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ドワーフのナップル(4)

 その内容で証文を作成するため裏に引っ込んだ鍛冶士の代わりに、生気が無く、やせ細ったナップルが現れた。


「えっ、ちょっとナップルさん、大丈夫ですか?酷い……」

「ナップルさん、しっかりしてください~。私、あなたに錬金術について教えて頂きたくてここまで来たのです〜」

「……そうだったの。でも無理よ。今の私はこんな状態。それはこれからもずっと変わらない」


 少し涙目になりながら、絞り出すように声を出すナップル。


「大丈夫です。今、私達あの鍛冶士と交渉しました」

「そうです。私達が龍の牙の欠片を納品すれば、貴方は自由です~。その時、私達と一緒に来てくださいませんか〜?」

「何を言っているの?龍の牙なんて手に入る訳ないじゃない。変な期待を持たせないで!!」


 有得ない提案に、語気を強めるナップル。


 龍の牙……それほど貴重な物だとは思ってもいなかったモモ(No.9(ノイン))とナナ(No.10(ツェーン))。


 彼女達の拠点には、二匹の炎龍が、番犬よろしく庭に放し飼いになっているからだ。


 ここでようやく龍の牙があまりにも貴重な素材であり、この話を一切信じて貰えていないと判断できた二人は、念を押すように、優しく伝える。


「ナップルさん、今から鍛冶士が証文を持ってきます。そこには龍の牙と引き換えに、貴方の身柄を私達に移すと書かれています。もちろん私達は、貴方を奴隷のままにしておく事は絶対にしません」

「今の状況では、私達の言う事を信じられないのもわかります。なので、明日。またここに来ます。言葉ではなく、行動で示します。必ず来ますから、待っていてください!」


 No.10(ツェーン)も普段の少々間延びしたような話し方ではなく、とても真剣になっている。


 ナップルは何も言わずに、鍛冶士の持ってきた証文を確認する事すらせずに、奥に引っ込んでしまった。


「どうだ?嬢ちゃん?話は終わったか?」


 鍛冶士は、出来立ての証文を持ちつつ話す。


「ええ、大体終わりました」

「そりゃよかった。これで諦めもついただろう?」


 その後、証文の内容を確認して魔力を通し、互いの契約として締結した。


 魔力レベル0が証文を用いて契約を行う場合は、魔力レベルのある人物が代理で行う必要があるのだが、この場では問題なく締結できた。


「では、この証文の契約の通りに龍の牙の欠片を納品した時点で、ナップルさんの借金は一切なくなり、その身柄は私達が貰い受けると言う事になります」

「おう、そうだな。まっ、期待しないで待ってるぜ!」


 もしこの二人が契約の通り龍の牙の欠片を持ってくればかなりの幸運だと思っている鍛冶士は、期待するでもなく、軽い気持ちで了解の意を示すと奥に引っ込んでいった。


「急いで戻りましょうか?」

「そうですねっ!」


 二人は必ずナップルを救い出す事を決意した。


 鍛冶士の仲間が欲しいのもあるが、借金奴隷になっていた事には驚きつつも本人のあの人柄、そして最初の工房の店員の態度から、本人に罪はないと判断していたからだ。


 過去の自分達と同じで、奴隷として劣悪な環境に置かれているナップル。


 そんな彼女を助けたい一心で拠点に戻り、事情を全員に説明した。


「ジトロ様、イズン、ドワーフの女性を見つけました。ですが、私が当初見つけたお店にはいなくて、いつの間にか借金奴隷として別の工房で働かされていました。扱いは悪く、やせ細って生気もなかったのです!!」

「私達は、彼女は冤罪であると判断しています~。何とか救えるように交渉し、借金の代わりに龍の牙の欠片を持って行けば、身柄を渡してくれる事になっています〜」


 ジトロは、少し残念そうにして呟く。


「そうか、奴隷になっていたか」


 イズンもそれに続く。


「まったく、ラグロ王国も救えない国ですね。ジトロ様、今回はピアロに少々牙を分けて頂いてはいかがでしょうか?」

「そうだな。その後は、No.6(ゼクス)の力で回復させてあげてくれ。頼んだぞイズン」


「承知しました。No.6(ゼクス)、お願いしますよ?」

「わかりました、イズン、ジトロ様」


 こうして、番龍として庭にいるピアロから牙を少々得たNo.9(ノイン)No.10(ツェーン)は、翌日早朝からラグロ王国に向かった。


 もちろん、事情をピアロに話したら、自らの手で牙を少し削って落としてくれた。


 魔道具を通して理解できた炎龍ピアロの意思は、仲間となる者を救えるのなら牙程度は喜んで上げると言う物だった。


 欠けた部分の牙は、当然ジトロの指示通りNo.6(ゼクス)が完全に修復している。


「「おはようございます!!」」

「おっ、なんだ?嬢ちゃん達。昨日の今日でどうした?何か武器が必要になったのか?」


「いえいえ、違います。昨日の契約を果たしに来ました」

「はい~、これです!」


 そう言いつつ、昨日少しピアロから貰った牙の欠片を取り出して、鍛冶士に渡す。


 暫くその牙の欠片を見ていた鍛冶士、そう易々と御伽噺レベルの素材が手に入るとは思っていないようで半信半疑の表情だが、ある程度熟練の域に達しているのか、普通の素材ではない事は理解できている。


「えっと、早く鑑定でもして、ナップルさんをこちらに渡して下さいよ~!」

「そうですよ。申し訳ありませんが、少々急いでおりまして……」

「まあ落ち着けよ、嬢ちゃん達。この欠片、昨日の今日だぞ?龍の牙の欠片だと、そう簡単に信用する訳にはいかないのは理解してくれ。おい!レグラン、こっちに来てくれ!!」


 レグランと呼ばれている男が、面倒くさそうに表に出てくる。


「この牙の欠片、鑑定してくれ」

「なんですか?この牙。随分と……はぁ??おいおい、コレ、どこで手に入れたんですか?いつ、だれが??えっ???」


 かなりの動揺具合だ。


「これは伝説の、しかも最上級の炎龍の牙ですよ!!!」


 興奮するレグランをよそに、黙りこくってしまう鍛冶士。


「本当だったのか」


 絞り出した自分の一言で、ようやく我に返る事が出来たようだ。


「そう言っているじゃないですか~。早くナップルさんをこちらに渡してください」

「あ?ああ、良いだろう。契約だしな。魔力で縛られた証文を破る程俺達はバカじゃない。いや、しかし、どうやってこんなレア中のレアの素材を持ってきた?」


「それは企業秘密です~」

「フハハハそりゃそうだろうな。わかった。また良い素材があったら、ぜひ俺のところに持ってきてくれ」

「考えておきます~」


 二人は、その場では適当に返事をするが、ナップルを奴隷としてこき使うような店に素材を持ち込むつもりは一切ない。


 そして、奥からヨタヨタと出てくるナップル。


「おい、ナップル!お前はこの嬢ちゃん達にたった今買われた。せいぜい尽くすんだぞ」


 炎龍の牙に意識が向いており、既にナップルに興味がなくなった鍛冶士を含む店の面々は、早く出て行けとばかりにナップルを二人に渡すと盛り上がりながら工房の奥に消えて行った。


 本来は、奴隷の首輪の所有権を書き換える必要があるのだが、それすら忘れるほど炎龍の牙に意識が向いてしまっていたのだ。

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