聖剣の行く末
ワクワクが抑えられないと言った足取りでNo.8は岩の前に移動し、軽く跳躍して柄に手をかける。
「それでは、No.8、行きますねっ!!」
気合を入れて、柄を握っている手に力を入れるNo.8。
その直後、今まで聞いた事の無い音が聞こえてきた。
……ベキベキバリ……
あれ?何この音。岩が割れたのか?
前世の本によれば、こう言った場合では聖剣が抜ける瞬間に大きく光り輝くのが一般的ではないだろうか?
こんな“へんてこりん”な音が聞こえるような事はなかったはずだが、これが現実か?
だが、岩はそのまま。No.8の手には……聖剣の柄が握られている。
そう、柄だけが握られている。
うぉーい!No.8!!お前強引に岩から聖剣を引き抜こうとして、抵抗している聖剣の力を上回ったのか?
なんだか神々しい雰囲気を醸し出していた聖剣から、一切の力を感じなくなっている。
おかしい、おかしいぞ!普通は聖剣を抜けるか抜けないかの二択だけだろ?
まさか破壊などと言う恐ろしい言葉が選択肢の中に入っているとは、誰も思い浮かばないよな?
前世の知識を思い出せ!
……うん、そんな状況になっていた本は一切なかったな。
流石はナンバーズ。やってくれる。
じゃなーい!どうすんだよ、コレ!
トロンプ様になんて言えば良いんだ?
数百年に一度という長いサイクルで見つかるかもしれない絶大な力を与えてくれる聖剣を、抜く際にへし折りました。
なんて言えないだろーが!!
ま、まずいぞ。どうする?考えろ、ジトロ。
「No.8、ちょっと力を入れすぎたのですか?ダメじゃないですか!」
「まったくですね。それじゃあNo.10の行動とあまり変わりありませんよ?」
No.1とNo.5が軽い感じで突っ込みを入れているが、そんな軽く流していい事ではないだろう?
人類の大損失だぞ??多分。
「エヘヘ、少しだけ気合が入ってしまいました。でも、まさかこんなに簡単に壊れてしまうなんて、ジトロ様!これは偽物かもしれませんね!」
そんなわけないだろうが!あのトロンプ様がはっきりと聖剣と明言されたんだ。
それに、君達も見たでしょ?神々しい雰囲気を持っていた聖剣を!
あれは本物!確実に本物なの!!誰がなんと言おうが本物!!!
今は誰かさんのせいで見る影もないけど。
あれ、ひょっとして聖剣の長い歴史がここで終止符を打っちゃった?
クッ、なんだかお腹が痛くなってきた気がするので、あまり深くは考えないようにしよう。
「でも、この刃の部分、まだつかめるのでもう少し抜いてみますか?」
「待て、力を入れ間違えては困る。一応俺が試してみる」
わずかに岩の上に見えている刃。それすら破壊しかねないので、一応俺が抜いてみる事にした。
俺も人の事は言えないが、他の二人もNo.8寄りで、きっとこの刃すら簡単に破壊しかねない。
少しでもまともな形を保持したいので、俺が慎重に作業する事にする。
これでダメなら、刃に損傷があるかもしれないが岩を破壊する事にしよう。
岩の上に移動して、僅かに出ている刃を人差し指と親指で挟み込んで、慎重に引き抜く。
すると、既に力を失ったからかはわからないが、何の抵抗もなく刃は岩から抜く事ができた。
美しいが、神々しさは既にない。
ゴメンな聖剣。痛かったよな?俺の心も痛いから、許してくれ。
「すごいですジトロ様。こんなにあっさりと抜けるなんて!これで聖剣、無事に抜けましたね。任務完了です!」
ひょっとするとこのNo.8は、No.10と同格かそれ以上のド天然なのではないだろうか?
神々しさのかけらもなくなり、無残にも真っ二つになっている聖剣が無事なわけがないでしょうが!
二つに分離してしまった聖剣を見ていると、
「ジトロ様。この二つの部品を持ってNo.10に修復させては如何でしょうか?」
「そうだ、そうだな!流石はNo.1。そうしよう。よし、早速全力で戻るぞ。確かNo.10は今日、工房ナップルには行っていなかったはずだな?」
鍛冶が得意で、ナップルから新たな技術も教わっているNo.10であれば、この聖剣を復活させる事ができるかもしれない。
「はい。今日は休みだ~…と言いながら温泉の方に歩いていましたので」
No.1の情報によりNo.10が拠点にいる事が確認できたので、急ぎダンジョンから脱出して拠点に戻る。
「よし、No.1、直ぐにNo.10を呼んできてくれ」
ダンジョンから出た瞬間に念話で状況を説明済みだが、何とものんびりしているNo.10なので、未だ温泉から出ていないようなのだ。
流石に俺が迎えに行くわけにはいかず、No.1に直接温泉に迎えに行ってもらった。
待つ事少々。
「おかえりなさい~、ジトロ様。今回は大変でしたね?そんなに簡単に壊れるヘッポコ聖剣は捨てても良いのではないですか~?」
だ・か・ら!
俺はこの聖剣をトロンプ様に渡さなくてはいけないの!
「いや、とりあえず聖剣をハンネル王国に提出しなくてはならないから、頼むよ」
「わかりました~」
こんな受け答えで大丈夫かと心配しなくもないが鍛冶に関しては本物なので、とりあえず二つに分かれてしまった聖剣を渡す。
彼女は転移で工房に移動し、早速作業を始めた様だ。
暫くすると、同じく転移で戻ってきた。
その手には、柄と刃がきちんとついている状態の聖剣。
しかし、神々しさは失われたまま。
「ジトロ様~、とりあえず剣として復活はさせました。何か力を付与しますか?」
俺は悩んだ。
無駄に強力な力を付与すると、ハンネル王国でもこの元聖剣が起因となる内乱が起きかねない。
トロンプ様ならそんな事はないとは思うが、不測の事態はどこでも起こり得る。
そもそも、聖剣の元の力がどの程度かわからないうちに破壊してしまったので、どの程度の力を付与するのが妥当かわからないのだ。
「よし、じゃあとりあえず何となく神々しい雰囲気を醸し出すような力だけを付与しておいてくれ」
出来上がった元聖剣をもって、トロンプ様の元に向かう。
「トロンプ様、冒険者達の力を借りて聖剣を得ました。ですが、どのような理由かは分かりませんが、あまり力はないようです。実際に私が抜く事ができたのですが、何の力も感じません」
そう伝えつつ、聖剣をトロンプ様に渡す。
「ですが、この柄の模様は報告のあった聖剣で間違いありませんね。力については調査しますが、長きに渡りその力を使い続けていたので力を失ったか、回復状態にあるのかもしれません。そうは言っても、流石の神々しさ。まさしく聖剣です。しかし、相変わらず仕事が早いですね、ジトロ副ギルドマスター補佐心得。助かりました」
俺なんかに深く頭を下げてくれるトロンプ様。
「いえいえ、お役に立てて何よりです」
「フフフ、ではこの聖剣、我がハンネル王国の宝物庫に保管しておきます」
こうして俺の任務は無事?終了した。




