ラグロ王国での緊急クエスト(3)
「ここが西の森ですか。想像よりもずっと暗いですね」
「ちょっとナップルさん!そんなにボケーッとしていると、いくら浅い場所とは言え魔獣に襲われるわよ」
同行している冒険者のうちの一人、メリンダから指摘を受けるナップル。
この冒険者パーティーは、西の森深くにある未確認の魔獣調査の依頼を唯一受けたパーティーであり、工房ナップルの最初の顧客、更にはナップルがレベル3で作ったつもりが、一般的にはレベル5から6に相当する力のある扇子の魔道具を持っている冒険者達でもある。
一人目は、本当の最初の客となった炎の力を付与した魔道具を持つジュリア。
赤目赤髪で、ポニーテールを揺らしながら歩いている。
二人目は、水の力を付与した魔道具を持つロレンサリー。
銀目銀髪のショートヘア。
三人目は、土の力を付与した魔道具を持つメリンダ。
銀目金髪のショートヘア。
四人目は、風の力を付与した魔道具を持つマチルダ。
青目金髪のセミロング。メリンダの妹だ。
「あ、ごめんなさい。こんな場所に来たのは初めてなので、興奮してしまいました」
「大丈夫よ、ナップルさん。私達もいるし、この辺りであれば問題ないわよ。もう少し奥に行くとそんな訳にはいかないから、今のうちに楽しんで!」
ジュリアがフォローしてくれるが、実際はナップルやNo.10はこの辺りには魔獣がいないと把握していたりする。
無邪気に楽しんでいる感じではあるナップルだが、No.10と共に警戒は怠ってはいないのだ。
『あの……かなり後ろから誰かついてきていますよね。それも二人』
『一人はディスポが教えてくれた工房長ですね~。もう一人は護衛でしょうか?』
と念話で情報共有をしている。
だが、今の所何かを仕掛けてくる気配がないので、放置している。
すでに工房長がバリッジの一員である可能性が高い事は理解しており、実際に行動に移してきた段階で捕縛しようと考えていたのだ。
「ロレンサリー、ちょっと順調すぎないかしら?」
「あなたもそう思ったの?ジュリア」
一日目の行程が終わり野営の準備をしている最中に、二人は今日の行程についての感想を話している。
魔獣に一切遭遇しなかったために、逆に不安になっているのだ。
他のパーティーメンバーであるメリンダとマチルダも二人の会話に頷いているが、No.10とナップルはその会話は聞こえているが加わっていない。
それは、No.10とナップルの力に怯えた魔獣自らが避難していたために起こった事である為、どのように説明して良いのかわからずに聞こえていないふりをしている。
その後もパーティーの話しはまだまだ続く。
「やっぱり異常事態ね。未確認の魔獣による影響かもしれないわ」
「安全を見て、見張りは二人にした方が良いかしら?」
「魔獣に一匹も遭遇しないなんてありえないものね。最大限の警戒をした方が良いわね」
「未確認の魔獣がこの近辺に来ていると言う可能性も捨てきれないわね」
と、こんな感じだ。
No.10とナップルと言えば、冒険者パーティーに聞こえないように相変わらず念話で情報共有している。
『No.10さん、どうしましょうか?なんだか話しがおかしな方向に行ってしまっています』
『そうですね~。でも、大丈夫じゃないですか?別に何かが起こると言う訳でもありませんし~』
他人から見れば、黙々と野営の準備をしているように見える二人。
その様子を少々怯えていると勘違いした四人は、慌ててナップルに声をかける。
ここでのナップルは、魔道具や武具の整備のために同行している鍛冶士でしかないからだ。
No.10は冒険者として同行しているが、当然第三者がいるので、冒険者登録をした時の偽名である“ナナ”と自らを紹介している。
「ナナ(No.10)さん、ナップルさん、ごめんなさいね。変な話しをしちゃって」
「そっ、そうそう、たまには魔獣が一匹も現れない事もあるしね」
「随分手馴れているじゃない?私も手伝うわ」
「私達が警戒しているから、問題ないわよ。それに、ナップルさんの作ってくれたこの魔道具があるしね!!」
ナップル達からすれば全く見当違いのフォローなのだが、優しい心遣いであることは違いない。
「ありがとうございます、皆さん。私達は大丈夫ですよ。ね?ナナ(No.10)さん?」
「はい~。全く問題ありません。とは言え、お腹がすきましたので早くご飯にしませんか~?」
No.10は、軽くお腹をこすって見せた。
実はこの二人、収納魔法を使ってしまえば野営の準備など一瞬なのだが、能力を隠しているために荷物はきちんと持ち運んでいた。
魔力レベルが低くとも高レベルで錬金術を使える者が作った収納魔道具があれば良いのだが、そのような物は高級品過ぎて市場には出てこない。
専ら鍛冶や錬金の能力があり、且つ魔力レベルが高くなった冒険者が引退後、収入を得る手段として商人に販売しているだけだからだ。
「アハハハハ、ナナ(No.10)さん、こんな状況でも全然緊張していないみたいね?流石は高ランクの冒険者ね」
いつ魔獣に襲われるかもしれないこの状況、ましてや通常の状態とは明らかに異なる状況で空腹を訴えてくるナナ(No.10)。
冒険者達は、一つも緊張していないナナ(No.10)の様子を見て、自分たちの緊張もほぐれた様だ。
実際No.10としては周りの魔獣は勝手に逃げていくし、対象となる魔獣の気配も既に掴んでいるので全く緊張するような要素がない上、実際にお腹が空いていたのだ。
「はい!意外と図太いのかもしれません~」
こうして、過剰な緊張から解放された冒険者パーティー四人は、ナップルが準備した食事を楽しむ事ができた。
この食事、ナップルがこっそりと収納魔法から出したものだったりする。
「ナップルさん、お料理上手なのね~。これならナナ(No.10)さんがお腹すくの、わかるわ~」
「「「本当そうね」」」
この料理、アンノウンゼロの一人である調理が得意なマーロイが作ったものなのだが、あまりの高評価に苦笑いするしかないナップル。
「そうですか?あ、ありがとうございます?」
その後見張りについてひと悶着あったのだが、実情をよく知るナップルとNo.10が押し切る形で、冒険者パーティーは見張りから免除される事になった。
ナップル達の言い分としては、正体不明の魔獣の討伐をするのだから、見張りなどせずに体調を万全にする必要があると言い続けて押し切ったのだ。
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