ドワーフのナップル(1)
ここは、No.10が、以前自らの錬金術を鍛えるために訪れた国家、ラグロ王国。
この国は錬金術が盛んで、戦闘に関連する武具やアイテム、生活に必要なアイテム等を作成し、積極的に輸出する事で成り立っている国家。
ナンバーズやアンノウンゼロの面々が拠点から離れて活動を行うようになり、外部の膨大な情報を得られるようになって、その存在を確認した国家であった。
残念ながら、このラグロ王国も犯罪奴隷以外の奴隷制度を認めている。
逆に言うと、この世界で通常の奴隷制度を認めていない国家であるバイチ帝国の方が珍しいのだ。
その国家のメイン通りにある、とある工房。
ここには数多くの鍛冶士や鑑定士が務めており、数多くの高品質な武器やアイテムを生み出している有名な工房だ。
もちろんその分素材の入荷量も膨大な量になり、素材の鑑定を行ったり加工を行ったりする以外の、例えばその素材を加工場所に準備したり買い取りの処理を行ったりと、雑務も膨大な量になる。
「まだ素材を準備してないのか!このグズが!!」
ドカッ……ガラガラ……「痛っ・・・・・・」
この店での日常の音、そう、気性の荒い職人が雑務を行っている者に対して暴言と共に、暴力を振るっているのだ。
その対象は、奴隷の首輪をしているドワーフの女性ただ一人。
実は、彼女はこの国の他の工房で鍛冶士として働いていた。
しかし、彼女の作った類稀なる武具やアイテムを妬んだ同僚達が彼女を罠にかけて、無実の罪であるにもかかわらず大量の借金を負わせた事により、借金奴隷となって売り払われた。
それを購入したのが、この工房と言う事になる。
もちろん罠にかけた彼女の元同僚と、この工房の職員はグルだ。
この工房の職人達も、若くして素晴らしい製品を作り出すこの女性に嫉妬しており、借金返済後に開放されて再び彼女の製品が世に出る事を防ぐため、事あるごとに彼女の仕事ぶりを否定し、借金返済に充てられる給金を巻き上げている。
今現在の彼女の借金は、虹金貨八枚(8000万円)相当額だ。
理不尽な利息が設定されている為、日々その借金は増え続けている今の環境にいる限り、一生借金奴隷である事は間違いない。
彼女にとってみれば身に覚えのない罪を着せられ、気が付けば虹金貨八枚(8000万円)と言う、とてつもない借金を抱えて新たな職場では理不尽な扱いを受け続けている。
ある程度時間が経過してからようやく自分の置かれた状況を把握した彼女は、既に何に対しても興味が無くなっていた。いや、無くすしかなかった。
いくら働こうが否定され、暴力を振るわれる。
そして、何故か借金は増え続けている。
かろうじて、朝と夜には少しばかりの食事が出るのが救いだが、日々衰えている体力。
心身共に疲れ果て、希望と言う言葉を忘れてしまっていた。
目的の人物がそんな状況に陥っているとは知らないアンノウンの二人は、冒険者としてラグロ王国を訪れていた。
ナンバーズとしての活動ではないので、冒険者としての名前で動いているNo.10ことナナと、No.9ことモモ。
「ねえ、ナナ(No.10)、貴方が言っていた工房ってあそこじゃない?」
「そうです〜、そうです〜。あそこの武具、あの人の作る武具は素晴らしかったんですよ〜」
「あなたが言うならば、よっぽどなのね」
「そうです~。何というのでしょうか、私ははっきり言えば力技じゃないですか~?でも、彼女の作品は違うのです。緻密に計算されつくされたと言いますか……」
「確かに、貴方の作るアイテムって結構力技よね。機能は良いけど、犬達の首輪もそうだし……」
「あぅ、少しは否定してくださいよ~?」
こんなやり取りをして店に入る。
「ねえ、ナナ(No.10)?これがあなたの琴線に触れたの?」
「えっ??えっ???なんで???」
彼女達の前に並んでいるのは、別段特筆するべき所のない武具やアイテム。
いくら錬金術に長けていないモモ(No.9)でも普通か、少し上等レベルと言う事くらいは理解できる製品だ。
「いらっしゃいませ。当店自慢のアイテム、いえ、お姉さんたちは冒険者の様ですから、こちらの武具はいかがでしょうか?」
見た目の良い二人に向かって、営業スマイルを張り付けた店員がやってくる。
「あの~、すみません。こちらに以前お伺いした時に、ナップルさんの作品を見たのですが、彼女はいないのですか?」
ナップルと言う名を聞いて、あからさまに不機嫌になる店員。
「あ~、あいつなら、店の収益をちょろまかして大損害を与えたので、借金奴隷になりましたよ」
もちろん、この店員もナップルを嵌めた内の一人だ。
「えっ?それじゃあ、今ナップルさんは何処にいるのですか〜?」
「そんな借金奴隷の事など良いじゃありませんか。それより、こちらの武具はいかがですか?これは私が丹精込めて作成した最高傑作ですよ!」
焦るナナ(No.10)に対して、自らの武具を売りつけようと必死の店員。
そこに、冷静なモモが割って入る。
ジトロがモモ(No.9)を同行させたのは、突拍子もない行動をする時の有るナナ(No.10)だけでは、先行き不安だったからだ。
その不安は的中し、使い物にならなくなっているナナ(No.10)の代わりにモモ(No.9)がナップルについての情報を聞き出そうとする。
「なるほど、素晴らしい武器ですね。それで、実はこの娘、ナップルさんに貸している物がありまして、その返済についての話を聞かせて頂こうと思っていたのです。できれば、所在だけでも教えていただけませんか?」
あたかも、店員が作った武器を興味深層に触りつつ、情報を引き出そうとするモモ(No.9)。
もちろんナナ(No.10)が何かを貸しているなどと言う事は無いのだが、こう言っておいた方が、この店員の口は開きやすいと判断したのだ。
その判断は正しかった。
店員は、ナップルの借りている物は、勝手にお金だと判断した。
つまり、更に陥れる対象の借金が増える事になるので、喜々としてナップルの販売先を教えた。
「ありがとうございました。武具は、ナップルさんとの話が終わりましたら、時間が空き次第またこのお店に来させていただきますね」
明らかに、張り付けたような笑顔を見せて店員に挨拶するモモ(No.9)。
だが、店員にとっては、美人が自分の武具を気に入っており、再度この店に来ると疑っていなかった。




