慰安旅行(6)
こいつは一体何を言っているんだ?フリーゲル。幼い子に訳の分からない事を……
と思っていたのだが、他のアンノウンゼロだけではなく、ソラ(No.1)まで頷いていた。
「えっと、お小遣いなんていただけるのですか?」
「お小遣いって、お金を頂けるという事ですか?」
二人は、お金を自ら持った経験がないのだろうな。
「ああそうだよ。楽しみにしていると良いよ。それと、君達の為に僕達と同じような魔獣を手配している最中、いや、もう既に手配済みだから。ジトロ様、既に手配完了しているようですが、こちらに呼び寄せますか?」
突然真面目な事を言っているフリーゲル。まぁ良いか。多少ふざけた事を言えるのもアンノウンの良い所だ。
「二人は今から魔獣が目の前に現れても大丈夫かい?」
念のために二人に確認をしたが、既にアンノウンゼロから大人しく従順な魔獣を見せてもらっている二人は、待ちきれないと言った感じだった。
「大丈夫そうだね。じゃあフリーゲル、頼むよ」
フリーゲルは俺の指示を受けて魔獣を通した念話でNo.2と連絡を取っているのだろう。
すぐに魔獣二体が現れた。
「うわ~、大きい!」
「かわいい~」
二人ともすかさず魔獣に飛び込んで、ふわふわの毛並みに顔を埋めている。
周りを見ると、この場にいる全員が微笑ましそうにその姿を見ている。
ようやく子供らしい姿を見せてくれて、喜んでいるのだろう。
俺も、この国に来て初めて心が温まっているのを感じる事が出来た。
「この二体が君達に力を与えてくれる魔獣だよ。今はナンバーズの力によってテイムされているけれど、テイムなしでも力になってくれるような信頼関係を築いてね」
このセリフは自分自身にも言っているに違いないフリーゲル。
何と言っても、彼らアンノウンゼロはNo.2のテイムを外しても、今と同じような魔獣の力を得られるようにする修行の最中なのだから。
「ノイノール、フォタニア、君達はたった今からアンノウンの一員で、俺達の仲間、そして家族だ。もちろん仲間の信頼を裏切るような事は決してないようにして欲しい。それで、これからだけど、俺とNo.1は引き続きこの町に留まって、あのクズどもを躾る予定なんだ。君達は、安全の為もあるし、魔獣との信頼関係や力の使い方を学ぶ必要があるから、拠点に戻った方が良いと思うけど、それで良いかい?」
「「はい、皆さんの期待を裏切らないように頑張ります!!」」
魔獣に埋もれつつ、嬉しそうな表情なので問題なさそうだな。
「拠点にも沢山の仲間がいるから、楽しみにしていると良いよ。それじゃあ、フリーゲル、キロス、ドリノラム、頼んだよ」
「「「承知しました」」」
「よし、じゃあノイノール君とフォタニアちゃん、魔獣に乗ったままで良いから拠点に戻ろうか。向こうにも沢山の仲間がいるから、楽しみにしているんだよ。龍もいるから驚かないでね。ではジトロ様失礼します」
最後にフリーゲルがそう告げると、あの二人と共にこの場を後にした。
魔力レベル60の魔獣の力では一瞬ではあるが中継を挟まないと拠点にはたどり着けないが、大した問題にはならないだろう。
「ジトロ様、そろそろナンバーズが帰還します」
間違いなくこちらの状況を把握している諜報活動に向かったナンバーズ三人は、刺激的な話をあの二人に聞かれないように気を使って、この部屋への帰還のタイミングを見計らっていたはずだ。
「「「お待たせしました(~)」」」
No.3、No.5、No.10がいつもの通り、音もなく表れる。
「ジトロ様、あいつら門番だけじゃなく、この町の領主と繋がっているぞ。既に奴隷二人が失踪したと報告が上がったので、領主自ら捜索の指示を出していた」
「No.3の言う通りです。もうどうしようもありませんね。街中も、この大通りにはきれいで華やかになっていますが、少し道を外れると、劣悪な環境、そして奴隷も多数おります」
「ジトロ様、潰しちゃいましょうか~、町ごと。もう面倒ですものね~」
No.10の緊張感が切れてきたのか、No.3よりも好戦的になってきている。
だが、領主までクズとなると問題だ。潰す事自体は簡単だが、その後の混乱を収める術がない。
俺を含めて、アンノウン全員統治なんてした事も無いので、領主を始めとしたクズ連中を躾た後の混乱を収めるだけの知識、力がないのだ。
敢えて言えば貴族出身のイズンだが、イズンは貴族の出身である事を俺に話してこないので、俺達も知らない体で過ごしている。
伝えたくなれば言って来るだろうから放置しているので、この件についての助力は得られない。
こうなると、躾の方法を考え直す必要があるかもしれない。
今までは、場合によっては再起不能になるまで肉体言語で教育をしていた。
基本的には同様の処理になるが、再起不能になるまでではなく、少々力を抑える必要が出て来る。
こうなると、また新たな問題が出て来る。
残念ながら俺も含めてナンバーズでは、そこまでの微妙な調整を行う事ができるメンバーがいないのだ。
大体、必死で力を抑えても結果的に瀕死になっている。
う~ん、回復が得意なNo.6を呼んで、瀕死、回復のコンボを繰り返すか?
「ジトロ様、残念ながら今後もこのような状況になる事が予想されます。ここはダンジョンを一つ入手して、魔獣による恐怖を与えてはいかがでしょうか?罪のレベルに応じて魔獣の行動を変える必要があると思いますので、少々No.2の負担が増えますが、私も手伝いますし、問題にはならないと思います」
No.1は、俺の悩みをすかさず察知して、対策を提案してくる。
ここまで俺の心を完全に読めるのは、アンノウンの中でもNo.1だけ。
いや、お金関係に限ればイズンもだが……
「そうだな。俺にはそれ以上の案が出そうにないし、そうしよう。だがそのダンジョン、一般の人々が決して立ち入らないような場所を選定してくれ」
つまりは、強制的にクズ共をダンジョンに転移させる。
そこでアンノウンとして非道な行いに対する罰であると告げ、その後は魔獣に怯えながら、反省するまで極限の生活をさせる。
「承知しました。では、No.3、No.5、No.10で調査の上、攻略まで済ませて下さい」
「「「わかったわ(ぜ)(~)」」」
一応ナンバーズのまとめ役はNo.1になっているので、彼女の指示に従い即行動に移す三人。
あの様子であれば、長くとも数時間でダンジョンの一つ位手に入れてくるだろう。
そう思っていたが、予想通り、いや、予想よりもかなり早く三人はこの場に戻ってきた。
どれ程気合が入っていたのか、俺でも驚く速さだ。
「ジトロ様、ダンジョン入手完了したぜ。だけどな……」
言葉を濁すNo.3。その目線の先にはNo.10。
この時点で、俺達はこの後に何を言われるかを察していた。
このド天然が何かをやらかしたに決まっているからだ。
当人はやらかした事を一切認識していないような、満ち足りた表情をしているがな。




