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工房ナップル

 ギルドマスターのフェルモンドの問いかけに、意気揚々と立ち上がり声を出す工房ワポロの工房長。


「では、僭越ながらこの私が……。今回の件、フェルモンド様はプラロールが失踪してから起きている事と仰いました。時期的には合致しておりますが、実際は少々違うのではないでしょうか?私が思うに、どこかの工房が得意げに冒険者達に販売している魔道具の力を冒険者達が過信した頃、またはその魔道具、冒険者達が想定していたような性能を発揮できずに壊れた頃と合致するのではないでしょうか?」


 ここぞとばかりに工房ナップルを攻め始める工房長。


 ここでナップルを潰せればバリッジの依頼を達成できるうえ、自らの工房の売り上げも回復するのだから当然だ。


「確かに工房ワポロの言う通りだ。怪しげな魔道具を売っているせいで、俺達が販売した武具のメンテナンスに一切来なくなった。魔道具を過信しすぎて失敗し、俺達の武具も緊急事態の際にメンテを行ったために役立たなかったのではないか?」

「確かにその通りだな。私も一度魔道具を持っている冒険者にその威力を見せてもらったが、かなりの威力だった。あれを維持し続ける魔道具など新参者に造れるわけがない。短い期間だけ使える魔道具を売りつけたのだろう」

「だとすると、魔獣の戦闘時に魔道具が壊れて……成程、有得るな」


 工房通りの面々も自分の売り上げの邪魔になっている工房ナップルが目障りなので、集中砲火を浴びせている。


「勝手な事を言わないで頂きたい。我が工房ナップルも、魔道具の調子が悪くなった場合にはメンテナンスをしているし、そもそもそんな状態になっている人は今までに数名しかいないのですよ?初めに販売した四名の冒険者パーティーの魔道具は未だメンテナンスが不要な状態で使われておりますが?あなた方の作った武具より遥かに性能が良いのではないですか?」


 かなりカチンときたディスポが反撃する。


 しかし多勢に無勢。この場で強制的に黙らせる力を持っているアンノウンゼロの二人だが、そんな事はできる訳もない。


「そうですか、あなた方は我らの武具を貶すわけですな」

「これだから新参者は困る。直ぐに調子に乗る」


 自分達の言葉は無かった事にして、ディスポの言葉に噛みつく連中。


「その魔道具、俺も聞いた事がある。だが、とある冒険者にその魔道具を貸して貰ったが、一切その力を発揮する事はできなかった。冒険者曰く、所有者制限なる者が付いているために他人が使えないとか。それは事実か?ナップル?」


 フェルモンドが口を挟んできた。

 

「はい、その通りです。申し訳ありませんが、販売させて頂く冒険者の方々の身元についても、ある程度調査させて頂いております」 

「それ程危険な魔道具と言う事か。だが、調査とはどこまでの調査だ?」


「本当に簡単な調査です」


 言葉を濁すナップル。だが、その言葉通り、簡易的な調査しかしていない。


 つまり、購入を希望した冒険者達の納品までの一週間程度の時間に、バリッジの影が見えるかどうか。


 残念な事に、発注から納品までの間大人しくしていれば、その調査からは漏れてしまうザルな調査ではあるのだが……


 そこまで真剣に調査するほどの力のある魔道具ではないので、念のためのレベルの調査としている。


「そうか。俺も冒険者が炎の力を付与してある魔道具を使う所を見させてもらったが、あの力であれば冒険者達が想定以上の魔獣に対処できると勘違いする可能性は大いにあるな」


 これは決して工房ナップルを攻めている訳ではなく、むしろ褒めているのだ。


 だが、この場にいる工房通りの代表達にはそうは聞こえず、自分達の正当性を後押ししているように聞こえた。


「ギルトマスターの仰る通りですな。身の丈以上の依頼に手を出していざと言う時に魔道具が使用不能になったか、威力が出なかったかが最大の原因でしょう」


 全ての原因が工房ナップルにあると言いたいのだろうが、この言い方では冒険者ギルドの査定が甘いとも言っている事になる。


 言葉には出さないが、目つきが少々鋭くなるギルドマスター。


 彼としても、冒険者達が無駄にその命を散らす事を良しとしている訳では決してないのだ。


「まったくの言いがかりですね。話になりません。あなた方は我らが販売した魔道具に異常が起こった所を見たのですか?それに、依頼時にどのような行動を取るかは冒険者の自己責任でしょう?」


 ディスポはギルドマスターの表情の変化に気が付いており、その原因も理解しているので、ギルドマスターを庇うような物言いになっている。


 依頼の受発注に問題はなく、その後に少々勝手な行動をした……つまり、ギルドのあずかり知らない所でプラロールの探索を行った冒険者の自己責任と言っているのだ。


「ふん。だがお前達の作った魔道具を持った冒険者の多くが帰還していないのは事実。魔道具の故障の可能性、いや、本当はあれ程の力が継続的に出るような機能はない事を隠しているのか?何れにしても、我ら工房通りの総意として、今回の冒険者帰還率の激減に関する最大の要因は工房ナップルだと確信している」


 結局何を言おうが工房長の意見は変わる訳はなく、工房通りの面々としても、新参者、しかも元借金奴隷の経営する店に顧客を奪われているので、ナップルに味方をする者はいない。


「ギルドマスター!工房ワポロ、そして工房通りの言う事は、我らの魔道具に不具合があると言う言いがかりが前提になっています。それならば、直近で発見されたライチートの新種のような魔獣がいると言う方が、遥かに可能性が高いのではないでしょうか?」


 ディスポは、未だNo.10(ツェーン)からの調査結果を受けてはいないが、自らが想定している事をギルドマスターに伝えた。


 一瞬工房長の顔が歪んだのを、ディスポとナップルは見逃すような事はしない。


 この表情の変化で、再び新種の魔獣が西の森にもいる事を確信したアンノウンゼロの二人。


 そもそもこの工房長が新種のライチートの制御を行っていた時点で、バリッジ側の人間である事は確定している。


 工房ナップルに対しての攻撃の為に、一般の冒険者達にも被害が及ぶような事をするとは思いもしていなかった。


 それは、自分達の工房としての生活を脅かす行動に他ならないからだ。


 工房通りの関係者でバリッジ側と確実に判明しているのは工房ワポロだけであり、ある意味他の工房は被害者と言えなくもないが、ナップルの扱いや今までの行動からディスポとして庇うような事をするつもりはなかった。


「双方の言い分は理解した。俺としては冒険者の安全が第一になる事は理解してくれ。確かに工房ナップルの言うように新種の魔獣が再び現れたのであれば、冒険者達の帰還率が激減するのも頷ける。もし、冒険者達がプラロールの探索に向かって、自分の身の丈以上の魔獣との遭遇によって帰還できなくなったとするならば対策は容易だが、新種の魔獣となるとそうは行かない」


 ギルドマスターのフェルモンドは、あくまでも冒険者第一主義の考えであり、どちらかの意見に極端に肩入れすると言う事はなかった。


 冒険者の活動を安全にできるように常に腐心していたからだ。


「そのため、東の森・・・・・・いや、もし新種の魔獣となると、東西南北全ての森で調査をしなくてはならないだろうな。緊急依頼を発出する。プラロールを含む失踪した冒険者の情報、そして新種の魔獣の存在を調査する依頼だ。その結果、必要であればもう一度工房通りの人々の力を借りる事になるだろう。緊急事態のため、決行は明日だ」


 工房ワポロとしては、思惑が外れてしまった。


 ギルドマスターがこれほど現場よりの考えをすると思い至らなかったのが敗因だ。


 しかし、この依頼中にナップル一行を始末できれば話は別だ。


「では、それほど大規模な依頼であれば、我ら工房通りからもそれぞれ専属の冒険者を派遣しましょう。それとナップルさん?ついでにあなたの工房が販売した魔道具、既に冒険者達に販売している魔道具の証拠隠滅をされる恐れがあるので、我ら工房ワポロと同行して頂きますよ?」

「何?またそんな言いがかり……」

「はい、わかりました」


 ディスポが喧嘩を始めそうなほど切れた状態になりかかったのを遮って、了解の意を示すナップル。


 その姿を見て、ディスポは少しだけ落ち着く事が出来た。

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