プラロール
俺はプラロール。
ラグロ王国で冒険者登録をしている、表向きは人の良いおっさんを演じているプラロールだが、実際は違う。
俺には、組織バリッジの中級構成員と言う肩書がある。
そんな俺に、突然ふざけた命令が飛んできた。
そう、工房ワポロの工房長が考えた、いかにも下級構成員にすらなれない小物の考える作戦だ。
はぁ、バカ共が。何が工房通りの邪魔者を始末する……だ。
その作戦が穴だらけだという事が分からないから、何時まで経っても正式な構成員にすらなれない事に気が付け!
そもそもなんで俺が失踪する役になっているんだ。
今まで築いた俺の地位、ギルトや冒険者達からの信頼をフイにする行為だとなぜわからん。
上層部も上層部だ。こんな作戦に了解を出しやがって。
百歩譲って、あの小物工房長が俺を失踪役にしたのは許そう。
そもそもあいつ如きが、俺が中級構成員だと知り得るわけがないのだからな。
だが、上層部は話が違ってくるだろうが!!!
だが、俺もバリッジの中級構成員として、上の命令には従わなくてはならないのが痛い所だ。
クソッ、ここまでの信頼を勝ち得るのにどれ程の時間と忍耐が必要だったか理解しているのか?
それにな、今回の作戦は冒険者と工房の鍛冶士が合同で行う。つまり、冒険者ギルドのギルドマスターであるフェルモンドがしゃしゃり出てくる可能性が高くなる。
フェルモンドが以前ナップルが借金奴隷としての扱いを受けていたのも、あの女が冒険者ではないから知り得なかっただけで、もし知っていたならば何かしらの手を打っていたに違いない。
貴族のくせにあいつは奴隷反対派だからな。
貴族としての地位があるくせに冒険者として生活していた変わり者だから、我らバリッジの崇高な考えは理解できないのかもしれないな。
だが、今はそこではない。
あいつが出てきたら、まず間違いなく工房ワポロは破滅するだろう。
ナップルが、今までされてきた事をフェルモンドに伝える場面が必ず出て来る。
そうすると、あの男の事だ。徹底的に工房ワポロとその周辺に調査の手を入れる。
最悪はバリッジとの繋がりまで嗅ぎつかれる可能性もあるのだ。
とは言え正式な構成員にすらなれていないのだから、工房長は大した情報も持っていないし、組織本体にたどり着く事もできないだろうがな。
この作戦に今回派遣される魔獣は、前回と同じライチートと聞いている。
前回よりもレベルを上げて、魔力レベル30らしいな。
流石の俺でも、一体であれば何とかなるだろうが、二体を同時に相手にするのは不可能だ。
作戦を変更させるために今更あのバカ、工房ワポロに俺の正体を明かしても信頼されないだろうし、最早上層部も作戦の決行を決めてしまった。
となると、俺は一度組織の本部に身を隠す他ないだろうな。
俺と言う存在が行方不明になれば、一応作戦は問題ないはずだ。
久しぶりに演技をする事をやめて、組織の本部でゆっくりするのも良いだろう。
と思って帰還したのだが、俺より上位の中級構成員から指令が出てしまった。
少しはゆっくり休ませろ!!
「プラロール、長い間ご苦労だったな。次はハンネル王国だ。どうやら王国内であの聖剣が見つかったらしいぞ。なんとしても手中に収めろとの上層部からの命令だ」
なんてこったい。
そもそも聖剣なんぞ、数百年に一度見つかるか見つからないかのはずだ。
どのような目的で存在するのか、なぜ見つかるのか、誰が準備しているかなどは神のみぞ知ると言われている物体。いや、通説では悪魔と対で現れると言う情報もある。
その聖剣を手にした者は絶大な力を手に入れると言うのは、広く知られている事だ。
ある時代に聖剣を手に入れた人物は、その力を使って莫大な富を得たと言う。
そして、いつの間にか聖剣の存在は行方知れずとなっていたが、既に権力と言う力を十分に持っていたその男は生涯優雅な生活を送っていたらしい。
夢があるこの話は、最早、お伽噺にもなっている。
それを俺に手に入れて献上しろと言っているのだな。
人使いの荒い上層部だ。
今回の作戦と言い、少々俺とは考えが違うようだな。
ま、俺程度が聖剣を手に入れて組織にたてついても、瞬殺されるだろうから仕方がない。
ここは、必死で聖剣を手に入れて、上級構成員を目指した方が得策だ。
俺の知る限り、上級構成員は魔力レベル40近い化け物が多数いるらしいが、権力も絶大だ。
その権力を利用して、上級会員になった暁には暫く楽な暮らしをさせてもらおう。
「わかりました。では明日にでもハンネル王国に向かいます。ですが、万が一ハンネル王国でラグロ王国の誰かに遭遇したらどうしますか?」
「そうだな、身内の不幸があったため急遽ハンネル王国に来たとでも言っておけ」
本当に安直な意見ではあったが、逆らえずに了解の意を示して出立の準備を整える。
まっ、俺がこの任務を行っている間、俺の事を知っている冒険者どもはライチートの餌になっているから身バレする事はないだろう。
かなり前にハンネル王国に移動した冒険者達には、どう言い訳しても問題ない。
気楽にいくか。
こうしてその日の夜は組織の本部で寛ぎ、久しぶりに豪華な飯を食ってリフレッシュして、翌朝早朝にハンネル王国に向かい出立した。
当然歩きや馬車ではない。
この本部、深い森に囲われているが、いくら俺でもそのままこの森を出ると、街道にたどり着く前に確実に死亡する。
それほどのレベルの魔獣が、かなりの数この森で活動しているのだ。
ではどうするかと言うと、前回のライチートのように特別に作成した新種の魔獣に護衛をさせて、出入りをしている。
今回の護衛魔獣も、何の因果かライチート。魔力レベル40の化け物だ。
それが五体程いる。
単体の場合、この森に生息している魔獣に遅れをとる可能性があるからだ。
さっさと任務を終わらせて上級構成員になれば、本部から移動する事なく楽な生活ができるはずだ。
待っていろよ、聖剣!




