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ラグロ王国での緊急クエスト(5)

 ナップルが適当な魔道具をでっち上げた状態ではあるが、実際に魔獣三体が自分達を囲う様に移動していると判断した冒険者達。


 この未確認の魔獣三体は魔力レベル28で、もちろんこの場にいる冒険者達が束になって一体を相手にし、ナップルの魔道具を使用した状態でも手も足も出ないが、魔獣のレベルを把握していない冒険者達は緊張が走る程度で済んでいる。


 実際の討伐はNo.10(ツェーン)が魔獣をある程度ボコボコにした状態、つまり、ほぼ瀕死の状態までにしておくつもりでいるので、冒険者達に危険はない。


『ナップル、No.10(ツェーン)。工房長だが、魔道具を使っている。恐らくとしか言えないがその道具を使って魔獣三体に命令を出しているように見えるぞ』


 ここで、後方にいるNo.4(フィーア)からの念話が飛んできた。


 既に魔道具による何かしらの指示を受けているのであれば、襲ってくるのは時間の問題と判断したNo.10(ツェーン)とナップルは動く事を決めた。


『わかりました。では一旦私はこの場を少し離れて、多少魔獣を弱らせておきますね~。少しの間、よろしくお願いしますね、ナップルさん』

『わかりました。No.10(ツェーン)さん、くれぐれも手加減お願いしますね』


 念話を終えると、冒険者に話を振る。


「皆さん、そろそろ魔獣に対する警戒度合いが高くなってくるのですよね?」


 ナップルは、何も知らない体で冒険者パーティーに話しかけた。


「そうね。ここまで魔獣が現れないとなると、未確認の魔獣と言うのは相当危険な魔獣かもしれないわね。かなり警戒しないといけないわ」

「あっ、でもナップルさんとナナ(No.10(ツェーン))さんは安心していてくださいね。私達がこの扇子をフルに使って守りますから!」


「ありがとうございます。ではどうでしょう、一旦休憩にして、魔道具と武具のチェックをしましょうか?」

「そうね、急な戦闘になってからでは遅いものね。お願いしようかしら?ナップルさんの魔道具によると、後どの程度で魔獣と遭遇しそうなの?」


「そうですね。魔獣の速度が一定と考えると、一時間ない程度だと思います」


 うまく冒険者パーティーを誘導したナップルは、一旦休憩を取る体で軽食と簡易テントを二つ設置して、冒険者達は一方のテントで休んでもらう事にした。


「少しメンテナンスに時間がかかるかもしれませんので、戦闘に備えてゆっくりしていてください。あっ、でも一時間はかかりませんので安心してください。何かあればすぐ連絡しますので」


 伝える事を伝えると、自分のテントに戻って魔道具と武具を見るナップル。


 もちろん戦闘をしていないので異常など有る訳もないが、一応点検だけはしている。


 その間、No.10(ツェーン)は転移を使ってテントから魔獣の元に向かう。


「あら?やっぱり見た事のない魔獣ですね~。聞いていた通り、ライチートに似ているようですが……」


 外敵に簡単に見つからない様な密集した森の木の上に、その体を隠すようにしてNo.10(ツェーン)をうかがっている魔獣ライチート。


 しかし、No.10(ツェーン)にとってその姿は丸見え状態と何ら変わりはない。


「じゃあ、早速少しだけ力を削いでおきましょうかね~。ライちゃん、覚悟してください!!」


 勝手に愛称で呼ばれても、ライチートは反応しない。

 未だに自分の姿を見つけられていないと思っているのだ。


 ゆっくりとNo.10(ツェーン)の背後に移動し、一気に襲うつもりでいたライチート。


 しかしその攻撃がNo.10(ツェーン)に届く事はない。


 気が付けばNo.10(ツェーン)を見失い、自分が見ている景色が歪んで見えている。


 No.10(ツェーン)の徒手空拳による攻撃を受けて、脳震盪を起こしているのだ。


 その後継続して体中に痛みを感じて、もはや立っているのもやっとの状態になってしまったライチート。


 訳が分からないまま死を覚悟した時、追撃がやんだのが分かった。


 何とか倒れないように歩くのが精いっぱいのライチート。


 このままでは今まで自分の力に怯えて逃げていた魔獣に逆に襲われて、成す術なく滅ぼされる未来しかない。


 必死で同族である他の二体の気配を察知してそちらに向かうも、順番に他の二体の気配も微弱になってしまった。


 新種としてこの辺りの森で君臨していた魔獣だけあって、知能も高い。


 何者かに、いや、No.10(ツェーン)に襲撃された事を理解したのだが、なぜ止めを刺さないのかまでは理解できなかった。


 回復するまで身を隠して他の魔獣から襲われるのを防ぐ事に力を入れようとしたのだが、自らの体を新種の魔獣に変換させた者によって埋め込まれた魔道具からの指令、そう、ナップル一行を始末する指令に逆らえず、強制的に体が動く。


 とは言ってもヨタヨタ歩く程度ではあるのだが、着実にナップル一行のいる方向に向かっている新種のライチート。


「帰りましたよ~、ナップルさん。全てばっちりです!!」

「おかえりなさい、No.10(ツェーン)さん。流石に仕事が早いですね。既に三体とも動きが遅すぎる位まで弱っているみたいですね」


 No.10(ツェーン)がこのテントを出てから帰還するまで僅か数分の間に、既に対象の魔獣はボコボコになっている事を確認しているナップル。


 この状態であれば、安心して冒険者一行と戦闘させる事ができると安堵していた。


 一方、確実な死地に強制的に歩を進めさせられているライチート三体。


 彼らの魔力レベルが高かった故にこの辺りにいた魔獣達はかなりの距離を取って避難していたので、弱った彼らが襲われるような事はなかった。


「皆さん、そろそろ魔獣が到着しそうですので準備をお願いします。メンテはバッチリですので、暴れちゃってください!」


 No.10(ツェーン)が帰還してから一時以上経過した。


 ナップルの当初の予想よりもライチートの到着時間が遅れたのは、No.10(ツェーン)がボコボコにしすぎたせいで、彼らの動きが遅くなっていたからだ。


「ふ~、緊張するわね。でもナップルさんの作ってくれた魔道具の真価を見せる時よ、皆!!」


 ナップル達とは違い、ライチートの現状を知る訳もない冒険者四人に緊張が走る。


 リーダーのジュリアがパーティーメンバーを鼓舞する。


「ナップルさん。未確認の魔獣、どの方向から来そうかしら?」


 既にナップルの作った扇子を手に持ち臨戦態勢の冒険者の中で、ジュリアが敵の位置についてナップルに確認している。


「三体の反応ですが、作戦を変えたのか三体全てが既に合流しています。あちらから来ますね」


 とある方向を指し示すナップル。


 その先は、この森の中央部分に近づく方向である為、より視界が悪くなるほどの密集した木々によって覆われている。

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