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ギルドマスター(1)

 俺は、相変わらずギルドで副ギルドマスター補佐心得として勤務している。

 時々父さんと母さんがギルドに来てくれるが、とても忙しくてほんの少ししか話をする事ができない。


 わかっていた事だが、ギルドマスターが無能すぎて全て俺が処理しなくてはならないからだ。

 無能だとは思っていたが、ここまで突き抜けた無能だと思えなかったのは、レベル上限がない俺でも仕方がないと思いたい。


「おい、ジトロ。昨日発注を任せた炎竜の鱗はまだ手に入らないのか?魔力レベル9以上のパーティーに依頼を出したんだろうな?」


 くっそ、この野郎。炎竜なんて、魔力レベル9が何人いても瞬殺されるレベルだぞ。

 だがこいつには、いくら説明しても人族最強が魔力レベル10と疑っていないので、レベル9のパーティーであれば問題なく倒せると信じ込んでいる。


 当然魔力レベル9のパーティーは常に現場で活動している熟練の冒険者なので、炎竜などに太刀打ちできない事を理解しており、どれ程報酬を弾もうとも受注してくれないのだ。


 いや、こいつの出す報酬は雀の涙だから、余計に受注してくれるパーティーなど存在しない。


「いえ、まだ受注してくれるパーティーが存在しないのです」

「はっ、これだから無能は困る。これ程の報酬を準備しているのだぞ。とすれば、募集をかけているお前の力不足に他ならないだろう。全くこれだから平民は使えない」


 本当にこいつは、ブッ飛ばすぞ。その何も詰まっていない脳みそに、そこにあるオレンジジュースを流し込んでやろうか!!と、心の中で叫ぶ副ギルドマスター補佐心得の俺。

 普段ならこれで終わるのだが、こいつは余程俺が気に入らないのか、とても許容できない一言を伝えてきた。


「こんなにレベルの低い仕事もこなせないようであれば、お前は降格だな。良いか、一週間以内にこの依頼が達成できなければ、お前は平の職員に降格だ」


 これは許容できない。無駄に長い役職には納得いっていないが、平職員時代にしてきた努力が、こんな無能の一言で無駄になる。

 そんな事は許されない。

 前世の父さんと母さんも、こんな気持ちになっていたのだろうか。


 その翌日、無能が俺に突きつけた言葉をどこかで伝え聞いたのか、この世界の父さんと母さんがやってきた。


「ジトロ、大丈夫?お父さんとお母さん、できる事は何でもするわよ」

「そうだぞ。お前は俺達の為に毎月仕送りまでしてくれて、感謝してもしきれない。その恩を返す時が来たと思っている。俺達は、最も大切な宝であるお前を何としても守りたい!」


 大した金額を送っている訳でもないし受けた恩を細々と返しているだけなのに、俺の為に命の危険、いや、命を落とす可能性が極めて高い依頼を受けてくれると言うのだ。

 そんな事をさせる訳には行かない。


 その話を聞いていたクソギルドマスターは、


「ほう、あなた方がコレの両親ですか。せいぜい依頼を確実に果たしてくださいよ。期限はあと6日。頼みましたよ、平民の御両親。ハハハ」


 周りの冒険者は基本平民しかいないので、全員がクソギルドマスターを睨みつけているが、当人は一切気にする様子はなかった。


 重ねてになるが俺は両親にそんな危険な事をさせるつもりはない。

 炎竜と言えば、個体によって少々ばらつきはあるが魔力レベルは50前後。


 とすると、俺の為に動いてくれる面々、いや、誰か一人でも良いので頼み込めば、チョチョイと狩ってきてくれる。


 そう、この町のギルドに偽名で登録している最強の仲間達。


 ガタ……「痛っ!」


 この場を離れて行くクソギルドマスターが、何かに躓いたようだ。

 だが、俺の目はごまかせない。


 俺達の様子を遠目で伺っていたNo.5(フュンフ)が、見えない魔力の塊をクソギルドマスターの足元に飛ばしたのだ。


 俺がNo.5(フュンフ)を見ると、ペロッと舌を出しておどけて見せた。

 まあいいか。俺の為にやってくれた事だしな。

 先ずは父さん母さんの対応が先決だ。


「大丈夫だよ、父さん、母さん。俺にはこの依頼を受けてくれる人に心当たりがあるからさ。本当に心配しないで」


 幼い頃から俺を見続けてくれている両親は、俺の態度から決して強がりで言っている訳ではないと分かったようで、安心した顔でギルドを出て行った。


 入れ替わるように、受付に座っている俺の前に争うようにやってきたNo.5(フュンフ)No.8(アハト)

 この二人は、ここ暫くパーティーとして活動をしている。


「あの、先ほど聞こえてきた依頼ですが、ぜひ私達に受注させてください」

「私達であれば、今日にでも依頼の品を納品できますよ。お任せください、ジトロ副ギルドマスター補佐心得!」


 多少勢いがありすぎだが、ありがたい申し出だ。


 そうそう、因みに俺はあの家でのみNo.0(ヌル)と呼ばれているのだけど、それ以外の場所、もちろんこのギルドでも本名で呼ばれる。

 彼女達に名前の由来を聞かれて数字を元にしていると教えたら、俺にも同じような名前を付けてその名前で呼ばせてくれと言われたからだ。


 なにやら、これで一緒……みたいな声が聞こえてきたが、その辺りはとりあえず無視している。


 そして、このありがたい申し出を素直に受ける事にした俺。

 すると、背後にクソの気配がした。


「ほほう、最近メキメキと頭角を現している有能な方々ではありませんか。しかし、あなた方のような有望な人材にもしもの事があっては、このギルドを掌握している私の責任問題になりかねませんな」


 こいつは何を言っていやがるんだ。まったく理解できない。

 この二人の見た目が良い……いや、良すぎるので、鼻の下を伸ばしているだけだ。


「いいえ、冒険者は依頼を受けてこそ冒険者です」

「そうですね。それに、今のありがたいセリフ、他の冒険者の方々に言われた所を聞いた事がありませんが?」


No.5(フュンフ)No.8(アハト)の二人は、俺に厳しく当たるクソギルドマスターが気に入らないようで、当たりがきつい。


 普段はもっとおっとりしているのだけどね。


 まさか反撃されると思っていなかったギルドマスターは、面白くない顔をして踵を返す。


「これだから平民は。この私が親切に手を差し伸べてやったのに、理解する事ができない」


 捨て台詞の呟きも、能力の高い俺達にはしっかり聞こえている。

 さり気なく、またNo.5(フュンフ)が魔力の塊をクソに向かって放っていた。

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