新たなアンノウンゼロの誕生(3)
有得ない力の説明を受けて、有得ない現象を目の前で見させられたナップル。
この部屋に来る前までの緊張は一切消え去り、驚愕・動揺に襲われていた。
「それで、ナップルにもこの魔獣を一体つけようと思う。No.2、出してくれ」
またもや音もなく現れるナンバーズの一人、No.2。
「承知しました」
その言葉の直後に突然目の前に現れる犬の魔獣。
体はナップルよりも大きくふわふわの毛におおわれており、尻尾をはちきれんばかりに振っている。
「この犬に見える魔獣も、イズン達、アンノウンゼロについている魔獣と同じ場所にいた魔獣で、今回ナップルの為に新たに俺達の仲間になって貰った。No.2の力でテイムされているから、完全にナップルの指示に従うようになっている」
恐る恐る犬の魔獣に手を伸ばすナップル。
犬の魔獣が目を細めて嬉しそうにナップルの手を受け入れてくれると、体全体を使って魔獣を撫で始めた。
「気に入ってくれたようで何よりだ。だがナップル、お前はまだその魔獣の力の使い方を理解していない。それに、その魔獣本来の力ではない念話と言う能力も、そこにいるNo.10の作った魔道具で使えるようにしているからな。説明を聞きつつ、魔獣の力を引き出せるように、暫くは鍛錬してくれ」
「はいっ!!ありがとうございます、ジトロ様。私、本当に嬉しいです。こんなに沢山の仲間ができて、こんなに可愛い魔獣をつけて頂いて……幸せです!」
「喜んで貰えて嬉しいよ。ちなみに、今月からナップルも俺達と同じくお小遣い制になる。聞いていると思うけど、君の力を借りてこの拠点の中に温泉を作りたいんだ。その建設にかかる費用が、均等に全員のお小遣いから差っ引かれるから、期待するほどでないかもしれないけどな。魔獣の力で身の安全が確保できて、転移もできるようになれば、どこかの町に行って、好きに買い物とかすると良いよ」
「No.0。彼女の場合、温泉建設の中核を担う訳ですから、天引き分は無しの予定です」
イズンの提言に、少しだけ驚いた顔をしたジトロ。
だが、イズンなりのナップルの励ましの一環。
慣れない環境での生活に、少しでも早く慣れてもらうための一助であると理解したジトロは、微笑むだけで何も言わなかった。
が、心の声は別だ。
<イズン~、お前の行動は素晴らしいよ?でも、俺の立場もあるじゃん?もう少しだけ、本当に少しだけでもお小遣い、値上げしてくれても良いのにな~>
こんな感じだ。
こうしてナップルもアンノウンゼロの一員として、仲間として、この拠点で生活する事となった。
もちろん温泉の建設も開始され、ナップル自身の修行も開始されている。
もう暫くすれば実戦形式の訓練、ダンジョンの中での訓練も行えるようになるだろう。
ナップルとしてはこの組織に大恩があるので、建設、訓練、全てに全力で当たっていた。
「ナップル、無理していないか?アンノウンでは無理な仕事をしているとイズンから厳しい罰、経済制裁と言う名のお小遣い停止があるからな。気をつけろよ!」
ナップルは未だ一人で拠点の外に出られる域に達していない為に毎日温泉建設と修行を行っているが、他の面々は、アンノウンゼロとしての任務でそれぞれの配属先に向かっている。
結果的に日によって建設に従事している人が異なるのだが、全員が気楽に話しかけてくれている。
ただし、一部のアンノウンゼロはこの拠点配属となっているため、毎日ナップルと同じように温泉建設に勤しんでいる。
それは拠点と金銭を管理するイズン、そして、ナップルと同様に、鍛冶を得意としているディスポの二人だ。
ナンバーズは今日も今日とて、高ランクの魔獣を狩りに出かけ、アンノウンの資金を稼ぎに行っている。
ただしこちらも持ち回りで、必ず最低一人は拠点に常駐するようにしている。
これはジトロの指示によるもので、万が一の安全のためだ。
こうして日々活動していると、やがて拠点に待望の温泉施設が完成し、更に数日後、ナップルの修行も完了した。
温泉が完成した当日……
「やったぜ~、温泉だ!!」
叫び声と共に温泉に向かうアンノウンゼロの面々。
そして、その先頭には何故かジトロがいたとかいないとか……
 




