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拠点での紛糾

 バイチ帝国での温泉建設業務から解放された日。

 いや、実際は高ランク冒険者達に温泉施設が解放された、二日目。


 その日の夜に、拠点では珍しくアンノウンゼロの面々が紛糾していた。


「だから、イズン。お前はバイチ帝国の露天風呂に入っていないから、あの良さがわからないんだよ。この拠点にも、露天風呂があったら一日の疲れが吹っ飛ぶだろ?」

「そうね。私もバイチ帝国の露天風呂には入った事は無いけれど、今任務に就いているスミルカの町の露天風呂は素晴らしかったわ」

「ハンネル王国の王都にはその様な施設は有りませんけど、私の勤務する宿泊所では、大きなお風呂があるのか聞かれることがありますね」


 つまり金庫番であるイズンに対して、この拠点に露天風呂を造るための支出を認めろ…と言っているのだ。


 だが、守銭奴……ではなく、アンノウンの頼れる金庫番からお金を引き出すのは、並大抵の事では不可能だ。


 俺でさえ、お小遣いの値上げを突っぱねられているからな。


「皆の言いたい事はわかりました。ですが、建設には時間と労力、もちろん材料は自分達で調達するにしても、それなりの費用が必要になります。それに、ある程度の構造はジトロ様に頼る事になるとしても、実際の建設の技術を持っている者がこの中にいますか?仮に外部の人間を連れてくると、情報漏洩の心配もあります。そんなリスクを負って迄必要なのですか?その建設にかかる時間と費用があるのですか?」

「いやいや、先ず資金だが、ナンバーズがかなりの素材を換金していただろ?金庫番として把握しているだろう?」


「バカたれ~!!良いかフリーゲル!!このお金は、大切なアンノウンの活動資金だ。これから、正体不明の組織バリッジと向き合うためには、万全を期さなくてはいけないんだ。わかるか?わ・か・る・よ・な???」


 うっ、フリーゲルの奴、イズンのスイッチ入れやがった。何て事をしてくれるんだ。

 フリーゲルは、スミルカの町の食事処に勤務しているアンノウンゼロの一人だ。


 彼も、拠点の外で任務に就くようになってから、スミルカの町の露天風呂を経験し、時間を見つけてはお小遣いの許す範囲で足しげく通っているうちの一人だ。


 一方のイズンは、お金の事になると少々性格が変わる時がある。


 とは言っても、俺達アンノウンの為に必死で管理してくれているのだから文句はないのだが……


 既にスイッチが入ったと理解したメンバーは、少々二人から距離を置き始める。


 なるべくイズンの視界に入らないように、動きを悟られないようにするのだ。


 当然、ナンバーズの面々も同様の行動を取る。


 スイッチの入っているイズンの機嫌を損ねると、たとえナンバーズであろうとも容赦のない経済制裁、そう、お小遣い停止の刑が待っているからだ。


 もちろんその資金の出所は、ナンバーズ達による高ランク魔獣の素材換金によるものだ。


 最近はアンノウンゼロの活動による収入も入りつつあるが……それと、俺の給料な。


 彼女達は、やろうと思えば換金の金額をちょろまかしたり、魔獣の数や種類を偽る事によって懐を潤す事もできるだろう。


 しかし、何故かイズンの人の挙動を見る目、いや、金銭に係わる事に関する心眼とても言うのだろうか、ずば抜けているのだ。


 一度その刑を経験してしまったNo.6(ゼクス)なんかは、その当時の事を思い出したのか少々涙目で微妙に震えている。


 そして現在進行形で怒られているフリーゲルは、今の今まで露天風呂推進の先鋒として話をしていたキロスとアガリアに必死で救助の視線を送るが、二人は視線を逸らすだけ。


 彼女達も、イズンの経済制裁を心から恐れているのだ。

 わかる、わかるぞ!その気持ち。


 実は、この状態のイズンに何か物申す事ができるのは同じアンノウンゼロのノエルだけなのだが、彼女は微笑みながらイズンの話を聞いているだけだ。


 これは、仲裁に入る事はなさそうだな。


「ですが、あなた達の士気が下がってしまうのは本意ではありません」


 と、ここでイズンから譲歩ともとれる言葉が出てきた。


 一気に希望の光が見えたかのような表情をする、アンノウンゼロのメンバー。


「そこで、私から提案です。先ずは、建設に係わる方々についてはドワーフの方でもいらっしゃれば早いので、人材の確保から始めましょう。十分な身辺調査、そして、この拠点に来る際には魔力封じの腕輪の装着、更には目隠しの上で来ていただきます」

「あ、ちょっと待って下さい~、ドワーフなら一人だけ良い人を知っています」


 ここで、No.10(ツェーン)が割り込んできた。

 ま、彼女の得意分野は錬金術でもあるし、ドワーフ族に知り合いがいてもおかしくはないだろう。


「その人、いえ、私達と同年代なのですが~、随分と前に工房を見に行った時に、彼女の作った製品を見ました。名前は確か、ナップルさんでした~。それは素晴らしい出来で~、一度、話を聞かせてもらいたいと思っていたのです。錬金の技術向上のために見学させて頂いた工房でその姿を見たのですが……」

「「良いじゃない(か)」」


 最早、身辺調査する前に採用決定しそうな勢いで、アンノウンゼロのメンバーが騒ぐ。


 そもそもそのドワーフが仲間になってくれるかも決定していないし、俺達の秘密を共有するに値する人物かもわかっていないのだが……


「まあ、待ってくださいよ。まだ決定した訳じゃないですから」


 少しイズンは落ち着いてきたようだ。


「では、そのドワーフ族の確保と身辺調査、No.10(ツェーン)でお願いできますね?それで良いでしょうか、ジトロ様?」

「えっ、ああ、良いよ。No.9(ノイン)も念のため同行しておいてくれるか?」


 俺としても、この拠点に露天風呂ができるのはありがたいからな。


「では、ジトロ様の許可も得られたので、そのドワーフが我らの仲間になるのであれば温泉の建設を許可しましょう。ですが、その建設に係わる費用、皆さんの小遣いから天引きですよ?」

「「「「「「「え“~~」」」」」」」


 大絶叫が拠点を包む。もちろんその中に俺の声も含まれている。


「えっと、イズン……くん?まさか、その皆さんの中に、俺は入っていないよね?」


 ここだけはどうしても確認しなくてはいけない所だ。


「いいえ、残念ですがジトロ様、私も含めて全員から均等に徴収します」


 くっ、だが、イズン自身にも同様の徴収をするのであれば、俺が我儘を言う訳には行かない。


 ナンバーズも含めて、泣く泣く全員がイズンの提案を受け入れた。


 だが、これでドワーフ族のナップル?と言う娘が仲間になってくれれば、温泉施設は確約されたも同然だ。

 多少の金銭的なダメージは許容するとしよう。


 自分もダメージを共同で負う姿勢、こう言った所がイズンの信頼できる所であり、アンノウンのメンバーからも金銭管理において絶対の信頼を得ている所以だ。


 もちろん、金銭に関して、俺はイズンに全ての権限を与えている。


 だが、その内お小遣いは、少しで良いので値上げしてもらいたい。

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