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アンノウンゼロとしての活動(3)

 ナップルが目にもとまらぬ速さで素材を加工して美しい扇子を作り上げたのを見て、信じられない様子のバルジーニ。


「そんな馬鹿な。このワシにも認識できない速度で作業するな……熱っ!」

「だから言ったじゃないですか。高速で使ったハンマーですから、当然熱くなっていますよ。でも、その程度であれば問題ないですね」


 バルジーニの傷を見もせずに言い切るイズン。


「フン、良いだろう。どんな手品を使ったかは知らんが、あの素材を使って作った扇子である事は認めてやろう。だがな、重要なのはその扇子の性能だ!ただの扇子であれば、良い鍛冶を行ったと認めるわけにはいかない。貸してみろ!!」


 ひったくるようにナップルから扇子を取り上げて、広げた状態で穴が開くほど見つめるバルジーニ。


 思わず、その美しさに見惚れてしまっていた。


「は~、ナップルさんの作る物はとても奇麗ですよね~。前に作った炸裂玉も、それは奇麗でしたからね~。効果は凄すぎましたけど」


 No.10(ツェーン)の声で、ようやく当初の目的を思い出すバルジーニ。


「それで?これはどんな機能を付加しているんだ?確かに見た目は素晴らしいが、それだけでは良い鍛冶とは言える訳がないからな」

「風魔法です。魔力レベルがある方であれば、少しでも魔力を流しながら仰ぐと強力な風魔法を発動します。でも、ここで……」


 ナップルが、ここで使うのは危険だと言う忠告を言い終わる前に、自分を扇いでしまうバルジーニ。不幸な事に彼は魔力レベルが1であり、説明の通りに魔力を扇子に流してしまっていた。


 ドガーン……


 扇いでいた扇子を残して吹き飛ぶバルジーニ。

 彼が立っていた後に、ひらひらと舞い落ちる扇子。


「流石はナップルさんです~!風魔法の発動元の扇子自体は吹き飛ばずに、この場に残っているんですね?このヒラヒラと落ちていく感じも、計算されているようで、とても奇麗です~」


 うっとりとした表情で、落ち行く扇子を見つめるNo.10(ツェーン)


 周りの鍛冶用の道具も、風魔法の影響でかなり破壊されてしまっている。


「いや、今はそれどころではないでしょう?この中で回復が使えるのはNo.10(ツェーン)だけなのですから、とりあえずあの頑固オヤジを助けてあげてくださいよ。明らかに重傷ですよ!」


 なぜかうっとりしているNo.10(ツェーン)に、イズンが激しく突っ込む。


 そう、アンノウンゼロの面々は魔獣の力を借りて強くなってはいるが、元々魔力レベルは0。


 彼らの能力は魔獣が持っている能力に依存するのだが、ジトロが重要視した能力は、感知能力、転移能力、隠密能力であったので、彼らには回復術は使えない。


 No.10(ツェーン)であれば回復を得意とするNo.6(ゼクス)には及ばないが、術を発動する事はできるのだ。


「あっ、そうでしたね~。すみません。あまりにナップルさんの作った扇子が美しすぎたものですから、意識が持って行かれてしまいました~。フフフフ、素晴らしい作品には、こう言った二次効果もあるのですね」


 訳の分からない事を言いつつも、がれきの山となった道具を片手で“ひょいひょい”と、どかしているNo.10(ツェーン)


 すぐにバルジーニの足が見えると、無造作にその足を掴んでごみの山から引きずり出した。


「おいおい、なんだあの力は?」


 色々驚く事が多すぎて、語彙力が少なくなっているバルジーニ。


 おっとりとした外見からは想像もできないほどにとてつもなく雑な救出であったが、その最中にしっかりと回復は済ませていたようだ。


 しかし、体は回復されても、服までにはその効果は及ばない。


 所々激しく破れて、バルジーニの血も付着している。


 いや、服が破れている原因のほとんどは、最後の救出時に、ごみの山から雑に引きずり出した事によるのだが……


「私、きちんと注意しようと思ったのですが、聞き終わる前にバルジーニさんがその扇子を使ってしまったので」


 申し訳なさそうに答えるナップル。


「いえいえ、ナップルさんは悪くありませんよ。きちんと約束通りに素晴らしい鍛冶士としての力を見せて、その効果も素晴らしかった。それだけです」


 イズンがビシッと〆る。


「その坊主の言う通りだ。まさか、ワシの今までの技術の全てを使っても作れないような代物を、あっという間に作っちまうんだからな。いや、申し訳ないが、作っている所は見えなかったが、あれほどの力を出す道具は見た事もないぞ。それに、その意匠。思わず見惚れた。まさに、魂を持って行かれた。よし、決めた!お前、名前は??」

「え?えっと、ナップルと言います」


 突然機嫌よく自分の作品を褒めちぎるバルジーニに困惑するナップル。


 しかし、そんなナップルを気にする素振りすらなく、バルジーニは晴れやかな表情で話す。


「わかった。ナップル、お前にこの工房をやろう。但し、ワシもここで働かせてくれ。自分では極めたつもりの鍛冶だったが、目の前に頂上が見えない山があるんだ。挑みたくなるのが職人ってもんだろ?坊主もそれでどうだ?」


 イズンの正面に向き直り、力強い目で問いかけるバルジーニ。


 イズンとしては懐が一切痛まないこの状況は正に願ってもない事ではあったが、アンノウンの活動の一環としてこの工房を動かす以上、何かしらの危険にバルジーニを巻き込む可能性がある。


 そのため、その場で即答できるわけがなかった。


「申し出は非常にありがたいです。ですが、私の一存で決められるのは、購入時の金額だけだったのです。申し訳ありませんがバルジーニさんの件、我らの主に確認させて頂いてからでもよろしいでしょうか?」


 バルジーニの好意をその場で受け取る事ができずに、罪悪感からいつも以上に丁寧な対応になるイズン。


「おう、しかたがないだろうな。お前たちの年齢であれば、金額だけでも任されているだけ大したモンだ。だが、頼むぞ。ワシは、あのナップルの技術に惚れたんだ。なんとしても、ワシも同じ職場で働かせてくれ。もし必要なら、ワシが直接お前らの主にお願いしに行っても良いからな」

「わかりました。あなたの熱意は、必ず主にお伝えします」


 こうして、勝負にならない勝負は終了し、四人は一旦拠点に引き返してジトロの意見を聞くことにした。


 だが、ジトロはギルドに出勤中であり、この程度の要件で念話を使う事は躊躇われたので、夕方までちゃっかり温泉で寛ぐ事になったのだ。

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