忘れていた!!
俺はアンノウンを率いるNo.0。
そして、バイチ帝国の帝都のギルドに勤務する、副ギルドマスター補佐心得のジトロだ。
俺達の拠点の設備も充実し、温泉設備の他にナップルやディスポ、そしてNo.10の強い要望により、鍛冶場も再整備されている。
フフフ、そう、既に知っての通り、我らが拠点についに待望の温泉施設が完成したのだよ。
これで、お小遣いが少なくて温泉に行けなかった俺も、施設の温泉に浸かりたい放題だ。
俺はもっぱら温泉に籠っているが、鍛冶場は別の人間が籠っている。
そこには、毎日毎日三人が楽しそうに話をして何かを作っているが、ついこの間できた試作品は炸裂玉と言う物だった。
ここに魔力を流し込むと、魔力を流し込んだ時間と同じだけの時間が経過した時に炸裂するのだそうだ。前世で言うタイマーがついている爆発物と言った所か?
拠点からかなり離れた森でテストをしたようなのだが、大爆発の振動が拠点にも伝わって来た為、拠点内部は一瞬で緊急厳戒態勢となり、その時拠点にいたナンバーズの数人が爆心地へ急行した。
即報告が上がってきたのだが、そこには立ち尽くしているナップル、ディスポ、そしてNo.10の三人がいたそうだ。
その眼前には大きなクレーターを中心として、爆風によって飛ばされた森の痕、まさに地平線が見えそうなほどの荒野が見えたとの事。
その姿を見た瞬間、またしても何かやらかしたのだろうと判断したナンバーズは警戒態勢を解くように、即指示を出していた。
当然その後の三人はイズンにこっ酷く怒られて、二か月のお小遣い停止の刑を食らい、全員もれなく涙目になっていたので骨の髄までイズンの恐ろしさを感じていたに違いない。
この頃になると、ナップルもどこかの町で買い物や食事を楽しむ余裕が出てきていたので、お小遣い停止の刑はかなり堪えたようだ。
ナップルにとってみれば、初めての経済制裁とスイッチの入ったイズンからの説教。
トラウマにならないかが心配だったが、共に怒られた二人がいるので、その様な事にはならなかったようだ。
まっ、いくらスイッチが入っているとはいえ、イズンはその辺りもきちんと考えて行動できるはずだからな。
だが、のんびりしつつも、元クソギルドマスターが所属していた組織バリッジの情報収集は継続しているが、中々尻尾を掴むことが出来ない。
そんな事を考えている俺は、実は今日は休みなので拠点の温泉で一杯ひっかけている所だ。
そこにバイチ帝国の帝都のギルドで働いているアンノウンゼロの一人、ランスから念話で連絡が来た。
『ジトロ様、以前バイチ帝国のアゾナ宰相からアンノウンの首領として面会を希望されているとの話でしたが、お聞きになっていますか?』
やばい!そう言えば、以前あの元クソギルドマスターの事件の際にそんな事を言われたと、No.7が言っていたな。すっかり忘れていた。
『ああ、聞いていたが、すっかり忘れていた。だが、何故今頃?』
『今、ギルドに宰相が来ているのですよ。そして、ギルドマスターのグラムロイスさんに、この件でギルドに何か情報がないか確認しているのです』
あまりに放置しすぎて、痺れを切らして自分から動いたと言う所だな。
どうしよっかな~。せっかくの休みに、温泉に浸かりながらの一杯。
そんなに年齢を重ねた訳じゃないけど、結構お酒って美味いのな?
こんなに幸せな時間を過ごしているのに対応するの、面倒くさいな~と思わなくもないが、バイチ帝国は犯罪奴隷以外の奴隷制度を認めていない国家だ。
彼等との縁は大切にしなくてはならない。
『ランス、俺が今日の夕方にNo.0としてギルマスの部屋に転移するから、その旨そこにいる宰相とギルマスに(魔獣の)力を使って、上手く伝えてくれ。手紙を置いておくのが良いかもしれないな。頼んだぞ』
『承知しました』
確かに、あの時からかなりの時間が経過してしまった。
宰相や騎士隊長には悪い事をしてしまったな。
『ジトロ様。宰相とギルマスとの面会の為に、今日の夕刻にギルマスの部屋に直接転移すると書いた手紙を二人の懐に忍ばせておきました』
流石は、アンノウンゼロの一員。仕事が早い。そして、魔獣の力を完全に使いこなせているな。
『ありがとう。じゃあ、今日の夕方にそっちに行くけど、受付には行かないと思うから、俺の事を待たずに帰っていいぞ』
『承知しました』
ランスの仕事は早いけれど、今の俺の動きは限りなく遅い。
まだ夕方まではかなりの時間があるので、もう少しここでゆっくりさせて貰うつもりなのだ。
この位は良いだろう?
今まで他のメンバーが、俺の目の前を通過して楽しそうに温泉に向かう様を嫌という程見させられていたのだから、その分を今取り戻していると言えなくもない。
そうそう、イズンも温泉に入った瞬間に虜になり、俺と同じく時間を見つけては拠点の温泉に入り浸っている。
彼曰く、
「この温泉と言う物はとても素晴らしいですね?ジトロ様。これならば他の面々が温泉を渇望するのも理解できます。今まで私は、人生の幸せの一つから目を背けていたのですね。いや、本当に素晴らしい」
だそうです。




