騎士隊長ナバロン(3)
ついに、身体強化を行いつつも同時並行して探知を行い、地中の魔獣を討伐する事に成功したナバロン。
魔力の並列起動の初歩を習得したのだ。
「やったぞ!No.7殿、これが並列起動か。確かにこの力があれば、たとえ魔力レベル差があれど勝機が見いだせる!」
燃え尽きて灰になった心に新たな芽吹きがあり、同時に気力も充実するナバロン。
これほどの興奮を覚えたのは記憶にない程に、昂っていた。
「おめでとうございます、ナバロン騎士隊長。基本的な並列起動はこれで習得できたかと思います。探知以外の術の起動は、追々修行を行えばできるようになるでしょう」
「おぉ、感謝する、No.7殿!」
興奮収まらぬナバロン。
No.7としても、ようやく第一段階をクリアする事ができて安堵していた。
本来、二つの術の並列起動を習得する程度でははっきり言って不足しているのだが、たとえ最強と言われていた人物であったとしても一般の人族にそれ以上を求めるのは厳しいと理解しているので、これ以上の要求をしないNo.7。
ナバロンとしても、並列起動は二つの術を同時に起動すると勝手に解釈しているので、この修行はここで終わりと言う事で納得していた。
「では次はいよいよ魔力レベルの上昇です。ナバロン騎士隊長は今までどのようにして魔力レベルを上げてきましたか?」
「それは、自らと同格、まれに少々格上の魔獣を狩りまくった」
「そうですね。基本はそれしかありません。では、その方法で参りましょう!」
そうナバロンに伝えたNo.7は、今回の魔獣を準備していたNo.2に念話で次なる魔獣の召喚を申請する。
するとナバロンの前に現れたのは、バイチ帝国の騎士隊長として長く活動しているナバロンですら見た事もない魔獣が目前に現れた。
「ナバロン騎士隊長。この魔獣は魔力レベル23のトルネリアです。幻影を使って惑わせる事が得意ですので、習得した身体強化と探知の並列起動を使えば、魔力レベル差があっても倒せますよ」
低いレベル帯であれば、魔力レベル差による戦力の差はあまりない。
だが、そうは言っても10以上違うと別格の強さと言って良い。
高レベル帯になるとそもそもレベルが上がり辛いので、少ないレベル差でも大きな力の差が出るのだが、今回のナバロンの相手は魔力レベル23。
あえて言えば中レベル帯とでも言うのだろうか。
どうあれ、今回の闘いは魔力レベル10VS魔力レベル23になる。
「まっ、待ってくれ、No.7殿!魔力レベル23!?10以上の差があるのに、大丈夫なのか?」
「はい!大丈夫です。自信をもって戦ってください」
せっかく心にできた新たな芽吹きも、まるで高速逆再生のように即座に萎れて枯れ果てるまで到達してしまったナバロン。
少々うつろな目をしながら、トルネリアと対峙する。
トルネリアは、強制的に転移させられてこの場にいるので何が起きたかわからない状態ではあるが、目の前にいるナバロンは敵であると認識していた。
No.7は存在を隠蔽して、トルネリアの警戒網にかからないようにしている。
この魔獣に存在がバレてしまうと、力の差によって逃走される可能性が高いからだ。
すかさず幻影を使ってナバロンを攻撃する体制を整えるトルネリア。
体表のほぼ全てが水分で覆われており、周りの風景を映し出す事によってより自分の存在を判別しにくくしている魔獣だ。
残念ながら、辺り一面平原になっているこの場ではあまり効果はないが……
幻影による自らの分身を多数作製したトルネリア。
ナバロンを囲う様に移動して、全方向からの攻撃を仕掛けるような体制になっている。
幻影がいる方向からも、迂回させた魔法による攻撃を放つ準備をしている。
ナバロンはNo.7の助言に従い、唯一身に着けた魔力の並列起動である、身体強化と探知を発動させる。
そしてもう一つ、肉眼でトルネリアを捕らえても惑わされるだけだと判断し、思い切って目を瞑る。
既に暗闇での戦闘経験を嫌と言う程行っていたナバロンにとっては、目を瞑って戦闘を行う事に大きな抵抗はなかった。
もちろん、ナバロンが戦いやすいような魔獣をアンノウンが選択した結果なのだ。
実はこのトルネリア、身体強化と探知が同時に使えれば魔力レベル23と言う魔獣であっても比較的容易に倒す事ができる。
No.7の予想通り、ナバロンは幻影に一切反応する事なく攻撃魔法のみを上手く避けていた。
身体強化だけでは魔術による攻撃を完全に耐える事はできない。
生身で受けるよりは遥かにダメージは少ないが、命を懸けた闘いで放たれる魔術であると、大ダメージとなる可能性が高くなる。
魔術による攻撃に耐えるためには魔力強化と言う別の術を行う必要があるのだが、魔力強化と探知の並列起動までは習得していないので、攻撃魔術はひたすら避けているのだ。
現在のナバロンは、身体強化に魔力レベル10の魔力五割を、残りの五割を探知に振り分けていた。
だが、ある程度余裕をもって攻撃を把握する事ができている事から、魔力レベルの分配を変更し、身体強化に七割、探知に三割とした。
こうする事により動きは数段早くなるので、若干探知が遅れても、余裕をもって躱せるようになっている。
並列起動ができない場合は、身体強化に物を言わせて、魔術による攻撃が着弾する寸前に視認している魔術を避けるか、探知能力によって攻撃の起動まで予測して、事前に動くかしかなくなる。
しかし、並列起動をしつつ適切な魔力レベル10の魔力を分配する事により、余裕をもって攻撃を躱して反撃する余裕がうまれるのだ。
「オラァ~!」
掛け声と共に、トルネリアを一閃するナバロン。
かなりの手ごたえを感じたが、安全の為に一旦距離を取り、閉じていた目を開ける。
ナバロンの目には、魔力レベル23の魔獣が倒れる瞬間が映った。
油断なく、しかし素早く近接して止めを刺すと、ナバロンの魔力レベルは上昇する。
「おめでとうございます。楽勝でしたね、ナバロン騎士隊長」
「自分でも信じられない。だが、これがNo.7殿が言っていた並列起動の強みなのだな。身をもって理解した」
明らかに格段に強くなっている自分。再び枯れていた心に新たな芽吹きがあった。
だが、ナバロンが感動する程の余裕を持てたのはここまでで、この後は、No.7による厳しい修業が続いた。
暫くはトルネリアだけが対戦相手になったのだが、召喚される数が複数体になり、連携を取ってくるような魔獣も召喚される。
自らの魔力レベルも上昇しているナバロンは、命がけでその力の使い方を覚える事になったのだ。
残念ながら致命傷を負う事もしばしばあったが、その都度No.7により即座に回復され、休む間もなく、ただひたすらに魔獣との戦闘をさせられた。
既に時間や日数の感覚がなくなったころ……
「ナバロン騎士隊長。これで魔力レベル40になりました。その力で、是非ともバイチ帝国の安全に貢献してください」
このセリフと共に、ボロボロの姿のまま騎士隊長の部屋に転移させられた。
その数分後にようやく我に返った騎士隊長は、その姿のまま無事の帰還を報告したのだが、かなり事務方に驚かれていた。




