表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/172

アンノウンゼロとしての活動(1)

 バイチ帝国の皇帝を癒して、更には彼らに協力する事にしたアンノウン。


 その後、目に見えた活動の手始めとして、ナップルを救出したラグロ王国の工房が並ぶ通りに進出する事にした。


 もちろんアンノウンとしてではなく、ナップルを中心とした工房として、だ。


 ナップル救出後の詳細の調査で、どうやらこの工房通りの何処かにいる人物があの組織、つまりはバリッジと繋がっていそうだという情報を掴んだのだ。


 残念ながらその人物はドストラ・アーデと同じく末端の者、または、単純に組織に利用されている人物なのかは不明だ。


 更にその人物ですら、未だ詳細な情報を掴めていない。


 今まで各所で集め続けた情報から推測し、このラグロ王国のこの工房通りには、バリッジからかなりの金銭援助を受けて武具やアイテムを納品しているらしいと判断したアンノウン。


 そこで、情報収集と、更には工房通りの連中に対する復讐の意味も兼ねて、ナップル達が工房を構える事にした。


 安全のために日中のみ工房に籠り、夜は拠点に戻る予定だ。


 そのメンバーは、ナップル、ディスポ、No.10(ツェーン)の三人だ。


 ここで作られた高品質の武器やアイテムを安価で冒険者にのみ販売し、使用者制限をつける。


 こうする事によってバリッジ側に、ナップル達が作った武器やアイテムが利用されないように制限をかける。


 販売する冒険者達の身元は調べ上げるので、その日に納品する事はできない条件付き。


 しかし、ここは値段と性能で勝負するため、全く問題ないとアンノウンのメンバーは考えている。


 万が一バリッジの手にその武具が渡っても、所有者制限によりその性能を発揮できる訳もなく、その冒険者自体がそもそもバリッジの者であったり、武器の所有者制限を解除されたとしても、武具のレベルとしてはレベル5近傍を基準とするので、アンノウンのメンバーにダメージは一切ない。


 こうして、アンノウンとしての第一歩を踏み出したナップル。


「まったく、あのクソ親父、足元見やがって!!」


 夕食時に憤慨しているのは、守銭……金庫番のイズンで、もちろんスイッチは完全にON。むしろ、悪い方向に加速している。


 アンノウンとして工房を開くので、当然工房通りに場所が必要になる。


 工房通りはラグロ王国のメイン通りになっているので、土地の単価はかなり高い。


 その一角に、店を畳もうとしている初老の鍛冶士がいる事を突き止めていたアンノウンは、交渉役として金庫番のイズン、そして、実際に工房を使用するナップルで現場に赴いた。


 工房の中には一通り錬金術に必要な機材は揃ってはいるが、型は旧式、機材によっては全く使用されておらず、埃が被っている物さえあった。


「「こんにちは」」


 そんな工房を確認しながら、イズンとナップルは交渉の準備を始める。


 すると奥から出てきたのは、鍛冶士にありがちな頑固オヤジだ。


 その人物は、ナップルを一目見ると鼻で笑う。


 見た目が小さくかわいらしい女性だったからで、決して以前このラグロ王国の工房通りで、惨い扱いを受けていたからではない。


 そもそもこのオヤジは自分が行う鍛冶にしか興味がなかったため、他の事に意識が行く事はなかったのだ。


「何の用だ?ワシの店にはもう売りモンはないぞ。見たところお前も鍛冶をするみたいだが、ワシは弟子を取るつもりもない」

「実は、私達はこの工房通りで新たに出店する事を計画しています。そこで、もしよろしければ、この土地を購入させて頂きたく、失礼ではありますが訪問させて頂きました」


 イズンの回答に、ジロッっと睨みつける頑固オヤジのバルジーニ。


「ふん、自分の実力が理解できていない奴ほど、勝手な夢を見やがる。この通りは確かに有名だ。だがな、通りに店を構えたからと言って、中途半端な物が販売できると思わない事だな」

「ご忠告感謝いたします」


 今回のイズンは、あくまで交渉するためにここに来ているので、いつも以上に丁寧な態度になっている。


「口では何とでも言える。ま、そうは言ってもワシは引退している身だから、これ以上言っても意味はないな。だが、ワシ自身に今は収入がない。今までの貯蓄があるから生活には問題はないが、この場所を移動するとなると、移動の費用も掛かってくる訳だ。お前ら若造には分からんだろうが、何をするにも金がかかるんだよ」

「もちろん、その部分につきましても考えさせて頂きたいと思っております」


 イズンの返事に、いやらし笑みを浮かべるバルジーニ。


「そうかい、そうかい。それじゃあ虹金貨四枚(4000万円)でいいぞ。この設備もそのままくれてやる」

「いや、それは少々高すぎではないでしょうか?」


 このオヤジ、バルジーニの言う設備は、全てが使えるような状態ではなく、むしろ、余計に費用がかさむような物ばかり。


 明らかに適正価格ではない。


「そうかい。ワシはな、鍛冶を甘く見ている奴が気に食わねーんだ。そんな奴からの願いを叶えるんだ。迷惑料も込みでこの値段だ。これ以上は一切値下げしねーぞ!」

「あの、私は決して鍛冶を甘く見たりはしていません。むしろ、鍛冶に全てを注いでいるんです。それなのに、実力を見もしないで、失礼な事を言わないでください!」


 ここにきて、ナップルのスイッチが入ってしまった。


 交渉役であるイズンは、他人のスイッチが入った所を見るのは初めてであったために対処が遅れる。


「私の作った物を見てから判断していただけますか?」

「おぅ、いいぜ。但し、錬金はワシの目の前、ここでやってもらう。適当に買ってきた物を自分が作ったと言われちゃ困るからな」


 いつの間にか、勝負のような状況になってしまったのを見たイズンは、スイッチが入るなんて面倒くさい奴だ。と、自分の事を棚に上げまくって、思っていたのだ。


 しかし、一方ではこの工房のオヤジであるバルジーニは、裏の組織の者ではないという確信を得ていた。


 鍛冶にしか興味がない職人。そんなイメージ通りの人物だったからだ。


 こうして、なし崩し的に勝負のような事が行われる様になった。


「ここの設備について何もわからねーだろうから、今日は設備を見て、その後は素材を準備する時間にしてやる。勝負は明日だ」

 

 伝える事は伝えたとばかりに、奥に引っ込むバルジーニ。


「失敗しました。ここまでの話になるのでしたら、あのバルジーニがナップルを認めた段階で、譲渡の金額を虹金貨一枚(1000万円)にする事を認めさせるべきでした!」


 流石は金庫番。常にお金の事を考えており、両目が虹金貨に見える。


「でも、公正に判断して頂けるのでしょうか?」

「大丈夫だと思います。あの頑固オヤジ、鍛冶に関して妥協はないようですから、問題ないでしょう」


「ワシは頑固オヤジじゃねーぞ!!」


 ナップルとイズンのやり取りを聞いていたバルジーニは罵声を浴びせる。


 もちろん、ナップルとイズンはバルジーニが未だ近くにいる事を知っており、わざと牽制する意味でこの話を聞かせたのだ。


 イズンが判断した通り、バルジーニは鍛冶に対しての妥協は一切なく、不当な評価をするつもりはなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ