慰安旅行(5)
慈愛の表情で部屋の布団に潜り込んで寝息を立てている二人を見ているソラ(No.1)。
自分の昔を思い出しているのだろう。
「今までの通り、奴隷に対して明らかに理不尽な扱いをしていた連中に罰を下す。この二人はここで養生して、体調が戻ればすぐにでも拠点に移したい。恐らくすぐにでも移動できるとは思うが、念のためこの二人のフォローができそうなアンノウンの何人かをこちらに来るように手配してくれ。それと、No.2にアンノウンゼロの魔獣を二体追加するように。大至急だ」
「承知いたしました」
アンノウンゼロに付き従わせている魔獣の追加指示。この時点で俺がこの二人をアンノウンに加入させる事は確定していると理解できただろう。
拠点では、アンノウンゼロに配備されている魔獣のテイム解除訓練が行われている最中だと思うが、こちらも緊急事態だから仕方がない。
念話で全ての指示を出し終わっただろうソラ(No.1)が、俺に報告を上げてくる。
基本、ソラ(No.1)が付き従っている時に、俺が直接念話で指示を飛ばす事は無い。
秘書的な仕事を希望しているソラ(No.1)の要望でもある。
「魔獣の確保は、No.2が向かいましたので、程なく終了致します。こちらに呼び寄せるのは任務の兼ね合いもありますので、イズンが調整した結果、アンノウンゼロからはキロス、フリーゲル、ドリノラムの持ち回り、ナンバーズからは、No.3、No.5と、工房ナップルの状況により任務から外れる可能性はありますが、No.10を手配いたしました」
この短時間で全てを調整するイズンはさすがだ。
それにアンノウンゼロの三人は、俺の知る限り特に子供好きだ。
この人選も、こちらの状況を的確に判断した結果だろう。
No.3に関してはかなり口が悪いので、これは子供達の対応ではなく、これから潰す連中対策で選んでくれたのだろうな。
No.3は武術を最も得意とし、ナンバーズ随一の好戦的な性格をしているからな。
他のナンバーズも、潰す連中対策用に手配をしてくれたはずだ。
「それで頼むよ。この二人が目覚めたら、とりあえずアンノウンのこちらに来てくれる六人を紹介しておこう」
「仰せのままに」
No.1のセリフが終わる瞬間、ナンバーズが現れた。
基本ナンバーズは、No.10以外固定の任務についていないので、比較的時間がある。それに今日は緊急の指示を出しているので、すかさず現れたのだろう。
No.3も、常に俺が挨拶は大切と皆に言っているので、挨拶だけは丁寧な言葉でできるようになっている。
「「「お待たせしました(~)」」」
「急に呼び出して済まないな。事情は聞いていると思うが、あの二人をこき使っていた連中に、アンノウンとして躾を行う。連中には追跡用の魔道具を付けているので、三人でそいつらの行動を監視してくれ」
俺の指示を受けて音もなく消えていくナンバーズ三人。
こう言った時には、No.10も何かをやらかすわけではない……と思う。
少し気が抜けると突然行動がアホになるので、今回の緊張感をもってすれば問題ないだろう。
夜になり、ようやく二人は目が覚めたのだが、未だに現実が受け入れられないのか、ソラ(No.1)が再び同じような話をして落ち着かせていた。
ただ二回目だけあって、それほど時間はかからずに再び落ち着き、彼らの事情もある程度は把握する事ができた。
予想通り、気が付けば奴隷になっていたと言うパターン。
誘拐か、人身売買かはわからない。
両親の記憶もないそうだ。
兄の名前はノイノールで10歳、妹はフォタニアで8歳らしい。
“らしい”と言うのは、正確な年齢もわからないので、大体その位じゃないかという事だ。
この場にいる俺とソラ(No.1)も自己紹介を済ませた。
「それでな、君達さえよければ俺達と共に行動しないか?」
「えっ、それってソラ(No.1)さんのようになれるっていう事ですか?」
「お兄ちゃん、私そうしたい!」
思っていた以上に好意的になっている。
自分と同じか、それ以上に劣悪な環境だったソラ(No.1)の今を見れば、そう思ってくれるだろうとは思っていたが、予想以上だ。
「ああ。ただ、君達は知っているかもしれないが、君達自身の魔力レベルは0だ」
「はい、前の主にそのような事を言われた事はあります」
ノイノールが落ち込みながら返事をする。
自分がソラ(No.1)と同じような強さを持てないと思ったからだろう。
ま、ソラ(No.1)クラスは無理だが、人族など脅威にならない程の力を得る事はできるんだけどな。
「だが大丈夫だ。俺達の仲間にも当然魔力レベル0は多数いる。今は色々仕事をしているので、そのうちの三人を紹介しよう。すぐに目の前に現れるから驚かないでくれよ?」
「こんばんは、お兄ちゃん頑張ったんだってね、エライぞ!」
「こんばんは~。妹ちゃんも、お兄ちゃんを心配してたもんね。とっても優しいね」
「こんばんは!これから、一緒に沢山遊ぼうな!」
キロス、ドリノラム、フリーゲルだ。
今回の任務で唯一の男はフリーゲル。早く子供と遊びたくて仕方がないと言った感じだ。
「えっ、なんで急に現れたんですか?」
「お兄ちゃん、これってお伽噺の転移じゃないの?」
「でも、さっきジトロさんは魔力レベル0って……」
初めに見せるには、術が強烈すぎたかな?
だが、この程度で驚いていてはアンノウンの全力を知ったら卒倒しかねないので、今のうちに耐性を付けてもらおう。
「そう、彼らは間違いなく魔力レベル0。でも魔術を使う事ができる。どうだ、俺達と共に来るか?」
兄妹は互いを見るが、その瞳には既に固い意志が見て取れる。
「「はい、よろしくお願いしますジトロ様」」
突然“様”呼びになったが、これが、この兄妹のけじめなのだろう。
今後仲間になった二人には、もう少しだけ詳しく事情を話さなくてはならない。
アンノウンゼロの力の源については当然話すが、バリッジの事、バイチ帝国の事、当然アンノウンゼロとしての心構え、そして秘匿事項の類についてだ。
妹の方であるフォタニアは自称8歳らしいが、頭の切れる娘なので問題ないだろう。
こうしてある程度説明が終わると、感動したような表情をしている二人。
「ジトロ様は、それほどの力を持ちながら奴隷を開放しておられるのですね」
「普通、力がある人は無条件に奴隷を集めるものかと思っていました」
二人の根は深いな。
だが、アンノウンの仲間に囲われれば、比較的早い段階で心から楽しむ事ができるようになるだろう。
最後に、フリーゲルがアンノウンの注意事項を伝えていた。
「良いかい二人とも、アンノウンはジトロ様が絶対だ。ジトロ様について行けば全て間違いはない。でもね、時と場合によってはジトロ様でもかなわない人がいるんだ。その名前はイズン。アンノウンゼロのイズンだ。よ~く、覚えておくんだよ。彼はアンノウンの頭脳であり、金庫番でもある。これから君達も毎月お小遣いを貰う事になるけれど、オイタをするとお小遣い停止の刑が待っているからね。気を付けるんだよ」




