ドワーフのナップル(5)
No.9とNo.10は、ようやく目的の人物を劣悪な環境から開放できたと安堵するが、未だここはラグロ王国。
そして、工房の中だ。
炎龍の牙の加工について、夢中になっている工房の面々がいつ戻って来るかもわからない。
先ずはナップルの安全を確保して、更には奴隷の首輪を破壊する必要があるので急ぎ拠点に戻りたいところだが、首輪の所有権が書き換わっていない状態で主と認識させられている者から許可なく距離を取ると、その命に危険が及ぶ可能性がある。
その為、その場で一先ず奴隷の首輪を破壊して、即座に帰還する事にした。
彼女達の魔力レベルがあれば、奴隷の首輪の破壊など問題なくできるようになっている。
もちろん、その行動を見られないように監視をするのは忘れない。
「ナップルさん、約束を果たしに来ました。これであなたは自由です」
「そうです。でも、先ずは体を癒すために私達の拠点に来ていただきたいのです~。そして、体が治れば、もしよければ錬金術について私に教えて頂けるとありがたいのですが〜」
破壊された奴隷の首輪を持ちながら話すNo.9。
そして、ナップルを気遣いながらも、本来の目的である錬金についてのお願いをしているNo.10。
その二人を、唯々不思議そうに見つめるナップル。
「え~っと、ナップルさん?」
「お気持ち、わかります~。突然奴隷から解放されて自由だとか言われても、困惑しますよね~?私も、正規の手順を踏まずに首輪を取って頂いた時はとても驚きましたから。ですが、あまりこの場にいるのは良くありませんので、申し訳ありませんが一旦私達と共に来ていただきますね~」
ナップルの手を取り歩き出すNo.10。
奴隷の首輪を粉々にして、店の中に放り投げて後ろをついて行くNo.9。
いつもの通り、人気の無い位置を探して移動する。
早朝の為か、冒険者達が活動している工房が立ち並ぶ通りや、ギルドの通りを外れれば、すぐに人気は無くなった。
「ナップルさん。申し訳ありませんが、少しだけ、本当に少しだけ目隠しをさせてくださいね~」
ナップルと手をつないで歩いていたNo.10が、申し訳なさそうに優しくその手に持ったハンカチでその目を塞ぐ。
No.10がNo.9に目配せし、No.9が三人を転移で拠点に連れて行く。
No.10は、ナップルの状態をくまなく観察しているので、転移の発動はNo.9に任せていた。
「さっ、着きましたよ~。先ずはここでゆっくりと養生してくださいね~」
ナップルとしては、突然目隠しをされたかと思った直後に到着したと言われて目隠しを外されたのだから、訳が分からない。
その目を開くと、たしかに今までいたラグロ王国の街並みではなく目の前には巨大な城と庭、そしてこの場所を囲うような高い壁が見えた。
「フフフ、ここは安全ですよ~。あなたに危害を加えるような愚か者はいません。それに、この拠点を守ってくれている龍もいるのですから~」
自分達が紹介されたと思った二匹の龍は、嬉しそうに近づいてナップルに声をかけた。
「「きゅ~!!」」
彼女達にしてみれば、よろしくね??程度の挨拶だったのだが……
「え、きゃ~~!!」
No.10が軽い気持ちで炎龍のピアロとコシナを紹介したのだが、その龍二体を目にして襲われると思ってしまったナップルは絶叫の後に気絶してしまった。
「あれ?ナップルさん?ナップルさ~ん!!」
こうして、いつも通りのNo.10の行動によって自動的にナップルは深い眠りにつく事ができた。
もちろんアンノウンのメンバーがその悲鳴を聞きつけて庭に出てきたが、気絶しているナップルと首をかしげているNo.10、やれやれと首を振っているNo.9、止めに目の前にはおろおろしているピアロとコシナがいるのを見て、またNo.10が何かやらかしたのだろうと判断して自分の持ち場に戻る。
ただし、彼らはNo.10に支えられている人物がドワーフである事は見て明らかなので、今後の展開、そう!温泉の建設に取り掛かれるのではと言う期待に満ちた視線を向けていた。
No.6は、ナップルの状態を即座に判断してその体を完全に癒してから持ち場に戻った。
「もう、何をやっているのNo.10?弱っている所に突然炎龍なんて突然紹介したら驚くに決まっているでしょう?」
「えっ、あっ、そうでした?そうでしたね~。ごめんなさい。いつも一緒にいるから、お友達として紹介したつもりだったのです~」
シュンとするNo.10を見て、それ以上は言えなくなってしまうNo.9。
そもそも弱っていなくても、炎龍を突然紹介されれば驚いてしまうのは間違いないので、この辺りに関して言えばNo.9もNo.10とあまり変わらない。
「仕方がないわね。とりあえず部屋に寝かせて、ジトロ様とイズンに報告しましょう?」
「イズンはさっきこちらに来ていましたね?ジトロ様はギルドでしょうか~?」
No.10の言う通り、既にジトロは出勤しており、イズンは先ほどの悲鳴を聞きつけて庭に来ていた。
「そうだったわね。イズンならあの状況で全て理解しているでしょうね。ジトロ様には急ぎではないから、今日の夜に報告で問題ないかしら?まっ、イズンには、目的の人を連れてきたとだけ伝えておきましょう。そうすればジトロ様へ急ぎ報告する必要があるかは、彼が判断してくれるはずよ」
「そうですね~。イズンにお任せしましょう」
面倒くさい事はイズンに丸投げし、No.10はナップルがこれから錬金術についての先生になってくれる事への期待、No.9は温泉ができる事への期待を胸に、早朝ではあるがこの二人はその日の活動を終えた。
もちろんジトロ副ギルドマスター補佐心得は、その日も朝から夜まで必死にギルドで働いていたのは言うまでもない。




