ラグロ王国宰相カードナー(2)
ラグロ王国の宰相カードナーは、バイチ帝国の宰相アゾナに話を続ける。
「なに、簡単な事ですよ。我らラグロ王国に所属する冒険者と貴国の冒険者。共にほとんどすべての人が魔道具を持っているでしょう。彼らが戦闘する事により互いの力量を高められる上、我らとしても貴国で魔道具が正しく使用できているかを確認する事ができますからな」
冒険者同士の戦闘という事であれば、実際に国家に所属しているわけではないので、バイチ帝国に対する直接的なダメージはないように見える。
とは言え、仮に冒険者がいなくなると国家として魔獣討伐の手間がかかってしまう上、素材の入手も国家として実施しなくてはならなくなる。
当然、市中の経済も冒険者ギルドが管理する手法から国家管理になってしまうために、上手く回らなくなる可能性が高い。
当然、ラグロ王国にも同じ事が言える。
カードナーの真意が見えずに、即答できないアゾナ。
カードナーの狙いとしては、交流と称して彼にとって下々の物である冒険者を利用した戦闘大会を開催させ、その中にバリッジの息のかかった者を紛れ込ませる。
もちろん魔力レベルは10を超える人材を手配する予定だ。
そして、バイチ帝国の冒険者を全滅させて、魔道具の扱いについてのクレームを入れる。
バイチ帝国としては、戦闘大会の結果は魔道具の扱いによるものではないと主張するはずなので、ナップル側に問題があると断定できるのだ。
他国に販売している魔道具を、意図的に性能を調整したと言える事になる。
証人はその大会を見る全ての人々になるはずなので、工房ナップルは今の勢いをなくして、評判も最低の物になる予定だ。
更にバイチ帝国に対する被害を与える方法は、その戦闘大会のどさくさに紛れて目障りなバイチ帝国の重鎮を始末できればと思っているのだ。
今回の大会に送り込むバリッジの人材はテイマーとし、そこに新種の魔獣も同行させる事を考えているカードナー。
大会の終了近くに、その魔獣達が暴走した体でバイチ帝国に攻撃を仕掛ける予定だ。
そんな思惑までは思いつく事ができないアゾナは、直接の影響があまりない冒険者達の交流の場ができる事はとても良い事であるため、カードナーの提言を受け入れる事にした。
「わかりました。冒険者同士の戦闘大会という事ですね?貴国の提言を受け入れましょう。準備がありますので、一月程度後の開催でよろしいでしょうか?」
「ありがとうございます。我らラグロ王国としても優秀な冒険者を出場させます。楽しみにしていて下さい」
アゾナとしても、大会を実施する事による交流の効果がある事は認めていた。
交流や闘いを通じた戦闘能力の上昇、更にはその大会を見に来る者達による経済効果だ。
こうして大会実施が決定すると、一旦ラグロ王国の一行は帰国していった。
当日来て、当日帰って行ったのだ。ここまでの移動時間からすると、考えられない行動だ。
「あの狸。何を考えているかわかりませんが、色々な事を想定しておく必要がありますね。あなたにも動いてもらいますよ、ナバロン騎士隊長。それと、ギルドマスターのグラムロイスを呼んでください。今回の件を説明します」
バイチ帝国も慌ただしくなってきた。
だが、一旦決行すると宰相同士が決めた大会。何とか安全に終了できるように必死で考えて準備をする。
そこに、宰相であるアゾナに呼ばれたバイチ帝国のギルドマスターであるグラムロイスが吉報を持ってきた。
「アゾナ宰相。ハンネル王国で発見された聖剣、ジトロさんが無事に引き抜いたそうですよ。但し、原因は不明ですがその力の大半を失っているようですが。間もなくすると、彼はこちらのギルドに戻ってきます。警備関連の相談を彼にしてみてはどうでしょうか?」
「おぉ、ジトロ殿が戻るのですか。彼は非常に信頼できるし、知識も深い。ギルドマスターの言う通り、温泉の時のように我らの助けになってくれるでしょう」
こうして、バイチ帝国に戻り次第ギルドの仕事ではなく、再び訳の分からない仕事をさせられる事になったジトロ。
とは言え、バイチ帝国には馬車を利用して帰還する体になっているので、ジトロ到着後に作業ができる時間はほとんどなかった。
バイチ帝国のギルドに出勤したその日、突然ギルドマスターに呼び出されたジトロは、とりあえず競技場の警備に対して、大会に参加しない冒険者を使って適切な配備をするように依頼を受けた。
「なんだか、バイチ帝国のギルドではまともに働いていない気がするが……まっ、良いか」
あまり深い事情を知らないまま、警備について考えるジトロ。
だがこのバイチ帝国は、バリッジに狙われている事はアンノウンの中で周知の事実だ。
それに、バリッジのメンバーは国家中枢に入り込んでいるケースがあったので、バイチ帝国の信頼できる人々に被害が出ないように考える必要があった。
実は、アンノウンは継続してバイチ帝国の重鎮の調査を実施しているのだが、今の所バリッジとの接触を疑われるような行動をとっている者はいない。
しかし油断は禁物であるので、今回の警備に配置する冒険者は、冒険者登録をしているアンノウンであるナンバーズも配備する事にした。
大会に出場している冒険者の対応も同様に、アンノウンのナンバーズのうちの一人、武術を得意とし、ユナと言う偽名で冒険者登録をしているNo.3が大会に出場する事になった。
当日任務についていないアンノウンゼロのメンバーも一般観客として会場の中や周辺に配備し、アンノウンの拠点の防衛にはNo.9と炎龍であるピアロ、コシナ、そしてイズンが残る。
No.3は工房ナップルの魔道具を持っていないが、持っている事が出場条件にはなっていないので問題ない。
逆に彼女が普通の魔道具を持つと、誰かさんが岩から引き抜いた聖剣のようになってしまうからだ。
だが、出場登録をしている冒険者のほぼ全員が、工房ナップルの魔道具を持っていた。
こうなると、魔道具を持っていない冒険者は嫌でも目立つ。
一人目はユナ(No.3)、二人目はテイマーの男、三人目は剣士の男だ。
大会が開催される直前、会場は熱気に包まれて周辺の店にも一般客が溢れている状態だ。
一先ずアゾナの思惑通りに上手く経済が回っている事になる。
会場の来賓席には、来賓であるラグロ王国の宰相カードナー一行と、バイチ帝国の宰相アゾナが座り、その後ろに護衛としてナバロン騎士隊長がいる。
残念ながらヨハネス皇帝をこの場に連れてくるのは危険と判断したアゾナが隔離させた上で、アンノウンへの緊急依頼として護衛させている。
護衛担当は、覆面状態になっているNo.6だ。
No.6は回復魔法を最も得意としているので、万が一にも対処できるだろうと言うジトロの判断だ。
…フン、忌々しい。ここにヨハネスが居ればバイチ帝国の息の根を止める事ができたのだがな。宰相アゾナ。薄汚い血が流れてはいるが、ここに皇帝を晒すほど無能ではなかったという事か…
ラグロ王国の宰相でもあり、バリッジの下級構成員でもあるカードナーが心中面白くなさそうにしている。
一方のアゾナは、警備について信頼できるジトロ副ギルドマスター補佐心得が完璧に配備させたと、ギルドマスターのグラムロイスから報告を受けており、皇帝の護衛もアンノウンが快く受けてくれた事で、少し心に余裕が生まれていた。
だが油断はしない。その眼差しは、ラグロ王国の人々の動きを探るように見続けている。
そんな中、ついに大会が開催された。
会場の盛り上がりは最高潮に達し、会場に入れなかった者が見られる魔道具が会場周辺に設置されているので、会場の外も大盛り上がりだ。
嫌でもアゾナの警戒心は跳ね上がる。
しかし、既に賽は投げられた。




