工房通り
誤字報告ありがとうございました
ラグロ王国のギルドマスターの部屋の前に転移したNo.5とNo.2。
この場にナップルやNo.10が来ていないのは、このラグロ王国が彼女達の拠点の町故に、いくら偽装を使うとしても万が一何かあると情報漏洩の危険がある為、他のアンノウンが対応する事にしていた。
特にNo.10に関しては、まじめな報告の際には彼女には口を開かせない事がアンノウンの間で定着してきてしまったためでもある。
筋書きとしては、ナップルとナナ(No.10)が工房長達と同行している時にライチートに襲われ、アンノウンに救われた事にしている。
コンコン
No.2が丁寧にギルトマスターの部屋のドアをノックする。
既にギルド間の魔道具によってグラムロイスから連絡が行っている事を把握している二人。
ギルドマスターのフェルモンドについては、短い時間ではあるが入念な身辺調査を実施し、更にグラムロイスからも信頼のおける人物であると太鼓判を押されているので、少々であれば能力を見せても良いと許可を得ている。
もちろん、アンノウンの力を少々知ってもらう事により、こちらの話の信憑性を高めるための演出でもある。
「入ってくれ」
「「失礼します」」
美しい所作で一例して入室するNo.5とNo.2。
しかしその表情は覆面で覆われているように見え、声も変声されている。
「グラムロイス殿から話は聞いている。今回の工房通りの騒動、バリッジとか言う組織、以前ハンネル王国でバカをやらかしていたギルドマスターのドストラ・アーデが所属していた組織が噛んでいるそうだな。まさかあの有名な工房ワポロの工房長がその一員とは驚いた……だが、どうやってそこまで調べた?まさかバイチ帝国の力を借りたわけではないだろう?」
普通の冒険者個人では決して辿り着く事のできない情報を持っていたアンノウンのメンバーに、少し探りを入れるフェルモンド。
もちろん、この情報を直接教えてくれたバイチ帝国のグラムロイス本人が得た情報であるとも思っていない。
間違いなく目の前にいる覆面の一行、アンノウンが入手した情報だと確信していた。
自らの力をフルに使っても、その名前すら辿り着く事ができなかった組織バリッジ。
その構成員を白日の下に曝け出し、更には魔力レベル30と言うとてつもない化け物まで難なく始末してしまう一団。
興味がわいてしまうのは、貴族とは言え、冒険者として活動し続けている所以か……
「我らアンノウンの力とだけお伝えしておきます」
しかし返ってきた返事はそっけないものだった。
「そうか。まっ、そう簡単に情報を開示する程間抜けではないという事だな。良いだろう。で、工房長とその一行はどこだ?」
頭の切り替えが早いフェルモンド。
この場にはNo.5とNo.2しか来ていない為、末端ではあるが構成員を捕縛したと連絡を受けていたので工房長達がどこにいるのか聞いたのだ。
「ここにおります」
さっきとは違う覆面のNo.5が、言葉と共に収納していた工房長を含む六人を出現させた。
「おいおい、お前収納魔法で生物を入れられるのかよ!それもこの人数!」
この時点で、自分の魔力レベル9では決して太刀打ちできない遥か高みの存在である事を理解した。
流石は現場第一主義で冒険者活動をしていたフェルモンドだ。
「一応俺は、人族最強に準ずる魔力レベル9だ。だが、そんな俺でもお前が見せたような芸当はとてもじゃないができない。お前、レベルはいくつだ?」
現実を目の当たりにして、人族最強は決して魔力レベル10ではないと瞬時に判断したフェルモンド。
こうして目を瞑りたくなる現実にも向き合える所が、彼の強みだ。
「既に新種のライチートのレベル情報は伝わっているのですよね?」
「ああ、レベル30と聞いている。前回も出たが、それはレベル10以上だったか?それはこの町の冒険者パーティーが討伐した事になってはいるが、今思えばお前らが裏から手を貸したんだろ?」
流石に鋭い所を付くフェルモンド。
冷静に考えればレベル10以上のライチートを、いくら性能の良い魔道具を使用しているとはいえ魔力レベル一桁の人族が討伐できるわけがないのだ。
とすると、アンノウンが何か細工をしていたと考える方が妥当だ。
「フフフ、流石ですね。ええ、前回のライチートについては、ある程度我らアンノウンの力を使って、あの方々に危害が加えられない程度に弱らせておきました」
「そいつは助かる。冒険者はギルドの宝だからな。で、お前のレベルはどうなんだ?」
じっと覆面を見つめるフェルモンド。
「そうですね。新種のライチートを瞬殺できるレベルとだけ申し上げておきます」
「瞬殺となると、最低でも魔力レベル40以上か?」
ここまで具体的な数値に対しては何も回答しないNo.5とNo.2。
フェルモンドも、彼女達の表情は覆面により伺い知る事ができないので、これ以上は聞いてくるような事はしなかった。
だが、確実に魔力レベル40はあると判断した。
自分と戦闘になった場合、いくら装備を充実させても手も足も出ないレベルだ。
「わかった。これ以上は聞かない方が良いだろう。で、こいつらはこっちに引き渡してくれるのか?」
「残念ですが、一部我らの秘密を知っているのでこちらで処理させて頂けると助かります」
「確かにドストラ・アーデも王城内部で殺害された経緯があるしな。俺がその身を預かっても、裁きを下すまでにこいつらは始末されるだろうな」
今回アンノウンが態々姿を現したのは、工房通りが腐りきっている事実を伝えて対処してもらうため、そして、組織バリッジに対しての警戒心を持ってもらうためだ。
「良いだろう。だが、こいつがバリッジの一員である明確な証拠はあるのか?」
その問いかけに、No.5は同じように収納魔法からライチートの死骸と制御する魔道具を出した。
「これが新種のライチートか。以前冒険者パーティーが素材として持ち帰った時はバラバラだったから良く分からなかったが、これほどか。で、その魔道具がこいつを操作する魔道具ってところか?」
そうして魔道具を掴むフェルモンド。
既に制御対象の魔獣が死亡しているからか、何の反応もない魔道具。
「これだけだと、証拠としては弱いな」
そう呟くフェルモンドから魔道具を受け取り、倒れている工房長の上に放り投げるNo.2。
すると、魔道具が反応して発光しだした。
前回工房長が魔道具の不具合を申し出てから改善された、所有者制限による反応だ。
自分の身を守る為の組織バリッジへの進言が、自らの首を絞める事になった工房長とその一行。
「成程。わかった。疑いだしたらキリがないしな。今回の騒動で死亡した冒険者の遺品をギルドに提出してくれたのもお前らだろ?グラムロイス殿の紹介でもあるし、信用しよう。こいつらの処遇は好きにしろ」
こうして、工房通りの中でも最も有名で、最も繁栄していた工房ワポロは長い歴史に幕を閉じた。




