の懇願が来たが、こいつらは今この状況下だけ殊勝な態度を取る連中なので、一切検討の余地はない。


「お前程度に仕入れられる情報の訳がないだろうが。じゃ、頑張れよ」


 こうして、ペトロスの町の領主を含むバリッジ構成員は、人知れずその姿を消した。

 と同時に、俺とNo.1(アインス)、そして手の空いているアンノウンの行動も決定した。


 この短い休暇期間に、徹底的にこの町を調査し、バリッジの残党がいないかを調査する。

 特に領主周辺を重点的に調査する事にした。


 その結果、残党は一切いなかった。いや、見つける事ができなかったと言う表現が正しいのかもしれない。

 あれだけの組織なのだ。そうやすやすと尻尾を掴まれる幹部はいないだろう。

 この町のように、簡単に見つけられるのは構成員かどうかすら微妙な使い捨ての者達だけだ。


 一応領主が失踪して大騒ぎになったのだが、元領主の身内が新たな領主として活動する事によって混乱はあっという間に終息した。

 領主がいなくなった時の心配をしていた俺がバカみたいだ。


 そして残りの休暇は三日!


 アンノウンの全員が、この三日に分散してこの町で海と料理を楽しむイベントを開催する事にした。

 イズンも快諾してくれたので、ある程度資金も潤沢だ。


 何故か、その中に気合十分のバルジーニさんもいたのだが、ま、いいでしょ。


 でも、いい年したおっさん、いや、おじいちゃんが海ではしゃぐ姿を見るのは、少々ダメージになるのだな……と、この時初めて分かった。


 もちろん、この町にあまり良い思い出がないだろうノイノールとフォタニアには、拠点で魔獣と遊んだり、アンノウンの留守番組と温泉や遊びを楽しむ選択肢も示したのだが、アンノウンの一員として行動したいと頑なだった。


 イズンがせめて安心できるようにと調整し、一番付き合いの長い?キロス、ドリノラム、フリーゲルを同じ日に来させるようにしていたのは流石だ。


 彼らの周りには心から信頼できる仲間達がいるので、俺が心配していたような不安な気配は一切感じさせるような事はなく、皆で楽しい一時を過ごす事ができた様だ。

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