表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/172

フェルモンドとラグロ王国の冒険者(1)

 俺はラグロ王国の冒険者ギルドマスターのフェルモンド、35歳。魔力レベルは9の恋人募集中だ。


 いや、恋人募集中は冗談で、既にこの年齢になっているので、そういった事への興味が一気に薄れている。枯れていると言えなくもない。


 一応貴族の出ではあるが、お互いを牽制しあうような醜い争いをし続ける世界に嫌気がさして冒険者として生活していた。


 だが、両親が亡くなると、俺以外に子供がいなかった事もあり、形だけでも貴族の地位を継ぐ事になってしまった。


 俺は、断固として貴族のいざこざに巻き込まれたくなかったので、冒険者ギルドのギルドマスターの職に就く事にした。


 ギルドは、一応国家に依存していないが、その国に所属している国家の貴族が就任するのが習わしだ。


 その為、貴族としての地位も引継ぎ、くだらない闘争に巻き込まれず、冒険者関連の仕事に就けると言う訳だ。


 こうして実際の現場にあまり出る事が無くなると、今まで見えていなかったものが良く見えてくる。決して良い事ではなく、悪い事の方が目に入ってくるのだ。


 例えばラグロ王国のみならず他国にも有名になっている工房通りなのだが、ここの連中も貴族と同様に醜い争いを繰り広げているようで、鍛冶士としての実力を上げるような修行をしているようには見えない。


 俺の知る限りでは端の方にある店、頑固オヤジのバルジーニの店だけは別だな。


 だが、この程度はまだ許せる。

 俺が許せないのは、不当な奴隷の扱いだ。


 ある冒険者パーティーが依頼を受けた際に受付に登録していたメンバーは五人だった。


 依頼達成時の報告は四人で来ており、たまたまその場にいた俺が、残りの一人について問いただした。


 その時の回答はこれだ。


「あ~、あいつは今頃魔獣共の餌になっていますよ」

「そうそう、せっかく薬草採れたのに、動きが遅いのが悪いのよ」

「でも依頼は達成したので問題ありませんから、ギルドマスター」

「それに、あいつは奴隷ですから。囮になって当然です」


 怒りでどうにかなりそうだったが一先ず自分を落ち着けて部屋に戻り、その後に、そのパーティーが連れていたと言う奴隷の調査を行わせた。


 だが、その報告をしてきたギルド職員も、このパーティーが行った行為の何が悪いのか心底分からなそうにしていた。


 他のギルド職員も目クソ鼻クソだ。


 すると、どうやらあいつらは裏ルートで奴隷を購入したらしく、奴隷に落ちた人物も何かの罠にかけられて、知らず知らずのうちに奴隷になっていたようなのだ。


 あまり詳しい状況は判明しなかったが、仮に正式な奴隷としても囮に使うなど言語道断だ。


 この辺りから、俺はこの国に対して不信感を抱くようになっていた。


 俺の目の届く範囲で同じような事が起きないように気を配っていたのだが、まさか工房通りでも似たような状況に陥っていた人物がいたとは思いもしなかった。


 冒険者ばかりに目が向き、国民に目が向いてないのは貴族として失格だ。


 後から工房ナップルの武具を購入した冒険者に事情を教えて貰うまで気が付く事ができなかった。


 深く反省するばかりだ。


 しかし当人のナップルは、俺の知る唯一まともな鍛冶士のバルジーニと共に鍛冶をしているらしく、素晴らしい魔道具を販売して楽しく生活しているようなので一安心だ。


 だが、その魔道具の性能が良すぎるあまり、他人を蹴落とし妬む事の能力に優れているこの国の連中、特に工房通りの代表のような工房ワポロに目を付けられてしまったらしい。


 工房ワポロが実力行使に出るようであれば、俺も工房ナップルに助力しようと考えていたが、いつの間にか工房ワポロの工房長はいなくなっていた。


 あんなクズはいなくなった方が国の為、工房通りの為と思い静観していた所、今度はこの国の宰相であるカードナーが、工房ナップルの魔道具を使用しているバイチ帝国の冒険者について文句を言い始めた。


 はっきり言って言いがかりだが、バイチ帝国にも文句を言っているのだ。


 そもそも冒険者の行動は、国に制限されない。


 特殊な討伐依頼等の強制受注等一部制約はあるが、基本的には何をしようが自己責任だ。


 その為、他国の魔道具を購入しようがどうでも良いのだ。


 しかし工房通りの連中は、自らの腕を上げるような事をしてこなかったためにナップルの作った魔道具以上の物を作る事ができない。


 過去の栄光にしがみついたまま、古臭い技術の魔道具を売り続けていたのだ。


 それでも他国が作る魔道具よりも優れていたのが、工房通りの連中が傲慢になる一因でもあった。


 当然交易品として販売していた工房通りの売り上げが激減しているので、国家の財政も急激に悪化している。


 そんな中、トチ狂った宰相カードナーが普段から素行の悪い冒険者達を引き連れて、文句を言う為にバイチ帝国に向かった。


 もちろん俺は止めたのだが、末端貴族の俺の言う事など聞く訳もない。


 かなり不安になっていたのだが、あいつらはあっという間にラグロ王国に帰還してきた。


 あまりに理不尽な物言いの為に門前払いでも食らったかと思い安心したのだが、何やら冒険者同士の戦闘大会を開催する事になったと言い出した。


 全く経緯が分からずに事実かも判別できなかったので、至急バイチ帝国のギルドマスターであるグラムロイス殿に確認を取った。


 その結果は、なんとあの宰相が言っている事は事実であり、その大会も一カ月後に開催される手はずになっていると言うのだ。


 向こうまでの移動距離を考えると、往復でその程度は必要になる。


 なぜそれほど急いで大会を開催するのか?


 何がどうなってこのような状態になっているかはさっぱりわからないが、普通の交流であれば俺が文句を言うべきものではない。


 と、当時は思っていた。


 しかし、あのクズ宰相がそんな事で収まるはずがなかったのだ。


 冒険者達の交流と言う名の大会が開催されている日、突然俺のもとにグラムロイス殿から連絡が来た。


 彼は、状況をかいつまんで説明してくれた。

 要約すると、


 馬鹿宰相のカードナーは、ハンネル王国での大事件を起こしたドストラ・アーデが所属する組織、バリッジの構成員であった事。


 大会のどさくさに紛れて、バイチ帝国の重鎮を殺害しようとした事。


 バリッジの力を使って魔力レベル42の冒険者、そしてキメラの魔獣まで準備していた事。


 の三つだ。


 冒険者レベル42と聞いて驚愕したが、グラムロイス殿が嘘を伝えてくる訳はないので事実なのだろう。俺でも、必死で修行して魔力レベル9だ。


 今の今まで、そう、グラムロイス殿の話を聞く直前までは、かなり強者の部類に入ると自惚れていたのは否定できない。


 だがこの話を聞いた俺は、既にこの国、ラグロ王国にいる事が心底嫌になり、その場でグラムロイス殿に移民の申請をしてしまった。


 彼は一瞬驚くも快く迎えてくれて、バイチ帝国の帝都ではないギルドマスターとして受け入れてくれるらしい。


 ここまで腐った国、いや、バリッジと言う組織のせいかもしれないが、今までのこの国家の国民の行動を見ていると、既に国家自体が腐っていると判断した俺は、俺の意識の中で唯一まともな人である工房ナップルのバルジーニさんに挨拶をして、即この国を出る事に決めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] この人、まともな人だけに苦労人だよね。 で、あの工房に挨拶か。 その工房が.アンノウンなんですがね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ