大会開催
大会自体はアゾナの不安とは裏腹に、順調に進んだ。
登録している冒険者の内、三人以外は全員工房ナップルの魔道具を所持していた。
ラグロ王国の宰相カードナーの思惑では、バイチ帝国側の冒険者が所持している工房ナップルの魔道具の性能について、不備を指摘するつもりでいた。
しかし、この大会に参加させるバリッジの構成員である冒険者が選定された瞬間に、この大会開催中にバイチ帝国重鎮を殲滅する作戦が確定したのだ。
その理由は、やはり選定された冒険者にある。
バリッジ上層部としても、余程バイチ帝国が邪魔のだろう。かなりの力の入れようだったのだ。
選定された冒険者は、魔力レベル42を持つ中級構成員。そして最も得意とする能力はテイム。
大会出場前に彼がテイムしている魔獣は、軒並み魔力レベル30前後の強者。
そこに、組織から新種の魔獣、合成魔獣の為に明確な名はないが、レベル40の強力な魔獣まで与えられていたのだ。
自分よりも上位の存在まで駆り出すほどにバリッジはこの大会に力を入れている事を理解したカードナーは、即座にバイチ帝国の殲滅に作戦を変更した経緯がある。
工房ナップルなどは、得意先の国家が潰れてしまえば後でどうとでもなるのだ。
はっきり言って、この大会に出場している冒険者の最大レベルは10。それでも人族最強と言われている英雄的存在だが、バリッジから派遣されている冒険者は人外の力を持っている。
しかしこのバリッジ所属の冒険者は、大会中は怪しまれないようにするために時折意図的に接戦を演じている。
そうでもしないと無傷で瞬間に勝敗が決してしまうからで、逆に言うと、それほど他の冒険者達との力の差があるという事だ。
その姿を確認しているカードナーは満足そうだが、その大会に魔力レベル42をはるかに凌駕するアンノウンの伏兵が潜んでいるとは夢にも思っていない。
そんな中、順調に大会は進んでいくが、大会に直接参加しているユナ(No.3)からこの場にいるアンノウン全員に念話が飛ぶ。
『ジトロ様、そして全員聞いてくれ。既に気が付いていると思うが、ピンファイと言うあの男、魔力レベルが42だ。今までアンノウン以外で魔力レベル10を超えていたのは、あの元ギルマス、つまりバリッジの連中だけだ。こいつは間違いなくバリッジの差し金だろうと思う』
奇麗な顔をしているが、少々荒い言葉を使うユナ(No.3)。
その言葉からも想像できるが、武術を得意としており、且つ好戦的なナンバーズだ。
『このままだと、私はあいつとは当たらない。一旦離脱して、様子を見る事にする。ジトロ様もそれで良いか?』
ジトロしては前世の記憶から、普通はこう言った時はユナ(No.3)とピンファイが決勝で戦うのが定石だろう!と思っていたのだが、つい先日の聖剣へし折れ事件の前例もあるので、そう言う物だと諦めていた。
『ああ、わかった。それで良い。これでバリッジがこの大会に関与している事は明らかになったと考えている。他のメンバーも十分警戒してくれ』
そもそも登録魔力レベルが6のユナ(No.3)が魔力レベル10の冒険者に勝ってしまう事が有り得ないので、変に疑われる前に敗戦しておく方がメリットがある。
更に大会は進み、最終的に決勝はピンファイと、工房ナップルの魔道具を持っていないもう一人の冒険者が対戦する事になった。
この二人は、この大会参加者の中で工房ナップルの魔道具を使用していない三人の内の二人で、この結果からも工房ナップルの評判を落とすにはちょうど良い結果だとカードナーはほくそ笑んでいた。
当然バリッジ所属の冒険者、偽名で登録しているので下級構成員の身分では本名を知らないが、登録上はピンファイとなっている冒険者が難なく勝利するだろうと思っているカードナー。
大会を勝ち抜いた優勝者には、ラグロ王国とバイチ帝国それぞれから褒賞が出る事になっており、カードナーもいるこの閲覧席にその褒賞を受け取りに来る事になっている。
その時がバリッジにとって勝負の時になるのだ。
やがて戦闘が開始された。
最初に仕掛けたのはピンファイ。
今までテイムした魔獣を一切使わずに、自身の体術だけで勝ち上がってきた強者だ。
ピンファイにしてみれば、相手の冒険者を一撃で粉砕しないように調整しつつの攻撃である為、技に本来の切れはない。
その為、対戦相手の冒険者はギリギリではあるが回避する事に成功し、手に持っていた短剣で切りつける。
だが、この程度の攻撃はピンファイにとって目を瞑っても余裕で避けられるレベルであるので、余裕をもって回避する。
その状態で対戦相手の短剣から暗器が飛び出して追撃を行うも、その攻撃すら余裕をもって躱して見せるピンファイ。
この一回の交戦だけで、会場は一気に湧き上がる。
ピンファイは、この戦いをある程度互角の戦いと見えるように調整しつつ、来賓席の今の情報を横目で確認して仕入れていた。
そして、褒賞を受け取る際に想定される立ち位置、更にはその時点で最適な魔獣の配置を考えているのだ。
戦いながらこれ程の事ができるのは対戦相手との力の差が大きいためでもあるが、普通の人族に魔力レベル42の男と互角に戦えと言う方が無謀だ。
こうして観客を沸かせつつ、徐々にダメージを与えているピンファイ。
やがて対戦相手は力尽きて、その場に倒れてしまった。
手加減をしていたとはいえ、魔力レベル42のピンファイとここまで戦闘出来たこの男も相当の手練れと言える。
「勝者ピンファイ!」
審判の宣言に更に沸き立つ会場と、会場外にある魔道具によって結果を見ていた観客達。
ピンファイと対戦していた冒険者は精魂尽き果てたのか立ち上がる事が出来ずに、係の者達に支えられてこの場を後にした。
バリッジとしては計画通り、順調に事が運んでいる。
この後の行動こそが最も重要で最も失敗してはならない場面である為、カードナーはもちろんの事、魔力レベル42と言う力をもつピンファイですら若干緊張している。
少しの休憩の後、ピンファイが再び闘技場に登場して拍手喝采を受ける。
この時点で、ピンファイはテイムしている魔獣を全て同行させている。
否が応でもバイチ帝国側の緊張も増す。
明らかに魔力レベルが高い魔獣が並んでいるからだ。
「おい、アゾナ。あれはまずいぞ。万が一あばれでもしたら、おそらく俺では止める事はできない」
「確かにその様ですね。これはジトロ副ギルドマスター補佐心得の警備の腕に我らの命も任せるしかないかもしれません」
バイチ帝国のナバロン騎士隊長が、宰相であるアゾナに小声で伝える。
もちろん、同じ来賓席にいるラグロ王国の宰相カードナーに聞かれないようにするためだ。
この二人のジトロに対する信頼は絶大だが、明らかに目の前の魔獣達は異常だ。
ぱっと見で複数の魔獣の融合であるキメラもいる為、いくらジトロが優秀とは言え、有事の際には自分達の命はないかもしれないと腹を括っている。
彼等としては、皇帝であるヨハネスが無事であれば良いのだから……




