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騎士隊長ナバロン(2)

 見渡す限りの平原に、バイチ帝国騎士隊長のナバロンとアンノウンのNo.7(ジーベン)がいる。


 ナバロンは魔力並列起動の修行を開始しているのだが、その手法が強制的に身体強化と探知を使わないと身の危険がある状況に置かれるものだったのだ。


 身体強化を全魔力の半分以上である5以上、そして残りを探知に使用して地中を移動している魔獣に攻撃する。


 もし身体強化を5以上にできない場合魔獣に攻撃してもダメージは与えられないし、魔獣側からの攻撃によるダメージも大きい物になる。


 そして探知ができない場合、無条件で地下に潜んでいる魔獣のサンドバックになる事が確定するのだ。


 ズルをするならば、身体強化全振りで相手の攻撃を受けた瞬間に反撃する手法もある。


 しかし、これは修行の場でそのような事をしては意味がないし、なにより自分の為にここまで準備してくれたアンノウンに申し開きができないと考えるナバロン。


 気合の炎の力を借りて、剣を構え、全振りしていた魔力を身体強化から移行し、必死で探知に振り分けようとしていた。


 当然簡単に成功するわけもなく、魔力移動に意識を向けすぎているので魔獣の攻撃をかわす事すらできずに吹き飛ばされる。


「ナバロン騎士隊長、もう少し意識を広く持ってください」


 時折No.7(ジーベン)から的確な指示は飛ぶのだが、どうすれば良いかわからないナバロン。


 十分もしないうちに、魔獣の攻撃によって立ち上がれなくなってしまった。


「初めてですので、これは仕方がないですね」


 No.7(ジーベン)の優しい言葉に、今日の修行が終わりかと勝手に思ったナバロン。


 実際体はボロボロで、本当に立ち上がる事も出来ないのだ。


 たった十分でこれほどのダメージを受け、魔力の並列起動に意識が向いているので精神もゴリゴリ削られていた。


 ここまで心身ともに大ダメージを受けていると回復には相当な時間が必要になるのが一般的なので、ナバロンが今日の修行は終わりだと思ってしまうのも仕方がない。


 だが、アンノウンは甘くはなかった。


「では、回復しますので修行を続けましょう」


 その言葉が聞こえた瞬間、体の痛みが消えて体力が戻った。


 残念ながら気力は戻らなかったが……


 実はナバロンがここまで無様に攻撃を受けるのは、魔力レベルが2程度の駆け出しの時以来だったのだ。


No.7(ジーベン)殿!何かこう、コツの様な物はないだろうか?」


 何とか打開策を打ち出そうと必死の形相で問いかけるナバロン。


 だが、相手はアンノウンのナンバーズ。


 当人も並列起動の修行を行いはしたが、こちらは溢れる魔力が体に馴染んだ頃、その力を使って強制的に技術を得てしまったので一切ナバロンの参考にはならない。


「えっと、コツですか?気合ですかね!」


 と、こんな感じだ。


 この回答を聞いて、ナバロンは気がついてしまった。


 このアンノウンの一員であるNo.7(ジーベン)は、なぜナバロンがこれほど苦労しているかが理解できていない。


 きっとNo.7(ジーベン)自身は、何の苦労もせずに並列起動を習得している。


 つまり、ナバロンとアンノウンの間にはかなりの才能の差があり、No.7(ジーベン)はナバロンが、何が分からないかが分からない状態に陥っているのだ……と。


 こうなってしまっては、何とかこの修行を自分自身の力で終えるしか方法はないので、必死で魔力の移行と制御を繰り返すナバロン。


 しかし結果は無残な物で、日中に移動してきて日が落ちるまでひたすら攻撃を受けて動けなくなり、回復されて再び攻撃を受ける、を繰り返していた。


 いくら体は回復できても、身に着けている服などはダメージを受けた状態のままであるので、見てくれは正に“ボロ雑巾”と言う言葉がしっくり来る状態になっていた。


「ナバロン騎士隊長、日が落ちましたので、夕食にしましょう」


 決して終わりにしましょうとは言わないNo.7(ジーベン)だが、あまり物事を考える力が無くなっているナバロンは、何となくNo.7(ジーベン)が出してくれた食事を口にする。


 これはもちろんアンノウンゼロの当番が作成している物で、出来立ての状態で出されているために、疲れた心に染み渡る味だった。


「これは、素晴らしい味だ!これ程上等な物を食べてしまっては、この後に寝てしまうのが惜しいな。暫く余韻に浸っていたい」


 普通に食べてもかなりの味を出しているこの食事、疲れ切っているナバロンにとっては極上の一品となっているので、思わず褒めちぎった言葉が出てしまう。


 しかし、そのナバロンの呟きに対するNo.7(ジーベン)の回答は無慈悲な物だった。


「ありがとうございます。今日の調理担当の者に伝えておきますね。でもナバロン騎士隊長、安心してください。余韻に浸る事は出来ますよ。まだまだ修行は続きますから!」

「えっ、えっと、No.7(ジーベン)殿。もう暗くなってきていると思うが?」


 夕食の後は睡眠と思っていたナバロン。まさかの修行継続宣言に、目を見開く。


「ええ、そうですね。ですが、視界に頼らなければ、より探知に頼るために必死になると思うのです。絶好の修行環境だと思いませんか?」


 覆面で表情はわからない。しかし、明らかに笑顔で伝えてきているNo.7(ジーベン)


 No.7(ジーベン)としては、本心からそう思っているのが良く伝わってくる。


 自ら志願して修行をしているナバロンとしては正直心は既に折れ、燃え尽きている状態なのだが、自分を奮い立たせて何とか堪える。


 少し涙目になってしまったのは、日が落ちているのでバレていないだろうと思っている。


 少しでも長く休憩して心を回復させようと、ナバロンはなるべくゆっくりと食事を楽しむ。実際は、既に味などわからなくなってしまっていたが……


「ナバロン騎士隊長。あと十分程で魔獣からの攻撃が自動的に再開されます。食事を続けても構いませんが、魔獣の攻撃をよけつつ食べてくださいね」


 一切の容赦がないNo.7(ジーベン)


 慌てて食事を口に放り込むナバロン。


 無駄に知恵を回して食事の時間を延ばしてしまったので、本当に休憩する時間が無くなった状態で修行が再開される。


 ここまでくるとナバロンは“やけくそ”になっており、魔力の移行に意識が向いていない、所謂自然体になる事ができていた。


 だが、何となく魔獣の位置が分かり始めた瞬間には、既に攻撃を食らって吹き飛ばされる、を繰り返している。


 一日目はNo.7(ジーベン)が回復魔法を行使しても、既に立ち上がれなくなるほど疲弊した時に修行が終了した。


 この行為を数日繰り返していたのだが、本当にボロボロになり果て完全に心も燃え尽きて強制的に無心になった時に突然魔獣の動きが手に取るようにわかったナバロンは、身体強化で移動速度を上げている状態で、地中に潜む魔獣を狩る事ができた。


 一度掴んでしまえば、何故出来なかったのかが不思議なくらい、スムーズに魔獣を討伐する事ができたのだ。


 その手ごたえを感じたナバロンの心に、再び闘志の炎が燃え盛る。

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