俺はジトロ(1)
俺は“正義”改め、ジトロ。
冒険者の両親の元に産まれた、健全な少年だ。
希望通り、貴族や王族の元に産まれなくてホッとしている。
そして、あの時に聞き忘れていたが、男として生を受けて安心している。
記憶があるまま女の子になってしまっていたらと思うと、わかるだろ?
今の俺は四歳。ようやく前世の記憶を完全に思い出し、同時に習得していた空手の動きと魔力の鍛錬を日課として取り入れて生活している。
確かにこの世界、俺が生活している周辺には魔獣がいるようだが、魔力レベルが2の母親、4の父親でも難なく倒せる魔獣しかいないらしい。
しかも父親に至っては魔力レベル4の為、この町の英雄レベルで敬われている。
この世界では魔力が重要だと言う事は理解できている。では、魔力があるとどうなるか……
体力、体の動きが上昇し、魔力の使い方によっては回復や魔法、防御力上昇、挙句の果てには魔獣の従属、所謂テイムにも使えるらしい。
もちろん武器を使う戦闘の際にも、魔力の有無で力が大きく変わってくる。
フフフ、まさに俺が待ち望んでいた世界そのものだ。
そして、俺の魔力レベルはと言うと……あの女神様、やって下さいました。
∞。8を捻って∞。
わかります?“む・げ・ん・だ・い”。
自分の魔力レベルはステータスで見る事ができるし、必要に応じて他人にも見せる事ができる。
しかし、俺はこの数値を誰にも見せる訳にはいかない。
前代未聞のレベルなのでそもそも理解されずに不安がられる可能性もあるし、この力を理解した者には……前世のように妬み程度で済めばいいのだが、強引に配下にしようとする者もいるかもしれない。
最悪力ではかなわないと知ると、両親にまで矛先が向かう可能性があるのだ。
そんな事から、ひたすら秘匿する事にした。
当然日課の魔力の鍛錬は、あふれ出る魔力を抑える方向の鍛錬に変わっている。
贅沢な鍛錬だ。
俺の記憶が完全に定着する前に体から溢れてしまっている魔力を心配していた両親も、今は普通の生活に戻っている。
両親としては、何か呪いのような物でも受けたのではないかと心配していたらしい。
「神様が夢の中で魔力レベルを与えてくださった夢を見たよ。少しだけ高めのレベルを与えて下さるので、なじむまでは体の外に魔力が溢れる事があるって言っていたよ」
無邪気な何も知らない子供の振りをして、夢の話として両親に伝えた内容が安心できる要素になったのは言うまでもない。
四歳の子供が、そんな事を計算して伝えてくるなんて事はないからね。
俺は、溢れる魔力を完全に制御しつつ、魔力を使ってできる事を増やしていく事にした。
当然欲しいのは、回復、隠密、防御力、攻撃力、探索力と言った辺りだ。
魔力が∞もあればやりたい放題だと思ったのだが、力をうまく使うにはそれなりの努力が必要だった。もちろんできる事も無限大なのだが、扱う技量は努力と才能次第という事だ。
だが、幸か不幸か、前世での魔力に対する鍛錬がここで活きていた。
そうは言っても、厳しい壁にぶち当たる事もしょっちゅうだ。
例えば、この世界ではありえないとされている、力を並列で使用する事もとても難しい。
何せお手本がないので、自分で試行錯誤するしかないのだ。
大英雄と言われる魔力レベル10を持つ者も、魔力を使って身体能力強化を行ってしまうと他の能力を使う事はできないらしい。
彼等は、力をなるべく早く切り替える修練を必死でしているんだってさ。
つまり身体能力を極限まで上げて攻撃し、万が一攻撃魔法を使う必要があれば身体能力強化を解除して、なるべく短い時間で魔力を全て魔法生成に使用すると言う事だ。
そんな生活をしているのだけど、ここで俺の家族を少しだけ紹介したい。
今の俺の両親は、前世の両親と同じくとても優しく、懐の大きい人だ。
本当に恵まれている。神様、ありがとうございます。
父さんのレベルは魔獣を狩って行く内に上昇したらしく、現在はレベル4。既に知っている通り、この町の英雄的存在になっている。
その父さんを支える母さんもレベル2。父さんの補助をしつつ冒険者として活動している。
そんな両親は、俺の魔力レベルがゼロであると色々大変になるかもしれないと心配していたようだが、ゼロではないと理解した後は特に気にする素振りすら見せる事はなかった。
万が一、ステータスを見せろと言われたら困る所だったけど。
何故両親が俺の魔力レベルがゼロではないかと判断したかと言うと……体から溢れ出る魔力を見ていたのもあるが、遊びのふりをして俺が指の先から小さな炎を目の前で出して見せたからだ。
これは、魔力ゼロでは決して行う事はできない。
だけど一応これからの事を考えて、ステータス偽装の魔法を習得しようと練習していたりする。