ラグロ王国での緊急クエスト(2)
今日から連続投稿予定です
拠点にて、ナップルから正体不明の魔獣三匹の討伐依頼に同行する事の許可を貰いに来たと言う話を聞いたジトロ。
ジトロの前にいるのは、工房通りで任務に就いている三人、ナップル、No.10、ディスポだ。
バルジーニは協力者と言う位置づけの為、このような報告の場でジトロと会う事は殆どない。
討伐部隊は、部隊という程人数が集まらずに一つのパーティーのみが依頼を受けており、そのパーティーは工房ナップルの最初の客だと言うから、ナップルとしても楽しめるだろう、と、ジトロは思っていた。
更にはナンバーズのNo.10も同行するのだから、安心して送り出す事ができるし、その間の店についての対応も十分であると判断したのだ。
話の詳細を聞いている内にナップルが鍛冶士としての誇りを取り戻している事に安堵しつつも、魔獣について意識が向いていた。
報告をしに来ていたナップル、No.10、ディスポが下がると、
「ジトロ様、その正体不明の魔獣と言うのが気になります。先行調査を手配してまいりましょうか?」
ジトロが拠点にいる際には、常に近くにいるナンバーズ筆頭であり最強でもあるNo.1が、ナップルの話にきな臭さを感じて先行調査を申し出る。
実際、ジトロ本人としてもこの話にはきな臭さを感じていた。
そもそも依頼の出所が薬屋で、その依頼についてしゃしゃり出てくる工房ワポロ。
工房ナップルを潰したい思惑が見え見えだ。
更に正体不明の魔獣と言う依頼だが、薬屋程度がそのような情報を得る事など本来はできない。
薬草の採取依頼を行った冒険者達から情報を聞いて依頼を出したのなら理解できるが、直近で薬草採取の依頼は出ていないのだ。
No.10が同行するにしても、魔獣の詳細が不明であった場合に対応が遅れて、ナップル本人は大丈夫だとは思うが、同行しているナップルの最初の客である冒険者パーティーが大怪我や最悪のケースとなる事も考えられなくもない。
ナップルの話を聞く限り、ナップル自身がその冒険者達にはかなり良い思いを抱いているようで、そんなメンバーがナップルの目の前で大怪我など負おう物ならせっかく癒された心にダメージがあるかもしれないと考えたジトロ。
「今回の依頼は明らかに工房ナップルへの嫌がらせだろうな。そうすると、道中に罠があるか、その魔獣がテイムされているか……何れにしても調査しておいた方が良いだろう。一応魔獣の詳細と、道中の罠の調査を手配しておいてくれ。それと、念には念を入れて、同行する冒険者の調査も頼む。誰に行かせる?」
「No.2とNo.7、経験を積ませるために、炎龍コシナ、更にはアンノウンゼロのカズマとライブンも時間的に空いておりますので、同行させる予定です。西の森程度であれば、ナンバーズ以外が同行していると言っても今から向かえば数時間で調査は終わります。冒険者の方はNo.4を手配します」
「じゃあ、結果は明日の朝ナップル達にも伝えるようにしよう。悪いけど、頼んだよ」
「承知いたしました」
ジトロから指示を受けたNo.1は美しい所作で一礼するも、ジトロの傍から離れる事はない。
意識的に絶対の主であるジトロの傍を離れないようにしているのだが、当然受けた依頼については念話で指示を出している。
その辺りも理解しているジトロは、No.1の行動に何か言うような事は無い。
「それじゃ、少し風呂にでも入って来るよ」
そして迎えた翌日の朝。
いつもの食堂には、任務でいない者を除き勢揃いしている。
ジトロ、ナンバーズ、アンノウンゼロ、そして協力者のバルジーニも当然いる。
「おはようございます。既に皆さんご存じの通り、工房ナップルの任務は順調です。その為、工房通りにある他の工房から標的にされ始めており、特に工房ワポロがその急先鋒である事が確認できました。今回の正体不明の魔獣討伐依頼についても、依頼者である薬屋と工房ワポロの工房長は繋がっています。更に裏にあの組織、バリッジの影が見えますが、ここについては残念ながら確証までは得ておりません」
半日かからずに終了した調査結果を、No.1が丁寧に説明する。
「討伐対象の正体不明の魔獣三匹はライチートの新種、魔力レベル28です。この新種の魔獣は、誰かに制御されている状態である事は間違いありません。この事実を踏まえますと、バリッジが関与している可能性が非常に高いと思いますが……それと、道中の罠の存在は確認できませんでした」
「ライチートと言えば、確か物理攻撃特化だったと思いますけど~、間違いないですか?」
討伐隊に同行するNo.10による確認だ。
「はい。No.7の鑑定で確認しました。しかし、森の中。当然木の上からも奇襲してきます。それに、新種故に動きも相当早いので、同行する冒険者パーティーでは手も足も出ないでしょう」
「わかりました~。ありがとうございますNo.1。では、私がその新種の魔獣担当、冒険者の方々の護衛がナップルさん担当で宜しいですか〜?」
No.10からある意味任務を任された形になっているナップルは、胸の前で握り拳を作って気合を入れる。
「はい!お願いします。頑張ります!!」
魔力レベル28の新種の魔獣と聞いても、アンノウンにとっては雑魚だ。
何の問題もなく調査結果の報告は終了し、まるでピクニックに行くかのようにNo.10とナップルは持ち物の相談をし始めた。
「そうでした!ジトロ様!あの西の森の奥には貴重な薬草があります。今回の遠征のついでに私も薬草を使った錬金の練習、ポーションの作成をしたいので、幾つか採取してきてもいいでしょうか?」
「いいぞ。だが、全部は採取してはだめだぞ。自生している薬草を全て採ってしまうと、そこには新たな薬草が生えなくなるからな」
冒険者になった際に教えられる基礎知識ではあるが、ナップルは鍛冶士。
実は錬金術士としての才能もあったようで、あれ程の属性を付与した魔道具を作れていたようだ。
とは言え、今まで置かれていた環境からも、その辺りの知識に疎いかもしれないと考えたジトロは、副ギルドマスター補佐心得として新人冒険者に教えるように知識を与えた。
「そう言えば~、その様な事を冒険者登録時に教わったかもしれません。流石はジトロ様。すっかり忘れていました!」
同行するNo.10の言葉を聞いて、自分がナップルに知識を与えたのは間違いではなかったと確信したジトロ。
命がけで薬草を採取しに来た冒険者が目的地に辿り着いた際に、絶望するような未来を回避する事が出来たのだ。
こうしてこの日の朝食は終了し、各自の任務の為に拠点を後にする。
ナップル達は、討伐遠征期間中の分の魔道具の作成に精を出していた。
バルジーニもナップルほどではないが、かなり性能の良い属性を付与した魔道具が作れるようになってきている。
もちろん本人は嬉しそうではあるのだが、出来上がりに対してまだまだ納得していないので、その製品が店頭に並ぶ事は無い。
こうして、いよいよ緊急依頼を行う日の朝がやってきた。
待ち合わせは西の門の前。
そこにいるのはナップル、No.10、冒険者パーティー、そして見送りのバルジーニとディスポだ。
『No.10、ナップル、既に気が付いていると思うが、工房長がこちらを監視している。一応気を付けて!』
物陰から監視している工房ワポロの工房長はあっさりとディスポに見つかっており、念話によってNo.10とナップルにはその存在を伝えられている。
ディスポの言った通り、既にこの二人も工房長の存在には当然気が付いている。
No.10とナップルは笑顔でディスポに頷くが、この場にいる他の面々にはその意図はわからない。
「「「「「「それじゃ、行ってきます(~)!!」」」」」」
こうして、緊急依頼に向けて西門を出る一行。
その姿を確認した工房長は、その行動が監視されているとは気が付かないまま、その場を後にした。




