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バリッジへの報告と……

 とある国家によって危険地域と指定されている広大な森のほぼ中央部分の地下にある施設。


 森の外周には、魔力レベル8以上の高ランクの魔獣が多数おり、更には新種の魔獣が森の中央部に近づくにつれて多数存在している場所。


 そう、組織バリッジの拠点だ。


 そこに、最大の権力者である頭領が帰還して、不在時の報告を順番に受けている所だ。


 ここ最近のバリッジは、独善的な崇高なる目的を達成するべく行動をしているのだが、全てが上手くいっていない為、報告を行う構成員の誰しもがやや怯えつつ報告をしている。


 その中には、聖剣取得に失敗した上級構成員も含まれる。


 上級構成員と言えども、バリッジの幹部とは言えないからだ。


 この組織の構成と権力は、


末端構成員 < 下級構成員 < 中級構成員 < 上級構成員 < 幹部 < 首領


 になっているのだが、ピンファイの様な特殊構成員はこの序列には入ってこない。


 組織全体の数は、既に末端構成員を含めると数えきれない人数になっており、各国に散らばっている。


 国によっては、ラグロ王国の宰相カードナーやハンネル王国冒険者ギルドマスターであったドストラ・アーデのように、ある意味国家の中枢に潜り込んでいる事も少なからずある。


 そこまで組織は巨大化し、必要に応じては国と国とを互いに争わせて、国力を削ぐ事すらできる力を得ていたのだ。


 それほどの力を持つ組織バリッジ故、ここ最近の失態については幹部連が怒りを隠さずにいた。


「恐れながら申し上げます。ラグロ王国の工房ナップルの件ですが、バイチ帝国で冒険者同士の戦闘大会時にその魔道具の性能の不備を指摘するはずでしたが、ピンファイが出動したため、先ずはバイチ帝国の重鎮達を亡き者にする事になりました。その為に追加でキメラ、魔力レベル40を派遣しました」

「それで、誰にも傷すら与える事ができずに、挙句の果てには組織の事をペラペラ公開し、捕縛された……と」


 今報告しているのはピンファイの派遣を決定した上級構成員で、不機嫌な感情を一切隠さずに指摘しているのは、さらに上の地位にいる幹部の内の一人だ。


 通常幹部は組織の行動について事後報告を受けるのみで、作戦の内容や使える人材、魔獣については何ら干渉する事はない。


 これは、今までその手順で全てが上手く言っていたからだ。


 もちろん今回の作戦についても事後報告を受けているわけだが、事が事だけに、改めて首領を含む幹部達で情報を共有している。


「それで、聖剣についてはどうしたのだ?」


 不機嫌なまま、次の報告を促す幹部。


「はっ。プラロールを始めとした組織の冒険者、商人達を動員しましたが、既に抜剣された後でした。一旦プラロールが単独で抜剣を試みるもビクともしなかった為、対処人員を増員して対応しようとした短い期間に抜剣されてしまいました。今はハンネル王国の手に渡り、宝物庫に保管されているようです」


 機嫌が悪くなっている幹部に報告する上級構成員は、冷や汗をかきながら発言する。


「こっちも中級構成員を動員して駄目だったのか」


 呆れるような幹部達の言葉に、流れる汗が多くなる上級構成員。


「それで、最近の成果は何がある?」


 突然、シルエットのみが見える位置に座っている首領が、その口を開く。


 その瞬間に、今まで報告をしていた上級構成員だけではなく、幹部達にも激しい緊張が走る。


 既に全ての報告を受けている幹部達は、ここ最近の作戦は全て失敗している事を知っているからだ。


 聖剣は取得できない、工房ナップルは潰せない、バイチ帝国も潰せない、キメラを殺害される、特殊構成員ピンファイは喪失し、ピンファイに同行していたラグロ王国の重鎮、宰相にまで成り上がったカードナーと下っ端構成員多数の喪失、止めは、作戦時にブチ切れたピンファイが組織の事を公にしてしまったのだ。


「何もないようだな。私が知る限りでは全ての作戦は失敗し、損失もかなりあると聞いている。だが、聖剣についてはやむを得ない部分もあるだろう。あれは所有者を選ぶ。無駄にプラロール達を責めるわけにはいかん。だが、バイチ帝国、工房ナップルの罪は重いぞ」


 この作戦の報告を聞いていた上級幹部は青ざめる。


 カードナーの作戦を小耳にはさんだ時点で、ピンファイの動向を進めたのが彼だからだ。


 今まで、同様に首領から直接処罰された者の中には、たとえ上級構成員であろうとも実験台、つまり、キメラの素材や魔力レベルを急激に上昇させるための人体実験に使われた事もあり、誰一人として無事だった者はいない。


「お前の行動で中級構成員、そしてテスト中のキメラすら喪失した。その責を取り、お前は中級構成員からやり直せ」

「ははっ、寛大な処置、感謝いたします」


 中級構成員と上級構成員ではバリッジでの待遇、権力、全てが雲泥の差ではあるが、あれほどの損害を組織に与えたにしては軽い処遇の為、この上級構成員は安堵して罰を受け入れる。


 自らの今後の行いにより再び上級構成員になれる可能性も多分にある上、命が助かった事が大きいのだろう。


「私が知り得ている情報を考慮すると、ラグロ王国はもう駄目だろう。交易の主製品である魔道具は工房ナップルの魔道具と比べるとかなり見劣りしている。そして、工房ナップルはラグロ王国を通さずに、直接バイチ帝国に魔道具を販売しているのだ」


 首領の言葉は続く。


 既に上級構成員や幹部にまで成り上がったバリッジのメンバーは、この後の話の展開は予測できていた。


 国力を失った国家に対するバリッジの作戦、既に何度か実行され、成功していたからだ。


「既にお前達も理解しているようだな。ラグロ王国を完全に我がバリッジの手中に収めろ。あの国は良いぞ。薄汚い血が流れている者の立場をきっちりと理解した上で飼っているからな。無駄な教育を行う手間が省ける」


 いつもの手法としては、王族をバリッジの力で傀儡にするのだ。


 少々魔力レベルの高い魔獣を引き連れて、王族の目の前で親族の内一人でも魔獣の餌にすれば全てがうまく行っていた。


 こうすれば国家を統治する表向きの顔触れは変わらないが、完全に裏から支配する事ができるのだ。


「それで、ピンファイや魔力レベル40のキメラすら退けたと言うアンノウンについて、何か知っている者はいるか?」


 最大の懸案が、首領の口から発せられる。


「恐れながら申し上げます。あ奴らは覆面を装備し、真の姿はわかりません。偽装を施している可能性も捨てきれませんが体つきは女性、そして、首領の仰る通りかなりの力を持っていると推測されます」

「実際にピンファイとの戦闘を見ましたが、キメラすらピンファイの制御を外れ、ピンファイ自身に襲い掛かっていた状態です。我らが知り得ない魔道具を使用しているのかもしれません」


 色々な報告は上がるが正体は不明、力は有りそう以上の事は出てこずに、バリッジで行われていた報告は終了した。


「アンノウンか。我がバリッジ最大の敵になりそうだな……」


 首領の呟きと共に。

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