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ラグロ王国での緊急クエスト(1)

 ここはラグロ王国の冒険者ギルド。


 最近は日を追うごとに冒険者の依頼達成率が上昇しているので、大陸中にある冒険者ギルドの中でも注目株となっている。


 その理由は、言うまでもなくナップルの魔道具によるものだ。


 各冒険者達が、自分が不足している属性を付与されている魔道具を購入する事で弱点を補えているのだ。


 いや、補うどころか、その属性が最大の攻撃力になっていたりする。


 そのため、今までよりも格段に依頼の達成率や冒険者達の帰還率が上昇している。


 このように沸き立つギルドに、新たなクエストが張り出されていた。


 “西の森深くに正体不明の魔獣が三体発見された為、討伐希望”


 西の森深くとなると、数日かけてようやく到着する事ができる位置にあり、入り口となる森の浅い位置でもある程度の魔獣に襲われるので、消耗品の消費が激しくなる事で有名な場所だ。


 逆にその場所にある薬草は、その行程を踏んでも尚黒字になるような高値で取引されている。


 しかし、薬草クエストに挑む者はあまりいない。もちろん、命の危険があるからだ。


 そのような場所に正体不明の魔獣が現れたとなると、高度な回復が行える薬の原料である薬草の入手ができなくなる可能性があるので、こうして緊急クエストとして張り出されている。


 と言うのは表向きで、事実は異なる。


 この依頼を出した薬屋は、バリッジには何の関係もない人物で、大金をつかまされて依頼を出したに過ぎない。


 そのため薬屋本人も、森の奥に正体不明の魔獣がいるかどうかすら把握していない。


 冒険者達はその依頼書を見て、あまりにも危険である為にさっさと他の依頼を見る者もいれば、魔力レベル7以上の経験豊かな者達は、パーティーで挑むかどうか悩んでいる。


 道中の消耗品は、体力回復、場合によっては傷の回復、魔道具の補充、魔力の回復、更には武具の整備も必要になってくるので、危険を冒してまでこの依頼を行って採算が取れるか考えているのだ。


 その場所にある薬草を採取し、取引できれば黒字間違いなしではある。


 しかし薬草や、調合された薬品には鮮度があり、不要に薬草を採取しても需要がないので、薬草採取のクエストがある時だけ採取するのが基本となっている。


 その為、無駄に薬草を採取しても彼らの懐は潤わないのだ。


「このクエスト、正体不明の魔獣の推定魔力レベルが分からないな。だが、あの森の奥で生息できているとなると、魔力レベル8は有る可能性が高いだろうな」

「俺もそう思う。だとすると、俺達だけでは危険か……」

「それに、道中の雑魚魔獣との戦闘や武具整備も考えると、今回は厳しいかもしれないな」


 経験があればあるほどこの依頼の危険性を理解しているので、なかなか依頼を受ける人物が現れなかった。


 そこに、様子を見に来ていたワポロの工房長子飼いの冒険者。


 誰も受注する様子がない事を工房長に伝えると、工房長は動き始めた。


 工房通りに位置している全ての工房の代表を招集し、緊急依頼について説明を始める。


 場所は、冒険者ギルドの大会議室だ。


 この工房通りの店は組合を作っており、バルジーニは今まで全ての招集を無視していたのだが、アンノウンとしての活動が功を奏しているのかを確認する良い機会だと考えたナップルは、参加を決めていた。


「皆さん、お集りのようですね。本日お越しいただいたのは緊急クエストについてです。一部ご存じの方もいらっしゃると思いますが、貴重な薬草の生息地である西の森の奥に正体不明の魔獣が三匹程確認されたため、討伐依頼が出ております。ですが今の所、この依頼を受けた冒険者はおりません」


 一呼吸おいて、工房長は続ける。


「ですが、このまま放置すると、貴重な素材である薬草を必要な時に採取できない可能性が高いのです。これは、私達鍛冶士、錬金術士にとっても大問題です。そこで、なぜ受注されないのかを確認した所、道中のポーションなどの消耗品の消費以上に、武具や魔道具の損傷、メンテナンスについての不安が解消されない事が最大の原因である事が判明いたしました」


 これは、西の森に行く冒険者が常々口にしている事なので、誰も疑う事はない。


 十分な容量を持ち運びできる収納魔法を使える者が同行すればそのほとんどは解決するのだが、そこまでのレベルの魔法を行使している状態となると戦闘力は皆無に等しいので、冒険者達の負担が大幅に増える事になり、見送られている。


「そこで私は提案します。今回のこの緊急依頼の達成の一助となるべく冒険者達に鍛冶士が同行し、その場で武具や魔道具のメンテナンスを行うのです。もちろん、その工程に係る費用についてはこの緊急依頼の依頼者から徴収します。如何でしょうか?」


 工房長の言っている事は、正論のように聞こえる。


 しかし、収納魔法を持つ者と同じ様に鍛冶士には戦闘力は殆どなく、結局は冒険者の負担が増える可能性が高いのだ。


 当然工房長はそのような事は理解した上で続ける。


「ここ最近、ラグロ王国のギルドの評判は高くなっています。その一助となっているのがナップルさんの工房が販売している魔道具の様ですね。どうですかナップルさん?実際に冒険者があなたの魔道具をどのように使っているかを見る事も出来ますし、本当にあの魔道具が有益であるかの確認もできるかと思うのですよ。それにあなたの隣にいる方、冒険者なのですよね?その方の報酬も今回の依頼者に請求しますので、貴方の護衛のみに専念する形として、今回の討伐隊に同行いただけませんか?」


 工房長は、暗にナップルの魔道具は使い物にならないのではないか、と言っているのだ。


 その程度の事は理解できるナップルは、レベルを落としたとは言え、自分の魔道具をバカにされて許せるわけがなかった。


 このセリフを、工房に待たせているディスポとバルジーニが聞いていたら、特にバルジーニは、この場で暴れ始めるくらい激怒しただろうと容易に想像できた。


 この提案を受けたとしても、この場に同行してきてくれているNo.10(ツェーン)の同行を勧められているので、身の安全はこれ以上ない程保障されている。


 当然、ジトロに報告の上最終判断をしてもらう必要があると考えているが……


「わかりました。一応私の雇い主に確認をさせて頂きますが、基本的には同行させて頂く方向で話を進めてください」


 この会議に参加している他の工房の代表達も、工房ナップルの販売が激増した余波を受け、売り上げが激減している事に困り果てていた。


 自分達の技術の研鑽を行わなかった事が最大の原因なのだが、今回の工房ワポロの工房長による提案を聞き、ナップル以外の工房の思惑が完全に一致している事を理解した。


 そう、(元)借金奴隷(冤罪)の癖に、大した事のない魔道具を販売する事によって自分達の売り上げをかっさらった不遜な女。


 魔獣討伐に同行させれば、運が良ければ魔獣の餌になってくれて余計な事をされなくなる……と言う事だ。


 当然彼等、ワポロの工房長も含めて、ナップルとこの場に同行しているNo.10(ツェーン)の真の力を知らない。


 こうして冒険者達の間で、魔道具購入の争奪戦が起きる程有名になった工房ナップルの工房長が、緊急依頼に同行すると即座に発表された。


 その話を聞いた冒険者達は一瞬浮足立つが、そうは言ってもかなりの危険がある事は間違いない。


 それに、高ランクの冒険者にとってはナップルにとってのレベル2,実際はレベル4程度の魔道具があったとしても大した戦力増強にはなっていないので、その製作者が同行してくると聞かされても、大したうま味はなかったのだ。


 結局名乗りを上げたのは、工房ナップルの最初の顧客である女性四人のパーティーだけだった。


 彼女達の持つ工房ナップルの魔道具は、他の冒険者が持つ魔道具とは違い少々レベルが高い。


 それに、ナップルと共に行動できる事に価値を見出し、この依頼を受ける事を決めたのだ。


 ナップル達も工房に戻り留守番組に状況を説明すると、案の定バルジーニが今にも工房ワポロに乗り込まんばかりの勢いで激怒したので、なだめるのに少々時間を使ってしまった。


 その後拠点に戻ると、ジトロの許可を得て二日後に西の森に向かう事となった。


 その間の工房ナップルは、この二日で魔道具の在庫を積み増してディスポとバルジーニで対応する事に決定した。

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