ハンネル王国へ
俺はジトロだ。
副ギルドマスター補佐心得のジトロだ。
知っての通り今の俺は、バイチ帝国の帝都にあるギルドに勤務している。
そこでギルドマスターのグラムロイスさんに呼び出されているのだ。
「突然お呼びして申し訳ありませんね、ジトロさん。実は、ハンネル王国の二代前のギルドマスター、現宰相のトロンプ殿はご存じですね?その方から、以前共に仕事をしてとても力になって貰ったジトロさんを一時的にハンネル王国での業務に就かせて欲しいと要望がありました」
「えっと、トロンプ様は知っています。大変お世話になった方ですので。それで、今回の件は異動ではなく、手助け的な感じですか?」
「その通りですね。内容は、直接トロンプ殿に聞かれると良いでしょう。なるべく早めに向かってください」
こうして、異動してあまり時間は経っていないのに、再びクソギルドマスターが居た場所に、一時的とは言え戻る事になった。
ま、今はまともな人がギルドマスターをしているので全く問題はないのだが。
だが、良い事もある。
移動は転移があれば一瞬だが、普通の移動だと馬車で10日弱必要になるから、9日間は長期休みにできるのだ!!
こうして、ナップル達がラグロ王国での任務についている時に、俺は拠点から一歩もでない自堕落な生活をさせてもらう事にした。
ナップル達はと言えば、バリッジの末端構成員である工房ワポロから色々な難癖をつけられているようで、苦労しているらしい。
以前西の森にライチートを配備したであろうバリッジだが、俺達が陰ながら力を貸した冒険者がそのライチートを仕留めた。
それが原因かは知らないが、今度は東の森にライチートを配備したようだ。
お忙しいこって。
我らアンノウンの任務は、そのライチートを仕留めて行方不明になっているプラロールと言う冒険者の探索、そしてバリッジの下っ端である工房長を拉致するまでが任務だった。
俺がいよいよ重い腰を上げてハンネル王国に向かおうとした日に、全ての任務を完了して戻ってきたのだ。
まずはナップル。
「ジトロ様、一応全ての任務を終了しました。ですが、プラロールさんの足取りだけは掴む事ができませんでした」
「それは仕方がないよな。だって、人相も良く分からないし、年齢を重ねた男の冒険者としか情報がないんだからね」
そうなのだ。今回の二回目のライチート騒ぎの時にNo.10が先行して犠牲者の調査を行ったのだが、その中に年齢の行った犠牲者がいなかった事から、プラロールさんと言う冒険者は被害にあっておらず、失踪していると判断した。
もちろんその後に、冒険者達の遺品をギルドに持ち込んで身元確認をしてもらった結果、やはりプラロールさんの物は一つもなかった事が確認できている。
次が、工房ワポロとその腰巾着を連れて帰還してきたNo.5とNo.2。
今回No.10は帰還してそのまま今日の食事当番であるアンノウンゼロのアマノンの所に行ってしまったようだ。
「ジトロ様。この連中はナップルさんに非道な行いをして、更には罪もない冒険者達を死亡させました。ナップルさんとNo.10の力の一端も知られていますし、厳罰を希望します」
No.5は、目の前にゴミの様に転がっている冒険者と工房長を見てそう進言してくる。
自分としても、妥当だと思う。
そっとナップルを見るが、どうやら未だ憎しみの心は完全に消えていないようなので、やはりこいつらの刑は一つしかないだろうな。
だが、直接手を下すのは薄汚い血がつきそうで嫌だな。
「わかった。罰については好きにして良い。俺達の秘密も一部知られてしまっているし、今までの行動からやむを得ないだろう。但し、この拠点を汚すような事はしないでくれ。この門の外に放り出しておけば一番良いんじゃないか?」
実際、俺達に一撃で始末されるより過酷な状況になるが、ナップルの事を思えば当然の処置だろうな。
「承知いたしました。念のため、駆除されたかどうかの確認まではしておきます」
No.5とNo.2の二人は一礼すると、ゴミと共に転移していった。
「ナップル、これでラグロ王国の任務は終了だな。既に工房通りにある工房はフェルモンドさんの影響で冒険者達が寄り付かなくなるだろう。これからは、本当に鍛冶が忙しくなるだろうから、頑張れよ!」
「はい、ありがとうございますジトロ様。既にバイチ帝国の冒険者からも注文が来ていますので、そちらで任務をしているアンノウンゼロの方々に身元調査をしてもらっている所です。一部は納品済みなんです!」
もちろん既に俺は知っているが、嬉しそうに話すので聞き役に徹している。
今の所バイチ帝国は信頼できるので、魔道具の販売時、身元調査は今まで通りに行うが、その他の制限をかけるような事はしていない。
目をキラキラさせて鍛冶について話すナップルは、やっぱり輝いて見える。
この輝きを失わないように頑張らないといけないな。
『ジトロ様、既にゴミ殿は全員魔獣の餌になりましたのでご報告いたします』
感慨にふけっていると、一気に現実に引き戻されるような報告を念話でNo.5がしてきた。
『わかった。ありがとうな』
よし、次は俺の任務、いや、本業?なのか?副ギルドマスター補佐心得としての仕事を全うするか。
こうして俺の出立前にラグロ王国の一件は終了した。
一応あの国の工房通りはかなり有名で交易の品にもなっていたのだが、これからまともに魔道具を作れるのは工房ナップルだけになる。
当然奴隷制度を推奨しているラグロ王国の益になるような事はしないので、国家として衰退してくだろう。
ギルド長のフェルモンドさんや、ジュリアを筆頭とした冒険者パーティー、そして気の良い冒険者達には国家衰退の際には何かしら力を貸すつもりでいる。
これは忘れないでおこう。
もう一つ、恐らくバリッジもあの工房通りの魔道具を仕入れていたはずだ。
その経路を潰せたのも大きな成果だと言える。
こうしてひと段落した俺は、いよいよハンネル王国のギルドに向かった。
「お久しぶりです、イルスタギルドマスター、そして、トロンプ様」
何故か、二代前のギルドマスターであるトロンプ様が同席していた。
直接依頼をしたのはトロンプ様と聞いていたが、まさか本人がギルドに来られるとは思っていなかった。
「そんなに硬くならないで下さいよ、ジトロ副ギルドマスター補佐心得。実は急に呼び出したのは、なんとこのハンネル王国の国内のダンジョン下層で聖剣が発見されたのです。しかし、誰もその聖剣を運び出せずに、有能であるあなたを呼ばせて頂いたのです」
確かにこの人の命令には、必死で対応してきた。
結果的に俺を副ギルドマスターに推挙してくださったのもこの方だ。
結果的には、もう少し長い役職になってしまったが、何が言いたいかと言うとこの方には恩があるのだ。
「わかりました。早速対処させて頂きます」
こうして、一先ず現地を確認する事にした。




